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米国の民主主義を守れ 元大統領記念館が超党派で異例の連携 トランプ氏への警告か

ニューヨークタイムズ 世界の話題 更新日: 公開日:
「ロナルド・レーガン大統領財団・研究所」の壁にかけられた歴代米大統領の肖像画
米カリフォルニア州にある「ロナルド・レーガン大統領財団・研究所」の一部となっている図書館・博物館の壁にかけられた歴代米大統領の肖像画=2015年8月11日、Monica Almeida/©The New York Times

「米国の民主主義の土台を守り、この国の政治の礼節を保とう」――第31代米大統領のハーバート・フーバー(在任1929~1933年)から第44代のバラク・オバマ(在任2009~2017年)に至るほぼすべての歴代米大統領の記念館が2023年9月、異例の声明を連名で出した。

1世紀近くにもわたる米大統領の財団や基金、センターが、民主・共和の両党を問わずに連携するのは歴史的にもこれが初めてだ。歴代政権のレガシーを守る組織が、これほど幅広く一つの問題についてまとまったことは、これまで一度もなかった。

この声明は、味気ないともいえるほど飾らない文体に徹している。現職もしくは過去の大統領のうち特定の指導者に言及しているように思われるのを避けるため、具体例をあげることも注意深く避けている。

しかし、いくつかの言葉づかいや、この声明が出されたタイミングを考えると、前大統領のドナルド・トランプをさりげなくしかっているように見えてくる。2020年の前回大統領選の結果を覆そうとし、自分の敗北を拒み続けているだけではない。今は、四つの刑事事件で起訴されながらも、2024年の米大統領選に向けて共和党の最有力候補となっている。

「私たちみんなに、果たすべき役割と守るべき責任がある」と声明にはある。それは、こう続く。

「選挙で選ばれて職にある者は、自らが手本となってみんなを引っ張り、米国民に利益をもたらすような統治に努めねばならない。ひいては、それが公共のサービスに対する信頼を回復することにもなるだろう。選んだ側も市民社会の対話に参加し、民主的な諸制度と権利を尊重し、安全で安心してだれもが参加できる選挙制度を守らねばならない。そして、市町村や州、国の各レベルで、ものごとが改善されるよう貢献せねばならない」

フーバーからオバマまでの歴代大統領の関連組織で、今回の声明に署名しなかったのは、「アイゼンハワー財団」(訳注=第34代ドワイト・D・アイゼンハワー。在任1953~1961年)だけだった。その理由についての詳細は、明らかにされていない。(訳注=オバマを継いだ)トランプ大統領時代のレガシーを保持する組織の名も、やはり見あたらない。そもそもトランプは、(訳注=多くの元大統領が現職時代の政治的遺産を残すために設けている)財団や図書館を持っていない。

声明は、もともとは「ジョージ・W・ブッシュ大統領センター」(訳注=テキサス州にある息子のブッシュ大統領〈第43代。在任2001~2009年〉の記念館で、図書館と博物館が入っている)が2023年初めに発案して動き出した、とその関連組織の一つである「ジョージ・W・ブッシュ研究所」の幹部役員デービッド・J・クレーマーは説明する。原案はこのセンターの上層部で作成し、ほかの大統領記念館にも署名を求めた。ごく一部だが、細かな修正を打ち返してきたところもあった。

肩を組むクリントン元大統領(左=民主党)とブッシュ元大統領(共和党)
米テキサス州にある「ジョージ・W・ブッシュ大統領図書館」での催しで、肩を組むクリントン元大統領(左=民主党)とブッシュ元大統領(共和党)=2017年7月、ロイター

「日々の報道の見出しから離れて、足もとを見つめ直す必要を単純に感じた」とクレーマーは取材に答えた。「注目を浴びる中で、浮足立たずに確認すべきことを確かめる必要性が高まっていると感じた。自分たちは、いったい何者なのか。何が自分たちの国を偉大にしているのか。自分たちの原点は、あくまでも自由と民主主義にある――といったことだ」

「それは、個々人のことではない。1人の候補者とか、個々の選挙運動のことでもない」とクレーマーは断りを入れる。「いってみれば、私たちはただ、高みにとどまりたかった。だから、これほど多くの歴代大統領の記念館が賛同してくれたのだと思う」

とはいえ、この声明のいくつかの言葉づかいは、容易にトランプへの警告と読み取ることができる。「政治的な言動には、礼節と相手を敬う気持ちのいずれもが欠かせない」というくだりは、相手をさげすむ呼称を乱発し、ときには暴力的なメッセージの発信も辞さないこの政治家の対極といえるからだ。

声明でうたう「全地球的な責任」という言葉の感覚も、「米国第一主義」に熱狂しがちな共和党の底辺支持層により強く狙いを定めているようだ。トランプが好んで強調するテーマで、共和党の大統領候補の指名争いではほかの候補者も繰り返し使っている。

「米国人は、民主的な動きを支持することと、世界中で人権が尊重されることに強い関心を抱いている。なぜなら、こうした自由な社会がほかにもあることこそが、私たち自身の安全保障に貢献し、私たちが住むこの国に繁栄をもたらすからだ」と声明はうたう。

「だが、私たちの足並みが乱れていることが外から見えるようでは、私たちの利益も損なわれてしまう」と続け、こう訴える。

「世界は、私たちが自分の問題を解決するまで待ってはくれない。だから、私たちは二つのことを同時にやり遂げねばならない。まず、より完全な団結を目指すこと。さらには、米国のリーダーシップを求めている国があれば、これを助けるように努めることだ」

米国の大統領制度を研究している歴史家は、この共同声明はこれまでとはかなり違うと指摘する。

その一人、米ニューヨーク州にあるホフストラ大学で公共政策などを教える学部を率いるミーナ・ボーズは、第41代大統領ジョージ・H・W・ブッシュ(在任1989~1993年:訳注=父ブッシュ。2018年没)が亡くなったときのことをまずあげる。「歴代大統領たちが集まることはこれまでもあり、そのよい例がこの葬儀だ」。

その上で、「歴代大統領の記念館がこうして党派を超えてともに行動することは、制度的な重みを声明に加えることにつながる」と語る。「個々の人間としての関わりと、制度にのっとった組織体としての関わりという両面性が、この声明に力強さを与えている」

先のブッシュ研究所のクレーマーによると、この声明のアイデアはブッシュセンターとその周辺でしばし温められてきた。クレーマー自身が2023年1月にセンターにも関わるようになったころには、党派性を消した超党派の形でメッセージを出すことに向けてはずみがつくようになっていた。

米国の民主主義の特性とは何か。なぜ、1776年の建国以来、それが機能してきたのか。改めて訴えたかった、とクレーマーは振り返る。

「オバマ財団」CEOのバレリー・ジャレット(オバマ政権では上級顧問を務めた)は、近年の選挙演説に色濃い政治的なしんらつさを批判し、もっと統一された戦線を組むことの大切さを強調する。

「最近は、毒気を含んだ空気が漂ってしまうことが多く、強固な民主主義とは相いれない状況になっている」とジャレットは取材に眉をひそめた。

「オープンでフェアな選挙、円滑で秩序だった権力の交代、法の支配の順守――それが、民主主義を支える柱だ。『私たちは、本当に民主主義を強くするために努めているだろうか』と10年前に尋ねられたら、『私たちがしていることの多くは、そのためのものだ』と答えただろう。それが攻撃にさらされているとして、こうして声明を出す必要もなかった」

アイゼンハワー財団のCEOメレディス・スライヒターは、この文書に署名することは「丁重に断った」との声明を出した。確かに、歴代大統領の記念館が共同で出す最初の声明になっただろうが、「みんなでこれについて論議する場はなく、署名を求める案内を受けただけだった」としている。

× × ×
今回の声明は、2023年9月7日付で出された。署名に応じた歴代大統領の記念館は次の通り(いずれも原文表記)。

The Obama Foundation
George W. Bush Presidential Center
Clinton Presidential Center
George & Barbara Bush Foundation
The Ronald Reagan Presidential Foundation and Institute
The Carter Center
Gerald R. Ford Presidential Foundation
Richard Nixon Foundation
LBJ Foundation
John F. Kennedy Library Foundation
Truman Library Institute
Roosevelt Institute
The Hoover Presidential Foundation
(抄訳)

(Nick Corasaniti)©2023 The New York Times

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