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物流・配送の現場を知る3人から見る「2024年問題」

Sponsored by 公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会 公開日:
橋本愛喜さん(中)と柚原和彦さん(右)と関根和弘GLOBE+編集長 


──皆様の物流や運送業界の経歴と現在の仕事の役割を教えてください。

橋本 学生時代に父が経営していた会社を手伝うことになり、トラックの運転をしていました。現在はライターとしてトラックドライバーや肉体労働者(ブルーカラー)全般の働き方について取材をしています。

柚原 元トラックドライバーで、現在は運送会社デジロジでトラックの運行管理のほか、営業や支店運営をしています。

松永 私もトラックドライバーを経て、現在は輸出入の会社で海上コンテナ輸送の配車を担当しています。


──物流・運送業界の現状についてお聞きします。トラックドライバーの人数は減少してきているとも言われていますが、実際はどうでしょうか?

橋本 ドライバーの労働人口はここ5、6年、85~86万人で推移していて、総数に大きな変化はないのですが、現場は人手不足です。若年層の新規就労数が減少していることももちろん影響しています。

女性ドライバーは約3パーセントしかおらず、女性ドライバーを増やそうという機運も高まっていますが、ドライバーの数が減っている状況にあるところに女性を呼び込むのではなく、女性や外国人が安心して働ける場所になるような環境改善が先行すべき取り組みと考えています。

柚原 トラックドライバーは高齢化が進んでおり、20代、30代の働き盛りの方は少なくなってきています。理由としては、大型免許を取るまでの費用がかつてより高くなって100万円近くかかるので、若者にはハードルが高いです。

加えて運送・物流業界は悪天候でも通行止めでも、到着時間を守るといった古い気質があります。ドライバー未経験者を募集して、免許取得のサポートをしたこともありますが、ホワイトカラーからの転職者は実際にやってみて体力が持たないこともありました。

松永 海上コンテナ輸送のトレーラーを運転するには大型免許とけん引免許が必要です。そのため他の運送業よりも人手不足です。基本手で荷積みや荷下ろしをしなくていいので、腰や肩を痛めて荷積み荷下ろしの荷役が厳しいと感じたドライバーや40代、50代で他業界からの転職で初めて運送業を始める方も多く、60代、70代の方も活躍していますが、海上コンテナ輸送の認知度が低い事で20代、30代の方がかなり少ないです。


──2013年頃からトラックドライバーの不足が問題視されてきました。コロナ禍以降ネットショッピングも増加しましたが、現場の負荷はどうでしょうか?

柚原 特に大変なのが長距離や付帯業務も多い企業間輸送のドライバーです。なかでも1トン未満の箱型のバンで荷物を運ぶドライバーは1日に200件近くの配達をするなど、大変な作業量です。

橋本 ネットショッピングの商品を皆さまのご自宅へ配達する「宅配」と「企業間輸送」の取り扱い荷量の割合でいえば、企業間輸送が9割を占めます。2024年問題は宅配のほうが注目されていますが、本当に問題なのは、たとえばECサイトでレトルトカレーを買ったときに宅配で届かなくなることではなくて、それ以前の企業間の物流に支障をきたして原材料の輸送に支障が生じ、レトルトカレーが製造できなくなることなのです。


──手荷役(貨物の積み下ろし)、荷待ち(物流施設の都合によるドライバーの待機)、宅配先不在による再配達の常態化など、業務時間や手間が多くとられてストレスがたまる状況があるとも聞いています。

橋本 荷待ちの平均時間が1.5時間というデータもありましたが、実際はもっと長いことも多々あります。

柚原 ドライバーは運転以外の付帯作業にかかる時間が大きいです。手荷役も賞味期限がある食料や飲料などはさらに複雑で、貨物の積み下ろしの際に倉庫で仕分けや検品、ラベル貼りをしたり、パレットへの積み付けを届け先に合わせて変えたりといった、細かい作業を伴うときもあります。それに問屋さんで積んだ荷物が届け先で「発注した商品と違う」と言われることもあったり、ドライバーもいろいろな対応に追われることもあります。

こうした対応があるにもかかわらず、「次の目的地で待っているトラックを待たせてはいけない」と、急いで次の目的地に向かわなければならないので、ストレスがたまる状況は多々あります。

松永 海上コンテナを輸送するドライバーは倉庫の荷待ちだけではなく、港で海上コンテナを一時保有しておく「コンテナヤード」で待つ時間もあります。ひとつのコンテナを積むのに半日かかることもあり、港の混雑によっては日をまたぐことも稀にあります。待ち時間は無償で、運賃には含まれません。このコンテナを取りに行ったり返しに行ったりする無償の時間がドライバーへの大きな負担となっています。 


──日本ロジスティクスシステム協会による3月の調査では、2024年問題の核になる時間外労働960時間規制について、2割のドライバーが認識していないと回答していました。「働き方改革」に対してトラックドライバーからどのような意見が出ていましたか。

柚原 運行管理をしているのでドライバーに毎月研修をしていますが、私たちの会社では「給与はどうなるか」といった、ドライバーにとって関心の高い議論をしながら規制を周知させています。

橋本 「時間外労働960時間規制」がはじまった4月にドライバーさんにアンケートを取ったところ、6割がちゃんと説明を受けていないと回答していました。ここは各運送会社の経営者さんもしっかりするべきポイントです。


──4月1日から「年間960時間を上限とする時間外労働の制限」が始まりました。トラックドライバーのこうした「働き方改革」をめぐって、運行管理や配車で考慮、あるいは苦労したことはありますか。

橋本 誰のための働き方改革なのかをよく考えることが大切だと思います。データだけでルール作りをすることで、第一線のドライバーさんたちが逆に疲弊している現状があります。もちろん労働時間を減らすのは大事ですが、状況によって柔軟に対応しないと、かえってルールが負担になる場合があります。

たとえば、あと少しで到着というときに上限時間が来てしまい、その場で翌日まで休憩しなければならない結果、家に帰れないといった状況です。

都道府県によっても状況は違いますし、家にすぐ帰りたい人と長距離運転を希望される人もいる。働き方の多様化をより進めることによってドライバーの負荷が減ると考えます。

トラックドライバーは誰もがなれる、頑張ったら稼げるという、社会のセーフティーネットという側面もありました。労働時間とともに給料の見直しも必要と感じます。給料が減ったから副業をするドライバーもいて、本末転倒です。

私のもとにも「今後どうしたらいいのか」という相談も100件以上きています。ルール整備をする有識者会議にも現場のドライバーが参加できるようにしてほしいですね。


──トラックドライバーの現状をふまえて、消費者に向けて「2024年問題」の核となる部分は何でしょうか。

橋本 企業間輸送の現場がどういう状況で、自分たちの生活にどう反映していくかを正しく知っていただくことが、ドライバーの「働き方改革」も負担も過度なストレスも緩和されていくことにもつながっていくのではと思います。

物流・運送業界では荷主となる企業の立場が強いですが、荷主は消費者の動向を重要視しています。消費者の皆さんが物流の問題にどう目を向けていくかが大切と考えています。

柚原 私たちの生活を支えているのは「宅配」だけの側面ではなく、「企業間輸送」が重要というところをもっと知っていただければと思います。トラックドライバーが運転だけではなくて、荷物を積み下ろし、また他の付帯作業にも奔走している現状を理解してほしいと思います。

松永 運送業は長時間労働や事故といったネガティブなニュースに焦点が当たりがちですが、全産業に関わる奥の深い職業でありライフラインでもあります。トラックドライバーとしての仕事の魅力はたくさんありますし、私もほかの仕事を経験しているなかで、「働きやすさ」や「やりがい」も感じています。

免許を取りやすくしたり、子どもの頃から学校の授業で物流について教えたり、「業界のいいところ」を伝えたりすることで、中高生が将来の就職先として考えられるようになればいいですね。

橋本 私もトラックドライバーのかっこよさを感じますし、社会で重要な役割を果たすヒーロー、ヒロインだと思っています。

柚原 ドライバー同士が走りながら合図を出して、意志疎通を取り合うなど、プロの世界に入れば仕事上の魅力もたくさんあります。だからこそ、若手をこの業界に迎え入れるに当たり、教育者の役割も重要だと思います。我々ももっとレベルアップしながら物流・配送を支えていきますので、皆さんともドライバーの現場を知りながら、良い未来を築いていけたらと思います。