1. HOME
  2. World Now
  3. バルセロナで相次ぐ「スーパーブロック」とは?歩行者優先を追求したら実現した計画

バルセロナで相次ぐ「スーパーブロック」とは?歩行者優先を追求したら実現した計画

World Now 更新日: 公開日:
スーパーブロックでくつろぐ人たち。かつては交差点だった
スーパーブロックでくつろぐ人たち。かつては交差点だった=2024年2月、スペイン・バルセロナ、筆者撮影

交差点が広場に

スペインのバルセロナに来てから、街を歩くのが好きになった。

17世紀の建物がまだ残る旧市街をぬけ、海沿いを歩くと、試合がない日でもサッカーのスペイン1部リーグFCバルセロナのユニフォームを着て歩く人々とすれ違う。

東京で仕事をしていた時は、銀座や日本橋、皇居周辺の散歩を楽しむことはあったけど、千葉の地元を歩くときはそんなにウキウキしなかった。

けれど、バルセロナではいつ歩いても、いつだって心が弾む。毎日歩く道なのに、なぜだか気持ちが明るくなる。渡航から1年半たった今でも相変わらず。

私と同じ考えの人はたくさんいるようで、もともと他の欧米諸国の人々のバカンスではあったが、最近ではリモートワーク先として長期滞在する人も増えているのだそう。

この街が魅力的な理由のひとつには、バルセロナ市の都市計画の一環で進む「スーパーブロック」の影響があるのではないだろうか。

都市計画は大気汚染、騒音、交通事故率、座りがちな現代人の生活スタイル改善などの都市課題に対処することが大枠となっている。その中で提案されたのが、歩きやすい街づくり。車道を歩行者優先道路へ置き換えようという大胆なアイディアで、「スーパーブロック」計画と呼ばれている。

バルセロナの街並み
バルセロナの街並み=gettyimages

例えば私の近所ではもともと交差点だったところが広場となり、緑が植えられ、公共のベンチがいくつも設置された。全く車が通れないのは不便なため、一方向のみ、かつ時速10キロでの走行は許可されているが、ブロック内に店や住居がない区間では、道の真ん中に巨大な子どもの遊び場や植木鉢を登場させ、全く車を通せなくした事例もある。

そうした計画が、今では都市部の九つの区画で進められている。

結果として、スーパーブロック設置から7年ほど経過したサンアントニ市場付近の一部では、自動車量は最大で約8割減少したほか、大気汚染や騒音も改善された。

また、ある地区では、人が歩きやすくなったなどの要因で集客数が伸び、店舗数が30%増加した地区もあるという。

スーパーブロックの設置手前後には店舗経営者などから「車の往来が減ることで顧客が減る」といった懸念の声や、そうした理由から計画に反対する意見も多数寄せられていたが、いい意味で裏切る結果となった。

スーパーブロックに関する取り組みなどが評価され、2023年の住みやすいヨーロッパの都市ランキング「Europe's Best Cities Report 2023」では、バルセロナは第4位となった

今後、バルセロナ市では、2024年は人の移動の8割が徒歩か公共交通機関、自転車となるよう、整備を進めるとしている。

施策の背景に民意のDX

ところでこの都市計画で大きな鍵を握るのが、「Decidim」だ。Decidimとはバルセロナのあるカタルーニャ州の言葉・カタラン語で「私たちが決める」という意味で、2016年にバルセロナ市議会によってつくられたデジタルプラットフォームだ。

市民が市の取り組みについて議論や提案ができるなど、積極的に意思表明する場が設けられているのだ。

市当局が、政治への不信感が強いバルセロナ市民に納得してもらいながら施策を進めたり、改善したりすることを可能にしている。

一部に「ネットにアクセスできない人の意見は集約できないのではないか」と心配する声もあるが、それでも数千人規模の意見を集められるシステムとあって高い関心が寄せられていて、バルセロナ市以外のスペインの自治体で導入されたほか、日本では兵庫県加古川市が採用している。

バルセロナを歩いていると、本当にいろいろな人を見かける。同じスペイン語圏の南米出身者、ヨーロッパからの移住者、アフリカや中東、アジアなどからの移民など、人種のるつぼと言っても過言ではないと思う。

同性婚が認められているスペインでは、男性カップル、女性カップル同士が腕を組んで歩いたり、キスをしたりするのは日常の一コマだ。また、車いすを利用する人の姿は日本より多く目にする気がする。

いろいろな人がいることを知っているこの街だからこそ、Decidimのような、市民とともに決める仕組みが生まれたのだろう。

もちろん、スーパーブロックなどの取り組みには課題だってある。周辺の地価が高騰したのはその一例だ。暮らしが快適になったことからスーパーブロックの周辺に住みたい人が増えたためだ。地元住民からは、今、スーパーブロックのあるエリアに住んでいるのは「金持ちか観光客だけ」と皮肉の声が聞かれる。

でも、おばあちゃん同士が、日が暮れてもベンチでおしゃべりをしたり、子どもたちが楽しそうに遊んだりする様子を見ると、私はなんだか嬉しい。

もしかしたら、私が歩いていて楽しいと感じていたのは、人々を近くに感じることができていたからなのかもしれない。

この居心地さに人は魅了され、定住する。その結果、街が豊かになっていく……。そんな好循環が出来上がっているような気がする。あとはスリなどの犯罪が減ってくれたら嬉しい限りだ。

サグラダファミリアのある、バルセロナ。歴史を大事にしつつ、人々の声を丁寧に拾い上げるこの街が今後どのように発展していくのか、私も身を置きながら実感していきたい。

スペイン・バルセロナの名所、サグラダファミリア
スペイン・バルセロナの名所、サグラダファミリア=2024年2月、筆者撮影