「児童労働ゼロ」へ 日本の大手チョコレートメーカー・NGOの挑戦

児童労働は日本にとっても身近な問題だ。特に、チョコレートの原料であるカカオの生産過程では、児童労働が問題となっている。「ビジネスと人権」の概念からも、企業にとって、サプライチェーン(供給網)における児童労働撤廃は喫緊の課題だ。
国際協力機構(JICA)は2020年、企業や団体などが参加する「開発途上国におけるサステイナブル・カカオ・プラットフォーム」を設立した。産官学の連携を通し、児童労働をなくすことなど、持続可能なカカオ産業の実現を目指している。
プラットフォームに加盟している明治ホールディングス、ロッテ、森永製菓は、児童労働監視改善システムの導入や、日本の消費者に向けた啓発活動などに取り組んでいる。最近は天候不順に加え、戦争の影響で化学肥料が高騰するなど、複合的な要因でカカオの不作が課題となっているといい、ロッテのサステナビリティ推進部企画課課長の飯田智晴さんは「生産性の向上を図るなど、農業への介入は大事だ」と話す。
日本がカカオの約7割を輸入するガーナでは、JICAが日本の国際協力NGO「ACE(エース)」などと「児童労働フリーゾーン(CLFZ)」認定制度の構築を進めている。
CLFZとは、児童労働をなくし、子どもの成長を保障するために必要な仕組みや支援策が整っている地域のこと。認定されるには、「児童労働や子どもの保護に関する理解がされているか」「子どもの保護に関する規則があるか」「児童労働をモニタリングする仕組みが機能しているか」「適切な学校環境が整っているか」など計25項目の条件がある。
「ACE」とデロイトトーマツコンサルティング合同会社は2018年から、ガーナ政府のガイドライン策定を支援しており、今年秋ごろにはガーナで最初のCLFZ認定を目指している。将来的には国全体に広げることも視野に入れている。
駐日ガーナ大使のジュヌビエーブ・エドゥナ・アパルゥ氏は、ILOが定める「児童労働反対世界デー」の6月12日、都内で開かれた集会に出席。ガーナでは約23万人の子どもが働いているとされ、約8割が農業に従事していることなどを報告。「貧困は児童労働の根源だ。子どもが安全で幸せな子ども時代を過ごせるように、日本との連携を深めたい」と話した。
ILOとユニセフが4年ごとに発表している「児童労働の世界推計」によると、2024年の児童労働は1億3800万人で、前回より約2200万人減少した。また、危険・有害な労働の従事している子どもは7900万人から5400万人に減少したが、5人に2人が危険・有害な労働をしていることになる。
2000年以降、子どもの数が2億3000万人増えたのに対し、児童労働は1億人以上の減少となった。しかし、いまだ8%の子どもが働いている。
地域別にみると、アジア太平洋地域は約2800万人。約4900万人だった2020年からの減少率は最も高く45%だった。一方、サハラ以南のアフリカでは約8700万人で全体の3分の2を占める。4年前に比べて2%減少したが、人口増に伴い、絶対数は減っていない。
部門別では、農業が61%と最も多く、小規模農場で家族の手伝いをするケースが多い。そのほか、家事労働を含むサービス業が約27%、残り約13%は鉱業や製造業などの工業となっている。全体では男の子が多いが、家事労働では女の子が多いという。
児童労働は教育機会を奪うことも目立ち、5~14歳の31%、15~17歳の59%が就学していない。
報告書によると、無償で質の高い学校教育を提供したり、児童労働を防ぐための法的保護を強化したりしたことが減少につながったという。しかし、児童労働の撤廃を2030年に設定しても、2020~2024年の11倍のペースでの減少が必要になるという。
日本政府による、よりグローバルな取り組みも求められる。
厚生労働省は2023年、児童労働や強制労働、現代の奴隷制、人身取引の撤廃を目指すSDGsの目標8のターゲット7に積極的に取り組む国々のグループ「アライアンス8.7」にパートナーとして加盟した。2021年から政府に加盟を働きかけてきたACEの岩附由香さんは、「次はパスファインダー国になってほしい」と訴える。
「パスファインダー国」とは国連加盟国かつ「アライアンス8.7」のメンバーで、目標達成に向けてさらに前進させる取り組みをする国を指す。コミットメント(約束)を実行に移すため、工程表を作成し、毎年、進捗(しんちょく)を報告することが求められる。
現在、アフリカやヨーロッパなどから30を超える国が「パスファインダー国」となっている。岩附さんが注目するのはフランスの取り組みだ。フランスは、過去1年の進捗について各省庁の取り組みを年次報告書で詳細に紹介し、さらに今後1年に取り組むことなど手厚い内容を盛り込んでいる。
岩附さんは、日本では児童労働児童労働の数をまとめた公的データはなく、政策の取り組みが進んでいないと指摘する。2021年にあった国連ハイレベル政治フォーラムで発表した「SDGs自発的国家レビュー」では、目標8のターゲット7に関するデータは盛り込まれなかった。今年7月には3回目のレビューが発表される予定だ。
岩附さんは「国内法でも児童労働を定義し、データを整備するとともに、国際協力を通じた児童労働撤廃への貢献も含めた行動計画を策定してほしい」と話す。