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スーパーマーケットの現場から「2024年問題」を考える

Sponsored by 公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会 公開日:
渋谷剛さん(左)と関根和弘GLOBE+編集長

トラックドライバーの人手不足を発端とした「物流の2024年問題」は、スーパーマーケットなどで買い物をする消費者にとっても人ごとではない。お店に商品が思うように届かなかったり、値段が上がったりする可能性があるからだ。そうした影響を抑えようと、食品スーパーマーケット各社が社の壁を越えて立ち上がった。業界団体「SM物流研究会」の設立だ。この問題を「社会課題」としてとらえ、消費者への責任と物流の持続性を両立させようとする研究会の取り組みとは――。研究会の中心メンバーの一人で「ライフコーポレーション」の渋谷剛・首都圏物流部部長に聞いた。(聞き手・関根和弘GLOBE+編集長)


──大手スーパー4社でSM物流研究会を発足した経緯について教えてください。

2024年問題をふまえ、2022年8月から「4社物流協議会」を立ち上げ、物流課題の解決に向けた議論を進めてきました。トラックドライバーの不足、物流需要の増加(EC市場の拡大、消費者ニーズ多様化による多品種・小ロット輸送増加)など、食品物流における従来型の発注から納品までの工程維持が困難になりつつあるという問題がありました。

初めはライバル企業同士で腹を割って話せるか不安だったのですが、物流で抱える問題は一緒なので、スーパーマーケット各社と連携し、一緒に解決していく必要性を感じていました。2023年3月に発足してから参加企業が次々と増えて、現在は15社がメンバーになっています。

──SM物流研究会ではどのような取り組みを行っているのでしょうか。
2023年3月の発足時に「持続可能な食品物流構築に向けた取り組み宣言」をしました。内容としては、加工食品における定番食品の発注時間の見直し、特売品や新商品の発注・納品リードタイムの確保、納品期限の緩和(1/2ルールの採用)、流通BMS(流通業界のEDI標準仕様)導入による業務効率化、物流センターでのトラック荷待ちを1時間以内にする、という具体的な取り組みです。

発足した当初は首都圏企業のみで物流課題への対応を協議していましたが、首都圏以外の企業の参加もあり、全体会では「縦の取り組み」としてサプライチェーン全体での物流効率化に取り組み、エリア部会では「横の取り組み」としてエリア別に連携して物流効率化を進めています。

──2024年問題は現在、スーパーを日常的に利用する消費者にどのような影響を与えていますか。
想定される品薄などの問題に関して、店舗納品時間を事前に調整して、できるだけ同じレベルのサービスができるよう対応しています。以前はスーパーの開店前、お客様の来店前に納品できるよう朝にトラックで配送をしていましたが、たとえば日持ちのする食品は前日の昼間に配送するなど、配送の時間を平準化するようにしています。

SM物流研究会の参加企業各社での共同配送の研究も始まっています。首都圏に店舗・物流センター網を持ち、それぞれの立地も近接していることから効率化にもつながる研究を進めています。

──食品物流の改革を進めるうえで、困難だったことがあれば教えてください。

社内では当初、「店舗のオペレーションを変えてまで物流に合わせなければいけないのか」などの疑念の声もありましたので、2024年問題への対処の必要性を丁寧に説明していきました。今では現場をはじめ、社内での理解も深まっていると感じています。

私自身、2024年問題のはるか前から、「トラックは朝だけに偏(かたよ)らないようにすれば台数を減らすことができるのでは」「効率化によって物流コストも下げられるのでは」といった問題意識を持っていました。ただ「お客様のためにも店舗が必要な時に必要なだけ、ジャストインタイムで商品を提供するのが第一優先」という意識があり、なかなか仕組みを変えることができなかったのです。

2022年からSM物流研究会の前身の「4社物流協議会」が発足するのと並行して、物流問題や対応の必要性について社内に説明し、対応策を協議するため部門横断型のプロジェクトを立ち上げました。店舗に巡回して対応について説明したり、逆に店舗の困り事について聞くなどして、双方向でコミュニケーションを取りながら進めています。

──「SM物流研究会」としての具体的な取り組みの成果の一端にはどのようなものがあるのでしょうか。

トラックの荷待ち時間を減らすため、荷待ち時間の少ない企業から取り組みのノウハウを共有したり、「バラ積み・バラ降ろし」といわれる段ボールや袋などの荷物を一つひとつ手で積み降ろしするのを削減したりしています。物流センターや倉庫で、バース(物流拠点で荷積みや荷降ろしをする場所)予約システムを使って、DX(デジタルトランスフォーメーション)化しており、荷待ち時間は現時点でもかなり削減されています。

──メーカー、卸、市場とは2024年問題について、どのような協力関係を築いていますか。

小売(スーパーマーケットなど)が業務効率化に向けて改善や改革を進めることで、サプライチェーン全体の効率化を図ることができると考えています。メーカー、卸、市場関係の方に研究会にお越しいただき、お互いの困り事や要望を理解し合い、「一緒に改善していこう」という協力関係が構築できつつあると感じています。

研究会では、「商品マスタ標準化」も研究課題にしています。現状、メーカーから個社(卸、小売)ごとに商品情報を渡しており、個社ごとのフォーマットを使用して商品情報を入力しています。商品情報が一元化できていないため、情報の授受が複雑化しており、長年、非効率な状況となっています。今後は、製(メーカー)、配(卸)、販(小売)でシームレスに共通利用できる商品情報管理の枠組みが必要であると考えております。

標準化の壁は高いですが、小売だけでなく、サプライチェーン全体での大きな効率化にもつながるので、乗り越えたときのメリットは大きいと考えています。

──地域の生活を支える社会インフラとして、どのような思いで課題に立ち向かっていますか。

スーパーマーケットは地震や台風などの災害時や、コロナ禍などでもライフラインとしての機能を実感することが多く、地域の人びとの生活を守る社会インフラとして持続的に商品を提供する責務を負っています。

一方で、物流問題を考えるときに、「安全安心で良質な商品を提供しなければいけない」という思いが強いあまりサービスが過剰になる部分があったのではないか、これからの時代には維持することが難しくなるのではないかという視点も必要になります。

お客様へのサービスを重視しながらも「川下」である小売が「川上」の生産過程や流通経路の問題を一緒に見直していかなければいけないと考えています。業務上での無理や無駄を排除して効率化を図ることが、よりよいサービスにつながっていくという好循環ができる仕組みづくりに取り組んでいます。

──ネットスーパーの普及は輸送への負荷につながる側面はありますか?

ネットスーパーの売上の割合はまだ全体の5パーセント以下であるため、大きな負担になる影響は少ないと考えています。物流の問題は、消費者の購買スタイルを大きく変えるよりも、サプライチェーン全体で取り組んでいく課題ととらえています。

──2024年問題をふまえて、消費者ができる意識変革や行動などがあれば教えてください。

食品の価格が上がっていますが、背景に原材料や物流コストの高騰があります。こうした価格上昇に加え、従来務めてきた「欠品なしの品ぞろえ」が難しくなってくる可能性もあります。

物流も含めて、商品の生産から販売にいたる過程に生じる問題を「社会課題」として意識してもらう視点が大切だと考えています。そして、私たちは業務効率化を進めながらスーパーマーケットだからこそできるサービスをこれからも追求していきたいと考えています。