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おいしい残留、ほろにが離脱?“Brexit”と英国の食卓

マイケル・ブースの世界を食べる 更新日: 公開日:

英国は決断した。スパム(缶詰ハム)とくたくたのニンジン、スープ缶とフィッシュフィンガーで帰結したのは「食」だった。52%の離脱派は、EU離脱に票を投じることで、大陸の隣人たちに、自分たちが「何を食べたいか」を明確に示したのだ。


「オリーブオイルとバゲットはまあいい。フェタ(ギリシャの羊やヤギ乳のチーズ)でも詰めておけ。シュニッツェル(ドイツのカツレツ)やスモーブロー(デンマークのオープンサンド)なんて願い下げ、レシュティ(スイスのポテトパンケーキ)にくさいチーズもご勘弁。トルテリーニ(イタリアのパスタ)にタパス(スペインの小皿料理)もうんざりだ。我々は加工肉と缶詰野菜がすべての1950年代に戻りたいんだ。それはそうと、キミ、ニンニクくさいぞ」

冗談はさておき、英国民がどちらに投票したのかと、彼らが何を食べているかには明らかな相関関係があるのは確かだ。英国内に存在する経済格差がもっとも顕著に表れるのは人々の夕げの食卓である。

大ざっぱに言ってしまうと、移民の割合が多かったり(離脱派の反移民キャンペーンにもかかわらず)、経済的に恵まれていたり、他の欧州諸国へのアクセスがよかったりする地域ほど、残留に票を投じている。

言い換えれば、日頃から異国の料理に親しみ、良質で新鮮な食材を買う余裕もあって、欧州内をしょっちゅう往来しているような人々は、これまで通りの外とのつながりを保とうとした。対して、離脱に票を投じた人々の中には、ただでさえ低い収入が減り続け、1回の夕食を10ポンド(1400円)以下に収めるため、大手スーパーのとらわれの身となって栄養価の低い大量生産の加工食品を食べるよりほか選択肢がない人たちがたくさんいる。無知ゆえ、あるいは経済的事情ゆえに、食の多様性や健康的な食生活といった発想とは無縁の人も多い。

「食べるもの」が示すもの

相当数の英国民が残留に投票したが、そこにもやはり明確な地理的特徴がある。残留派はそろってロンドン在住、離脱派はほとんどが田舎に住んでいた。

だからこそ、例外的なスコットランドが良くも悪くも際立つ。イングランド、ウェールズ、北アイルランドとともに「グレート・ブリテン」(もともとはフランスの都市Brittanyと区別するため「大きな」とつけられた)を構成するスコットランドは、間違いなく西洋一最悪の食習慣を誇る。移民もさほど多くないし、一般的にそれほど裕福でもないが、EU残留を望んだのだ。欧州どうこう(白身魚のフライ)の日々に戻ることを。移民問題に民主主義、官僚主義や主権についてさんざん議論を重ねてきた英国だが、去る国民投票の結果が本当の意味英ではなく、もちろん英国からの独立のために。さらに言えば、スコットランド経済は石油価格の暴落により、フランスへの良質な魚介類(自分たちはまず食べない)の輸出にこれまで以上に依存せざるをえなくなっている。ここでも、まわりまわって「食」の問題に行き着く。

軽薄なのは重々承知だが、ここには重要なポイントがある。広がり続ける格差が、もっとも色濃く反映されるのが、人々が何をどう食べるか、なのだ。英国の国民投票は、それを鮮やかに浮かび上がらせた。

だが、私は心配だ。肥満や糖尿病に苦しむ英国民は、自分たちが何を食べるべきかついて、欧州の人たちのアドバイスをかつてないほど必要としている。つながりを断っている場合ではない。