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「特定技能」ってどんな制度?何が目的?技能実習との違いは?わかりやすく簡単に解説

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造船業・因島鉄工の作業場で働くベトナム出身の3人。3年以上の実習経験者が最大5年働ける「特定技能1号」の資格で来日し、2023年10月に「2号」の試験に合格し、資格を取得した
造船業・因島鉄工の作業場で働くベトナム出身の3人。3年以上の実習経験者が最大5年働ける「特定技能1号」の資格で来日し、2023年10月に「2号」の試験に合格し、資格を取得した=2023年10月20日、広島県尾道市因島重井町、黒田陸離撮影

特定技能は国内の人手不足が深刻化する中、「即戦力」となる外国人労働者を受け入れるために2019年4月に設けられた在留資格です。

出入国在留管理庁によると、特定技能で働く外国人は制度創設以来、右肩上がりで増えており、2023年12月末時点(速報値)で20万8462人に上ります。さらに政府は特定技能による外国人労働者の受け入れ枠を、2024~28年度までの5年間で82万人に拡大する方針を打ち出しました。これは2023年度までの5年間で設定していた人数の2.4倍に上ります。

特定技能は基本的に、一定の語学力と専門技能を持つ人が対象ですが、技術レベルに応じて「相当程度の知識または経験」が求められる1号と、より熟練したスキルと実務経験が必要な2号に分かれています。また特定技能で働く労働者の受け入れが可能な業種は、食品製造や農業など特に人手不足が深刻な分野に限られます。

農業分野の特定技能の資格を取得し、農場でホウレンソウを包装用に選別するベトナム出身の女性たち=2023年10月30日、広島県北広島町中原、黒田陸離撮影

近年、人手不足のために多くの職場が、オペレーションに支障をきたすようになっています。製造業では、求人を募集しても人が集まらず、工場の存続が危ぶまれる企業が出てきていますし、介護業界では実際に事業が立ち行かなくなり、倒産や廃業に追い込まれる事業者も増えています

国立社会保障・人口問題研究所は、2020年に1億2340万人だった日本人の人口が、2070年には7761万人に減ると推計しており、リクルートワークス研究所は、2040年には1100万人分の労働力が不足すると試算しています。将来の労働力不足に対応するためにも、外国人労働者の受け入れは不可欠です。

政府は従来、開発途上国への技術移転を目的とした「技能実習制度」を通じて、外国人の働き手を受け入れてきました。しかしスキル習得のために来日したはずの実習生の多くが、労働力として扱われ、目的と実態が乖離していました。特定技能の創設には、国内産業を支える「労働者」として、外国人を本格的に受け入れる狙いもあります。

特別養護老人ホームで働く特定技能のネパール人女性(写真の一部を加工しています)
特別養護老人ホームで働く特定技能のネパール人女性(写真の一部を加工しています)=2022年9月5日、神戸市西区、織田一撮影

特定技能の在留資格は1号と2号に分かれています。それぞれどんな要件があるのでしょうか。

「相当程度の知識または経験」を持つ人を対象とした資格であり、特定技能で働く外国人の大半が1号に該当します。対象業種は介護や造船、建設、宿泊、外食など、人手不足が深刻化している12の分野です(2024年6月時点)。

1号の資格を取得するには、原則として業種別の技能試験と、日本語能力試験に合格する必要があります。ただ技能実習生として来日し「技能実習2号」を良好に修了した人は、これらの試験を免除されます。在留期間は最長でも5年までで、家族の帯同は認められていません。

熟練した技能と一定以上の実務経験を持つ人を対象とした資格で、受け入れ可能な業種は、1号の対象分野から介護を除いた11業種です。

資格の更新回数に上限はなく、配偶者や子どもと一緒に日本で暮らすこともでき、就労期間などの条件を満たせば永住権の取得にも道が開けます。ただ実務経験や高度な技能試験への合格が必要なことから認定のハードルは高く、2024年末時点で2号の資格を持つ労働者は、造船や建設などの領域で働く48人にとどまります。

特定技能で働く外国人労働者数は、2023年12月末時点(速報値)で20万8462人と、1年間で約7万7500人増加しました。永住者や技能実習生などを含めた在留外国人総数(約342万人)の6.1%を占めるようになっています。

2019年4月から2023年12月の特定技能在留外国人数の推移(速報値)=出入国在留管理庁の公式サイト上の資料より
2019年4月から2023年12月の特定技能在留外国人数の推移(速報値)=出入国在留管理庁の公式サイト上の資料より

特定技能の労働者が最も多い業種は、飲料や食品の製造・加工分野で、全体の約3割に当たる約6万1000人が働いています。次に多いのが素材や機械、電子部品などの製造現場で約4万人と2割を占め、介護、建設、農業の分野も、それぞれ1割強の労働者を受け入れています。

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国籍・地域別では、ベトナム人が53.1%と半数以上を占め、インドネシア(16.4%)やフィリピン(10.2%)が続きます。最初から特定技能の資格で日本に来た人だけでなく、技能実習を修了し特定技能1号へ在留資格を変更した人も多数含まれています。

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都道府県別で最も受け入れ人数が多いのは愛知県で、次いで大阪府、埼玉県、千葉県が続いています。

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技能実習は主に開発途上国から実習生を受け入れ、日本の技術を母国へ持ち帰ってもらうことが目的です。このため来日する実習生に、スキルや日本語能力などの条件は設けられておらず(※1)、実習を通じてこれらを身につけてもらうことが柱となっています。

一方、特定技能は「即戦力」として日本で働いてもらうための資格なので、労働者には一定のスキルと日本語の能力が求められます。

(※1)介護分野での実習生は、一定レベルの日本語が必要です。

技能実習生を受け入れ可能なのは、農業・漁業や機械製造など90の職種です。また技能の習得に結び付かない単純労働をさせることはできません。

特定技能を受け入れ可能な業種は、1号では介護など12分野、2号が1号の分野から介護を除いた11分野です。また業務に含まれる場合は、単純労働を担ってもらうことも可能です。

技能実習で主流となっている「団体監理型」の実習では、受け入れ先の企業・団体が直接実習生を集めることはできません。現地にある「送り出し機関」が実習生を集めて日本へ送り出し、日本では非営利の「監理団体」が実習生を受け入れて企業へ送り込みます。

実習生の希望で実習先を変えることは原則として認められません。また実習先で、実習生に対する指導が行き届くよう、受け入れ人数に枠が設けられています。

これに対し特定技能は、受け入れ側の企業・団体が直接海外で採用活動を行ったり、あっせん業者を利用したりして労働者を確保します。同じ職種で求められるスキルも同じであれば、別の職場へ転職することもできます。介護と建設の2分野を除いて企業ごとの雇用人数に制限はありませんが、日本全体として5年間での受け入れ枠が設定されています。

技能実習生と特定技能1号の在留期間は最長5年までで、家族の帯同は許されません。特定技能2号の在留期間に上限はなく、家族を日本へ連れてくることもできます。

技能実習では監理団体が、実習先で適切に実習が行われているかなどを監督し、必要な指導や支援を行います。

一方、特定技能1号は受け入れ側の企業・団体が住宅の手配や公的手続き、地域生活への定着などをサポートするための「支援計画」を作る必要があります。出入国在留管理庁に登録した支援機関が、職場から委託を受けて支援を代行することもできます。

特定技能で働く外国人人材の確保には今後、何が必要でしょうか。

労働者が海外で働く最大のインセンティブは、母国で同じ仕事をするよりもはるかに高い賃金を得られることです。しかしベトナムなど労働者を送り出す側の国が経済成長を続ける中、日本との賃金格差は、円安の進行もあって縮小しつつあります。

日本では2024年春闘で、大企業を中心に大幅な賃上げが実施されましたが、外国人が働く魅力を高めるためには地方の中小企業も含めて、賃金水準を底上げする必要があります。

外国人の日本企業への就労支援を行う「マイナビグローバル」が、特定技能で働く人や技能実習生、外国人留学生らに対して2024年1~2月に実施したインターネット調査によると、日本での就労を希望する人の74.1%が、「今後5年以上働きたい」と回答しました。在留期間に定めのない特定技能2号で働きたいとの回答も63.6%に上り、理由として最も多かったのも「永住できる可能性があること」でした。

特定技能2号は制度導入当初、建設と船舶の一部のみを対象としていましたが、2023年8月、11分野に拡大されました。今後は、特定技能1号から2号へとキャリアアップできる仕組みを充実させ、外国人労働者が長く安心して日本で働ける環境を整えることも大事です。

マイナビグローバルの同じ調査では、特定技能で働く人は技能実習生や留学生などに比べて、職場選びの際に「人間関係の良さ」と「成長できる環境」を重視する傾向が強いとの結果も出ています。特定技能1号から2号への転換には、実務経験と熟練したスキルが必要なため、環境の良い職場に定着してスキルを蓄積したい、というニーズがうかがえます。このため職場側も、外国人労働者を職場の仲間として迎え入れる風土づくりや、日本人と同じように昇進・昇給や研修などの機会を提供することが求められます。

日本で暮らし始めた外国人労働者は、言語や地域コミュニティーとの関わり、病気になった時の医療機関の受診などさまざまな困難に直面します。このため受け入れる職場だけでなく、自治体や地域コミュニティーが、外国人労働者の生活を積極的にサポートする必要もあります。自治体によっては、日本での生活情報を伝える動画を作ったり、日本語習得や日常生活などをサポートする人材を、住民の中から育成したりする例も現れています。

特定技能の学科試験を受ける人たち
特定技能の学科試験を受ける人たち=2021年3月23日、ハノイ、宋光祐撮影

近年は、多くの先進国が外国人労働者の受け入れに力を入れており、国家間での人材獲得競争が過熱しつつあります。

韓国では2023年以降、海外から受け入れる非熟練労働者の対象業種の拡大や、家事労働の現場に外国人労働者を試験的に受け入れるといった取り組みが進められてます。

台湾も、ロースキルワーカーの受け入れを拡大するための制度を導入しました。両国は1人当たりGDPや賃金水準も日本と大きな差はなく、特に東南アジアの労働者を獲得する上での強力なライバルとなっています。

オーストラリアは、行政が移住者の雇用や言語、教育や住宅確保などを包括的に支援する仕組みを整えるなど、定着支援を充実させることで、海外人材を集めようとしています。

日本政府も外国人労働者から「選ばれる国」になるための制度改革に乗り出しました。その一つが技能実習制度を廃止し、新たな在留資格「育成就労」を創設することです。

技能実習制度では、実習生が「代替の効く低スキルワーカー」と見なされ、実習先で搾取やハラスメントを受けやすい構造になっていました。実習生が出身国の「送り出し機関」に高額な手数料を支払い、大きな借金を背負うことも問題視されてきました。

育成就労は技能実習制度と異なり、長期にわたって国内産業を支える人材の育成を目的としています。労働者が特定技能1号へとステップアップしやすいよう、受け入れ対象の業種を一致させるほか、一定の条件を満たせば本人の希望による職場変更も認めるなど、労働者の権利を尊重した仕組みにすることも打ち出しています。

日本では「移民」の受け入れを拡大すると仕事を奪われる、治安が悪化するといった警戒感が強く、また、教育や社会保障など社会インフラ整備にかかるコストへの懸念から、政府も高度専門人材以外の外国人を受け入れることに、慎重な姿勢を示してきました。

しかし外国人労働者は、労働人口減少が予想される国内産業を支えるだけでなく、税収や社会保障財源の確保、地域コミュニティーの維持、社会の多様化など、多くの恩恵をもたらすことが期待できます。海外からの働き手を社会の中でどのように位置づけるべきか、国民全体で改めて議論する時期が来ているのではないでしょうか。