コロナは法律上は「インフルエンザと同じ」 職場や旅行で変化
新型コロナウィルスは発生当初の2020年2月、「指定感染症」に指定されたが、2021年2月に「新型インフルエンザ等感染症」に変更され、さらに今回は5類となった。
「法律上はインフルエンザと同じ扱いになった、ということです。例えば、感染した場合に隔離されることはなくなりました。緊急事態宣言など社会全体への活動抑制が行われることもありません。職場などでも感染した場合にどうするかは、それぞれの事業所ごとの判断になります」
ほかにも、濃厚接触者への外出自粛の要請がなくなった。ただし厚労省は感染者には「発症翌日から5日間」の外出自粛を推奨し、10日間はマスクを着用するなど周囲への感染予防を心がけるよう求めている。
「ただし、学校保健安全法における指定感染症として、インフルエンザも新型コロナも登校停止がありますから、子どもたちには法律上の制限が残っています。また、校長の判断になりますが、学級閉鎖や休校といった措置がとられることもありえます」
海外旅行などもぐっとしやすくなった。こちらは検疫法上の規定となる。
「旅行者が日本に入国するときに、これまでのような制限はなくなります。日本から海外に行く場合は、国によってはワクチン接種証明やPCR陰性の証明書を求められる場合があるので注意が必要です。ただし、WHOも、5月5日に新型コロナに関する『国際的な公衆衛生上の緊急事態』を解除しましたから、ほとんどの国で制限がなくなっていくでしょう」
発熱したときは「原則どこでも」 しかし現実は「徐々に増やす」
患者の受け入れ体制も変わる。これまで受診できる医療機関は発熱外来などが指定されており、入院できる医療機関も限られていた。
「新興感染症の入院治療は、原則として感染症指定医療機関が担当することになっていました。しかし、指定医療機関の病床数が限られているので、新型コロナでは、それ以外の医療機関にも確保病床として拡大してきたという経緯があります。5類になったことで、今後はどの医療機関でも診療するのが原則です」
しかし実際にどこでも受診できて、入院できるかというとそうはなっていないのが現状だ。
「どこでも診るはずと原則を振りかざしても仕方がありません。そこで、多くの都道府県では、診ることができる医療機関を少しでも増やせるよう調整を急いでいます」
外来で新型コロナの患者に対応している医療機関は現在4万4千カ所。政府はこれを約6万4千カ所に、また入院は3千カ所から8200カ所に増やす目標を掲げている。
「インフルエンザであっても、実は産科や透析、がん、緩和ケアなど、リスクが高い患者さんを専門に診ている医療機関では、外来や入院を受け付けていないところがあります。新型コロナでも、同様に容認されるでしょう」
「2009年の新型インフルエンザのときは、早々にすべての医療機関が診療することになり、それでも『うちは診ない』という医療機関に手を上げさせていました。ところが、新型コロナでは『うちは診ます』と手を上げています。これでは、なかなか診療体制が進まないというのが現状です」
実際にどの病院がコロナ対応しているかは、多くの自治体がホームページなどで公表している。
これまで個人の負担がなかった医療費も、今後は一部で自己負担が発生する。コロナの検査・外来には今後、他の病気やケガと同じように公的医療保険(1~3割の自己負担)が適用される。外来の自己負担額は季節性インフルエンザとほぼ同じになる。コロナ治療薬については、9月末までは無料だが、10月以降は自己負担が発生する可能性がある。
病気として「インフルと同じ」とはまだ言えない
「インフルエンザと同じ」と言われると、私たちの心構えも同じで良いのか、と考えてしまう。だが、「残念ながら今の時点ではそうなっていない」と高山さんは話す。
「やはり高齢者にとっては、季節性インフルエンザよりも病原性が高く、致死率も高いというのが多くの臨床医の一致した診たてです。ただ、インフルエンザもここ3年は流行していないため、高齢者の免疫を低下させているでしょう。また、3歳以下の幼児では、まったく免疫がありません。この状態でインフルエンザが流行したときに、果たして本当に新型コロナの方が病原性が高いと言えるかどうか、それは分かりません。ただ、かつて毎年流行していたころと比べると、やはりコロナの方が怖い病気だと思います」
さらに後遺症の問題もある。新型コロナでは特に、心筋梗塞や脳梗塞などのリスクが高まると報告されている。
「コロナ感染した場合の長期的な影響については、まだ十分に明らかになっていません。血栓形成など循環器系への影響のほか、糖尿病になりやすくなるなど内分泌系への影響も報告されています。若い人であっても、この病気について『ただの風邪』と軽視するのは早すぎます。新たな感染症については、謙虚かつ慎重に見極めていく必要があると思います」
では、感染した場合はどうすれば良いのか。薬は飲んだ方が良いのだろうか。
「基礎疾患のある人、高齢者や妊婦などハイリスクの方は、状態によっては抗ウイルス薬の内服が勧められることがあります。かかりつけ医に相談してください」
焦る必要はないが、自己判断もしないことが大事だという。
一方で、基礎疾患のない若い人は、必ずしも抗ウイルス薬を内服する必要はなく、市販の感冒薬で様子をみても良いという。
「ただ、自分は若くて健康だと思っていても、状態を悪化させることがあります。息苦しさを覚えたり、食事がとれないなど体調が悪ければ迷わず受診してください。とくに、これまで一度もコロナに感染しておらず、ワクチンを打ったこともない方は注意が必要です」
今後のワクチン接種はどう考えれば良いのだろうか。
「少なくとも高齢者や基礎疾患のある方は、3回の接種を終わらせておくことをお勧めします。この流行が続くのであれば、定期的な接種も必要になるでしょう。5回目、6回目と数えるのはそろそろやめにして、インフルエンザのように、私たち医師は高齢者に、『今年も接種しましょうね』と声掛けするようになると思います」
厚労省は毎年接種を推奨するが、欧米では推奨していない国も多く、国ごとに考え方に相違ができているという。
「多くの国で、子どもたちへの推奨は外れてきています。高齢者と同居しているかとか、受験生でリスクを減らしたいとか、それぞれの事情に応じて、家庭で判断いただければと思います」
「季節性」コロナになるのか 集団免疫が鍵
インフルエンザと新型コロナとの違いは、流行の周期性にあるという。
「インフルエンザは『季節性』とついているように、主に冬季に流行してきました。大体毎年12月ごろからじわりと増え始め、正月休みで地方へと拡散し、1月に流行のピークが来て、春になると、おそらく換気が良くなることもあって落ち着くことを繰り返してきました。しかし、新型コロナは現在、年中流行している状態です。つまり季節性になっていません」
世界的に見れば、すでに新型コロナが「季節性」になったと考えられる地域もあるという。
「今年の1月、私はアフリカ南部にあるザンビアの医療支援に入っていました。この時、ちょうどコロナの流行があったのですが、現地では1年ぶりの流行でした。ところが、その流行は軽微なもので、医療がひっ迫することもなく、3週間ほどで消えていきました。まさに季節性の流行だったと言えます。この国では、2021年に住民の血清疫学調査が行われて、33.7%が既感染であるとの結果が出ています。いまの日本が、ちょうどそれぐらいなので、ザンビアは日本の2年先を走っていると言えるかもしれません」
今回の5類移行で、確実に「コロナ前」の日常生活に近づいている。それでもまだしばらくは気をつけた方が良い、ということになる。
「気をつけた方が良いとはみんな思っていても、どこまで気をつけるのかが常に争点になってきました。5類になってからも、流行するたびに部活はやめるのか、結婚式などイベントも延期するのか、それは違うと私も思います。ただ、社会活動の制限は最小限にしながらも、流行を拡げないため、個人でできる協力はしていただければと思います。とくに高齢者や持病のある人に感染させないよう、配慮をお願いします」
感染症とのつきあい方 蓄積されたノウハウ
とりあえず落ち着きつつある新型コロナのパンデミック。今後また変異株などが登場して大流行する可能性はないのだろうか。
「可能性はあるかと問われれば、あると言うしかありません。ただ、この1年以上にわたって、病原性の低下したオミクロン株で落ち着いており、世界でも新たな変異株へのシフトは認めていません。先行して感染拡大を認めた欧米諸国では、明らかに流行規模が減弱してきています。日本もその軌道に乗りつつあるとの見方がありますが、第8波の死亡数はこれまでで最多でした。結論を出せる状況ではありません」
コロナ禍の3年間、様々な問題が起きたが今後コロナとは別の新しい感染症が登場したときに、この間の経験は生きるのだろうか。
「日本はこれまでもパンデミックのたびに、感染症に対する守りを発展させてきました。マスクや手洗いはスペイン風邪のときに日本人に定着した衛生習慣です。今回のコロナの経験で、職場や学校などで換気の重要性が認識されましたし、過密を避けることが集団感染予防で効果的であることも理解が進みました。高齢者施設のような脆弱な人たちが集まる場所を守るノウハウも蓄積されました。これらは、インフルエンザなど様々な感染症でも生かすことができるものです」
しかし、患者の受け入れ体制などには課題を残した。緊急事態宣言など大きな社会負担もあった。
「今回のパンデミックについて、『どう対応するのが望ましかったのか?』はしっかりと検証し、感染症だけでなく、自然災害などへの教訓とする必要があると思います」