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恋愛感情ない独身女性2人の同居=家族? 韓国の家父長制にあらがう選択、若者は支持

ニューヨークタイムズ 世界の話題 更新日: 公開日:
韓国のソウルで、毎週配信のポッドキャスト「Two Women Talk Together」を収録するキム・ハナ(左)とファン・ソヌ
韓国のソウルで、毎週配信のポッドキャスト「Two Women Talk Together」を収録するキム・ハナ(左)とファン・ソヌ。2人は独身で、一緒に暮らしている=2024年5月3日、Woohae Cho/©The New York Times

そのイベントは、ともに47歳のファン・ソヌとキム・ハナが韓国で独身女性として一緒に過ごした人生についてつづった著作を称賛し、議論する催しだった。

聴衆の中にいた1人の男性が、非難の言葉を口にした。彼は、世界ですでに最低になっている韓国の出生率を、彼女たち2人がさらに低下させるだろうと語った。彼女たちの本は、他の女性たちが2人の後を追うことを促すだろうと彼は言い張った。

「私たちと同年代のその男性自身が未婚だとは、皮肉なことだった」とファンは言う。「結婚しないとか、子どもを持たないことを選択する人が増えているけど、たいていの場合、責められるのは女性なんだから」

ファン・ソヌ(左)とキム・ハナの2人は自分たちを「家族」と考えている。そして、韓国の法律は多くの点で市民生活の現状に追いついていないと主張する
ファン・ソヌ(左)とキム・ハナの2人は自分たちを「家族」と考えている。そして、韓国の法律は多くの点で市民生活の現状に追いついていないと主張する=2024年5月3日、Woohae Cho/©The New York Times

韓国社会は家父長制が深く根付いており、伝統的な家族観に基づいて形成されている。税金、住宅、保険その他の優遇措置といった政府の手当の多くは、家族向けに用意されている。その見返りとして、家族は病気や高齢の親族の世話など社会福祉の多くを担うことが期待されているのだ。

そうした長年の慣行に変化が起きるかもしれない。韓国の大法院(最高裁)は2024年7月18日、同性カップルは国民健康保険の被扶養者資格を有するとの判決を出した。人権活動家たちは、この判決によって韓国での同性婚の合法化に道が開かれることを期待している。

しかし、何百万人もの韓国人が結婚という制度を忌避しており、家族中心の支援体制は急速に崩れつつある。困った時に頼れる人がいるかどうかで測られる韓国の支援ネットワークの質は、先進国の中で最低だ。一方、自殺率は先進諸国で最も高い。

お互いに、あるいは他の誰とも恋愛関係にはないと言っているキムとファンにとって、解決策は家族の概念を再定義することにある。2人が2019年に出版した著書「Two Women Live Together(女ふたり、暮らしています。)」はベストセラーになった。

その後、週ごとに配信するポッドキャスト「Two Women Talk Together(女性2人が語る)」は数十万人のリスナーを集め、結婚ではなく同居関係を結ぶことで伝統的な家族構造に異を唱えてきた韓国人、とりわけ女性たちの声を届けている。

韓国の家族は法律上、配偶者、両親、子どもだけで構成される。しかし、住居費や教育費が急騰しているため、現在では全世帯の42%近くが単身世帯になっている。

キムとファンは、「DIY(自己流)家族」を自称している。その生き方は、独身生活も典型的な韓国の家族もどちらも望まない女性の選択肢の一つだ。典型的な韓国人家族は、夫が1日にわずか54分しか家事をしないのに対し、妻はフルタイムの仕事をしていても3時間以上を家事に費やしている。

「私たちは、独身でいることの自由と、一緒に暮らすことの利点をくっつけた」とキムは言っている。

ファン・ソヌ(左)とキム・ハナの同居生活を書いた本が売れ、ポッドキャストもヒットしたが、シビル・ユニオンを合法化する取り組みは保守的な人たちの反発を招いている
ファン・ソヌ(左)とキム・ハナの同居生活を書いた本が売れ、ポッドキャストもヒットしたが、シビル・ユニオンを合法化する取り組みは保守的な人たちの反発を招いている=2024年5月3日、Woohae Cho/©The New York Times

歴史的にみると、韓国人女性の義務は「良妻賢母」になることだった。ファンが若かったころ、人びとは「まるで天気の話でもするかのように気軽に」ファンが結婚しているかどうかを尋ねた。今日では、中年女性は配偶者の有無や子どもの有無にかかわらず、子を持つ女性や妻に対する敬称である「オモニム」あるいは「サモニム」と呼ばれるのが一般的になっている。

ファンとキムの本には、お互いが違いを乗り越えて一緒に暮らす様子がつづられている。2016年に2人で共同購入したアパートにファンが移り住んだ時、ミニマリスト(訳注=最小限のものしか持たない主義の人)のキムは、ファンの「自然災害並み」の量の衣服その他の持ち物の山に驚いた。

しかし、2人はお互いに補いあう関係を見いだした。ファッション雑誌の編集者だったファンは料理が好きで、元コピーライターのキムは皿洗いが好き。2人とも本を書き、ネコを2匹ずつ飼っていた。

いずれもおしゃべりが大好きで、その才能をポッドキャストにうまく生かし、本や映画のことから中年期の不安の克服法や健康を保つ方法まで、あらゆることを話題にしている。2人は現在、作家兼ポッドキャスターとして生計を立てている。

「最も重要なことは、女性が40代で結婚していなくても、オッケーだということ」とキム。「それは失敗した人生じゃない」と続けた。

ソウルに住む視覚芸術家クク・ドンワン(44)は、彼女たちのポッドキャストが気に入っている。「世の中には、話題は山ほどあるけれど、中年女性が他の女性も共感できるかたちで自分たちの生き方について話すコンテンツはあまりないから」と言うのだ。

ユミ・チェ(37)が言うには、既婚者がマスメディアで過剰に取り上げられる一方で、ほかの形態の関係性は疎外されている。

「『Two Women Talk Together』の驚くほどの成功は、親族ではない人同士とか、未婚の世帯を尊重する社会基盤への渇望があることの反映です」とチェはみている。

韓国の国家人権委員会は2022年、同性を含む未婚のカップルに、結婚に伴う税制上の優遇やその他の利益、医療代理権など法的保護の大半を付与するためにシビル・ユニオン(訳注=法的に承認されたパートナーシップ関係)の導入を勧告した。

政府による2023年の調査で、韓国国民の大多数がシビル・ユニオンを制度化して未婚カップルを支援すれば、出生率の低下を反転させるのに役立つと考えていることが判明した。

ファンとキムは、車を購入しようとした際、韓国の社会支援制度がいかに未婚の同居関係を日常生活の中で締め出しているかに気づいた。既婚カップルに適用される保険料の割引が受けられなかった。また、既婚カップルが利用できる携帯電話サービスの割引や航空会社のマイレージ共有の恩恵も受けられなかった。

同居期間がどれだけ長期にわたっていても、結婚している同僚のように、病気のパートナーの世話をするために仕事を休むことはできない。また、医療上の緊急事態の際に、配偶者のように、お互いの法的代理人になることもできないのだ。

「韓国の民主主義にとって、多様性を受け入れられるかどうかは大きな課題です」と、シビル・パートナーシップに関する本の著者ファン・ドゥヨンは指摘する。ファン(ファン・ソヌとは関係がない)は、韓国では誰にもみとられず孤独死する人の数が増え続けている事態を考えると、シビル・ユニオン制度を早急に導入する必要があると言っている。

卓球に興じるキム・ハナ(右)とファン・ソヌ
卓球に興じるキム・ハナ(右)とファン・ソヌ=2024年5月3日、Woohae Cho/©The New York Times

しかし、韓国の議会では、女性が結婚しないとか、子どもを持たないといった考え方自体が伝統主義者たちの反発に直面している。公正取引委員会の委員長に指名された当時55歳のチョ・ソンウクは、2019年の指名承認公聴会で、子どもがいない独身であることを保守派の男性議員から責められた。

「もし、子どもがいたら、あなたは完璧な指名候補だったはずです」と当時69歳の議員チョン・ガブユンは述べた。

2023年、保守派の議員と法務省は「同性婚を事実上、合法化する」ことになると警告し、シビル・ユニオンを認める2法案に反対した。

だが、伝統的な家族制度は魅力を失いつつある。

女性家族省が2020年に委託した調査によると、回答者の70%近くが、婚姻や血縁関係がなくても一緒に暮らして生活費を分担している人たちは家族とみなされるべきだと答えた。また同省によると、未婚のパートナーは既婚カップルよりも幸せで、家事の分担がより公平なことも浮かび上がった。2022年の政府調査では、韓国の若者の81%近くが未婚のまま同居するという考え方を受け入れていることが判明している。

携帯電話会社LGユープラスなど企業数社は、結婚しないことを決めた従業員に、新婚向けの福利厚生に匹敵する特別ボーナスや休暇を提供し始めた。

2022年には、ある40代の女性が4歳年下の同居相手を娘として養子に迎えたことがニュースになった。2人にとって、それが法的に保護された家族になる唯一の方法だった。

ファンとキムは、そこまでするつもりはないが、韓国にとってはシビル・ユニオンの導入が避けられなくなっているとみる。

「私たちが年寄りになるころまでには導入されるでしょう」とファンは言っている。(抄訳、敬称略)

(Choe Sang-Hun)©2024 The New York Times

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