1. HOME
  2. LifeStyle
  3. ミニマリズムの源流は日本? イギリス人の目通して確かめた

ミニマリズムの源流は日本? イギリス人の目通して確かめた

Re:search 歩く・考える 更新日: 公開日:
マンチェスターで起業家として働くジェシカ・ダン Photo: So Kosuke

「持たない暮らし」の発想はどこから来るのか。ミニマリストたちがその起源を語るとき、頻繁に出てくる国がある。日本だ。仏教や禅の思想、小さな家などのイメージから、日本人はモノをあまり持たず、シンプルな暮らしを送っていると考えるようだ。しかし、実際に日本に暮らしている身からすれば、ミニマリストたちが抱くイメージと現実にはギャップを感じる。いったい現代の日本のどこからミニマリズムの着想を得られるのか。留学などで日本に暮らしたことのあるマンチェスター在住の英国人ミニマリスト、ジェシカ・ダン(26)に聞いてみた。

――初めて日本に来たのはいつですか。

2010年から11年にかけて、神戸市の甲南大学に留学しました。高校の終わり頃に日本文学に興味を持ち、日本語を学び始めました。いったん勉強を始めると、墨絵などの日本の美術や生け花、空手などにも関心を抱くようになりました。結局、大学ではビジネスと日本語を専攻しました。1年間の留学生活を終えた後には再び日本に来て、しばらく東京の英国大使館で働いたりもしました。その間に高知県など日本各地を旅行しました。

――持ち物を最小限にまで減らすミニマリズムを始めたのは、日本で暮らしたことがきっかけですか。

私がミニマリズムに注目し始めたのは、日本に来る前、高校生だった09年のことです。シンプルライフなどの言葉をネットで検索するうちに、ミニマリズムに出合ったのだと思います。当時は、米国で流行の火付け役になったレオ・バボータなどほかの有名な米国人ミニマリストたちのブログをよく読んでいました。ただ、「持たない暮らし」に対する考えを深めることができたのは、ブログよりもむしろ禅や仏教の思想、日本の文化に触れたことがきっかけだと思います。

――そもそもミニマリズムに目覚めた理由は何だったのでしょうか。

私の両親はベトナムから英国にやって来た移民です。父は渡英してからまずは洋服工場で働き、自分で事業を始めるまでになりました。両親にとってモノは、何かを成し遂げたという達成感を抱かせてくれるものです。モノがないところから生活を始めたので、モノがある方が安心を感じられる部分もあると思います。だから、私が育った家にはモノがたくさんありました。いざ大学進学で親元を離れて、初めて一人暮らしをすることになった時、モノを持つとはどういうことなのかを考えるようになりました。

ジェシカが東京で暮らしていたアパート。日本にいた頃は持ち物をスーツケース一つ分にまで減らして各地を旅行したという Photo: So Kosuke

――日本文化のどういった面がミニマリズムを刺激するのでしょうか。

日本はほかの国に比べて、「持たない暮らし」が受け入れられやすい国だと思います。もちろん、日本経済もほかの国の経済と同じように消費主義の上に成立していて、日本社会は広告などでモノを買うことを勧めています。それでも日本人には文化や歴史の面で、ミニマリストになるセンスがあると感じます。例えば茶道のように、動きを最小限にしてシンプルさを追求することで美しさを表現する文化があります。日本人は心の内では、シンプルな暮らしを実践したいと感じているのではないでしょうか。

――それにしても、現実の日本とミニマリストがイメージする日本ではギャップがありませんか。

確かに多くの日本人はミニマリストではないと思います。モノをたくさん持っているし、いつもきれいに片付いているわけでもありません。買い物が好きな人もいます。それでも、みんながその暮らしに満足しているわけではなくて、ミニマリズムのようなものを取り入れたいと考えている人が多い気がします。片付けなどをテーマにした本が人気を得るのは、それが理由だと思います。

一方で、日本には「持たない暮らし」が受け入れられる現実的な理由もあると感じます。米国や英国に比べて、家のスペースが小さいですよね。限られたスペースで快適に暮らすには、持つモノの量もある程度限られます。それに日本では、小学校の頃から学校の教室を自分たちで掃除するように教えられるでしょう。英国ではそんな習慣はありません。日本には玄関で靴を脱いで部屋の中をきれいに保っておく習慣もあります。片付けや掃除は「持たない暮らし」を実践する入り口です。日本は確かに消費主義が広まっていますが、同時にシンプルな暮らしに通じるような習慣や考え方も日常に浸透している。そういう二面性を持っているところが独特だと感じます。だからこそ、ほかの先進国に住むミニマリストたちにとって、日本は「持たない暮らし」の着想を得るきっかけとなっているのでしょう。(構成:宋光祐、敬称略)