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南米チリを熱狂させたKポップ

ニューヨークタイムズ・マガジンから
南米チリとりかえ

What Does It Take for a K-Pop Band to Blow Up in South America?

3月のある朝、もしチリのテレビを見ていたとしたら、驚く場面に遭遇しただろう。ニュースの途中で突然、サンティアゴ国際空港の中継が入ってきたのだ。「チリビジョン」のリポーターが韓国の大人気男性グループ「防弾少年団」(BTS)の姿をとらえようと必死になっている。

BTSは、サンティアゴの巨大ドーム形スタジアム「モビスター・アレーナ」で開催されるコンサートのために到着したばかり。コメントこそとれなかったものの、横断幕を掲げたファンの人だかりの中をBTSが大勢のスタッフに囲まれて通り過ぎるのを、カメラはとらえた。リポーターが笑顔弾ける若い女性に話を聞くと、ハイテンションな声が返ってきた。「一晩中待ってたの」 ほとんど全世界で一世を風靡したKポップだが、日の浅いチリでの席巻ぶりは他に類を見ない。

そもそも、既存のラジオ局はどこもKポップに興味を示してこなかった。チリに輸入される音楽といえば、これまではラテンの影響を受けた「レゲトン」や「ヒップホップ」か、アメリカン・ポップスくらい。チリ国内では、オルタナティブポップや、アンデス音楽とエレクトロニック・ポップをかけ合わせた新世代フォークなど、国もジャンルも縦横無尽にした音楽がもてはやされてきた。

だからこそ、BTSとファンたちはネットの世界から潜り込んでいかざるを得なかった。彼らの玄関口となったのは、インターネットラジオの「コカ・コーラFM」。アメリカではほとんど知られていないが、実はチリでは14万人のリスナーを誇る人気だ。ここで、毎週金曜日、チリ人DJのロドリゴ・ガリーナによるKポップ番組が放送されている。 さらに、ソーシャルメディアが重要な役割を果たした。(執筆時点で)BTSのツイッターフォロワー数は500万人に上る。ネット上の活動をランキングするビルボードの「ソーシャル50」では22週連続で首位を独占。3人のチリ人ファンが運営するBTSファンアカウントでは、バンドのニュースやソーシャルメディアへの投稿を、その都度スペイン語に訳して紹介。

韓国発信の動画配信コンテンツ「Vアプリ」では、アーティストが配信する動画を通じて世界中のファンが交流できる。こちらのフォロワーもまた、470万人に上る。 ネット上でのBTS人気が定着していたため、ツアーの主催者は従来型のメディアへの売り込みを気にする必要はなかった。ファンは38ドルから212ドルのチケットを買うために1週間前からチケット売り場に並び始め、12500席分のチケットは2時間で完売した。

「この記録的なスピードを見て、すぐに次の公演の準備を始めた」とアジア音楽のプロモーションを手がける「NoiX プロダクション」の創業者でCEOのゴンザロ・ガルシアは語る。日刊紙「ラ テルセラ」に8日間の広告を打ちはしたが、そこにはチケットを買ってくれたファンへの感謝を表しただけだった。

「僕たちは曲の中で、自分たちの心の揺らぎや精神的な不安について、できる限り誠実に語りかけている。曲が僕たちと一緒に成長してくれているんです」とメンバーの一人、ラップモンスターは語る。「チリのファンのみなさんは、そういった価値に他の国よりも深く寄り添ってくれているのでしょう」 ガルシアによると、コンサートツアーの2日間分のチケット売り上げは200万ドルを超えた。

さらにファンの熱狂ぶりを示す現象も出てきている。何千人というファンが、チリ中の公園や公共スペースにたびたび集まっては、ともにKポップのダンスを練習しているのだ。 だが、最もインパクトのある指標は、おそらく最も警戒すべきものでもある。モビスター・アレーナのオーナーは、今年のBTSのコンサートで観客の叫び声が127デシベルを記録したとガルシアに告げた。失聴を引き起こす懸念がある騒音レベルをはるかに上回る。

主催者は、会場史上最大数値として誇らしげに報告してきたという。「観客の声だけで、ですよ」。ガルシアの言葉には、畏怖が混じっていた。「あれは、狂気でした」(ジェフ・ベンジャミン、抄訳 菴原みなと)©2017 The New York Times

 

Jeff Benjamin

「ビルボード」誌のKポップ専門コラムニスト、音楽系メディア「フューズ」のシニアデジタルエディター。「ローリング・ストーン」誌や「ハリウッド・リポーター」にも寄稿。

 

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