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大村和弘医師描いた映画「Dr.Bala(ドクターバラー)」が話題 東南アジアで活動12年

World Now 更新日: 公開日:
ミャンマーで医療活動中の大村和弘医師
ミャンマーで医療活動中の大村和弘医師=中村力也氏撮影、KOBY PICTURES提供

カンボジア、ラオス、ミャンマー…12年間の活動を追う

映画は、カンボジアやラオス、ミャンマーなどで医療活動を続けている大村和弘医師(東京慈恵会医科大、耳鼻咽喉科)に密着して制作した。バラーはミャンマー語で「力持ち」を意味し、大村医師のニックネームでもある。

ドキュメンタリー映画「Dr.Bala(ドクターバラー)」の予告編=制作した KOBY PICTURESのYouTubeチャンネル

大村医師の活動の特徴は、休暇を利用して毎年1週間程度、医療ボランティアを続けている点だ。現地に生活や活動の拠点を構え、骨をうずめるような形ではない。だが、トップレベルの耳鼻咽喉科医としての経験や技術を若手医師らに伝えたり、彼らを日本留学に招いたりして、中長期的に現地の医療の底上げを図っていく。

ミャンマーで現地の医師らに技術指導する大村和弘医師(中央)
ミャンマーで現地の医師らに技術指導する大村和弘医師(中央)=安永ケンタウロス氏撮影、KOBY PICTURES提供

目標は、自身がそこにいなくても持続可能なシステムを構築することであり、富裕層が近隣諸国で治療を受ける現状を変え、現地の医師にその国の患者を治療するという「誇り」を持ってもらうこと。

停電、不足する医療機器や人材、自然災害、過酷な歴史など、各国の抱える事情も映し出される。立ち現れる壁や課題を、大村医師は周囲の人々とつながり、ともに動き、熱意と努力で乗り越えていく。

ミャンマーの町並みを眺める大村和弘医師
ミャンマーの町並みを眺める大村和弘医師=中村力也氏撮影、KOBY PICTURES提供

「年1週間なら自分もできると、観客に力を与える映画に」

日本に一時帰国したロサンゼルス在住のコービー・シマダ監督に聞いた。

――ロス在住の監督と、日本と東南アジアを活動拠点としている大村さんがどうして出会ったのでしょう?

2006年にロスに短期留学していたカズ(大村医師)が、僕が所属していたラグビーチームに参加したのがきっかけで知り合いました。カズは東京の町田出身、私も長く住んでいたので意気投合しました。

――そのときから映画にしようと?

いえ、そのときはまだ全く思っていません。カズは翌年の2007年に(ミャンマーなどで活動を続けている)国際医療NGOジャパンハートで医療ボランティアをしました。

その話を2008年に私が日本に帰国した時に聞いたんです。えー、と驚くことが多くて。映画にも登場しますが、幼い頃にやけどを負って、とけた皮膚で口とひじが癒着してしまった少女のことを聞いたのも、このときです。

映画「Dr.Bala」について語るコービー・シマダ監督
映画「Dr.Bala」について語るコービー・シマダ監督=2022年12月、中川竜児撮影

――密着はいつからですか

2013年からです。ラオス、カンボジア、ミャンマー、そしてもちろん日本と、2019年まで撮り続けました。時間をかけて追うことで、国ごとの医療事情の違いや、現地の医師の成長ぶりがよく分かりました。カズはこういう風に力をつけさせて、自分たちの力で治療できるようにしているんだな、と。

ラオスで撮影するコービー・シマダ監督(左)とカメラをのぞき込む大村和弘医師(中央)
ラオスで撮影するコービー・シマダ監督(左)とカメラをのぞき込む大村和弘医師(中央)=高橋義彦氏撮影、KOBY PICTURES提供

――年に1週間だけ行くというやり方で周りの人を育て、自分がいなくても動くシステムをつくるという方法論が面白いですね

そうですね。そのやり方の正しさが、コロナ禍で証明されたというか、生きた部分もありました。カズもコロナ禍で現地に行けなかったのですが、技術指導した医師らが頑張って治療を続けられたんですね。

もう一つ、カズの活動の強みは、「年に1週間なら自分にもできるんじゃないか」と周囲に思わせる点もあります。僕自身も1週間だったから毎年ロスから追いかけられたというのがありましたし、日本でも何回か上映会をしたのですが、「何かやらないと、という思いになった」という感想が多く、うれしかったです。

東京都内であった上映会に駆けつけた大村和弘医師(左)とコービー・シマダ監督
東京都内であった上映会に駆けつけた大村和弘医師(左)。コービー・シマダ監督とともに観客の質問に答えた=2022年12月、中川竜児撮影

――大村さんに共感して一緒にボランティアに出かける日本の医師たちも生き生きと活動していました。「惰性で人生終わるのではなく、世のためになることがしたい」と言った人もいましたね

医療機器が不足していたり、体調を崩したり、大変な部分もあるんですけど、皆さんとても楽しそうなんですよね。現地の医師の熱意や温かさだったり、患者さんとの距離の近さだったり、感じることが多いのでしょうね。

それと、現地はどこも家族の絆がすごく強くて、家族の誰かが入院するとなると、田んぼを売ったりしてお金を工面するんです。病院の相部屋で患者が寝て、家族は廊下で寝て、ずっと付き添って、見守って、という感じで。

こういうことのために働くのが、人間の本来の姿なんじゃないかな、と僕自身も思いました。

――色んな映画祭に出品されています。反応はどうですか

たくさんの人に見ていただきたいという思いがありました。ロサンゼルス映画祭の長編ドキュメンタリー部門で監督賞、インドの映画祭でベストドキュメンタリー特別賞などをいただきました。個人的にはカンボジアの映画祭で上映できて、現地の人にも見てもらえたことがうれしかったです。

ミャンマーも映画祭に出せれば、と思っていたんですが、撮影の2年後にクーデターがあって、がらっと雰囲気が変わってしまって。撮影させてもらった人たちやお世話になった人たちに見ていただきたいんですが。

――日本での上映予定は

2月2日から「シアタードーナツ・オキナワ」(沖縄市)で上映していただくことが決まっています。全国の多くの方に見ていただけるように、配給会社や上映していただけるミニシアター、自主上映先を探しています。

映画の情報は公式サイト問い合わせはdrbala@kobypics.comへ。Amazon Prime Videoでも配信中。