ユダヤ教のラビ、キリスト教の牧師、イスラム教のイマームもいる。
ニューヨーク・マンハッタンの総合芸術施設リンカーンセンターで2022年7月10日(日)夕方に開かれた集団結婚式。MCを務めたコメディアンで女優のリー・デラリアは、まず会場の野外音楽堂があるダムロシュパークに集まった参加者をよく観察してみた。
女装してパフォーマンスを繰り広げる男性や、三つの異なる宗教の指導者、ブロードウェーのスター。ニューヨーク市長も来たし、大声で話す男役のレズビアンもいた。
デラリアはMC席からそれぞれに触れ、何百人もの人々に語りかけた。「みんな、これこそニューヨークだ」
その言葉がニューヨークの特徴をとらえているとすれば、これほど多くの人々がマンハッタンの芸術活動の場に集まった理由もこの街の特徴をよく示していた。とくにコロナ禍で結婚式を遅らせたり、予定の変更を迫られたりした人々が、機会を逃すまいとこれだけの規模で集団結婚式に集まったのは、この街ならではのことだろう。
主催者によると、参加したのは200組ほどのカップル。式自体は無料で、「Celebrate Love : A (Re) Wedding(愛を祝おう:〈リ〉ウェディング)」と名付けられた。リンカーンセンターが、夏の企画の一環として実施した。
参加者の一部は、白いドレスに白いスーツなどで正装してきた。一方、ちゃめっ気たっぷりにタキシード風のTシャツを着た男性や、パーティー用品小売り大手のパーティーシティー社のベールをかぶる女性もいた。
デラリアが紹介したように、著名なゲストも数多く来た。その一人、ニューヨーク市長のエリック・アダムスは、バンドが開会の曲「ニューヨーク・ニューヨーク」を演奏し始めると、意気込んでマイクに向かった。
「ニューヨークは無敵だ。われわれの精神は、決して打ち砕かれることはない。互いに愛し合うわれわれの愛情を打ち砕くものなんてありはしない」
数時間続いた式典は、肩のこらない形で始まった。それぞれのイベントごとに、スタッフはそれに見合った象徴的な手はずを整えていた。お祭り気分の花嫁には、ブーケや花冠を。あとで消えるヘンナタトゥーを入れる場面も。(訳注=LGBTカップル向けの)虹色の小型の吹き流しや木に飾ったランタンの下で記念撮影をするカップルもいた。
参加者が席に着くと、俳優のマリオ・カントーネら出演者が恋のセレナードを歌った。そんな音楽の合間に、宗教者の祝福が差し挟まれた。
ブルックリンのベス・エロヒム会衆からはラビのマット・グリーンが、マンハッタンにあるニューヨーク大学のイスラムセンターからは役員を務めるイマームのハリド・ラティフが、さらにマンハッタンのミドル聖堂参事会教会からは牧師ジャッキー・ルイスが来た。
式典の最後は、全員による団結式で締めくくられた。ピンク、青、黄の長いテープをみんなで持ち、高く掲げた。一斉に上げるのに失敗した人も中にはいたが、何の滞りもなく終わる結婚式がどれだけあるだろうか?
インスタグラムでファッションパートナーシップを運営するホルディス・ペレス・マトス(35)と、フェイスブックなどを運営するメタ社で著名人とのパートナーシップに関わるマーカス・ムーア(37)は、20年夏に挙式を考えていた。ところが、その数カ月前にコロナ禍が始まった。
アッパーマンハッタンに住む2人は、式を1年ほど遅らせた。結局、ムーアの故郷のアラバマ州マリオンにある第一会衆派教会で式を挙げた。
2人は今回の式典の企画を知ると、すぐに賛同した。というのも、婚約したのは19年、リンカーンセンターの夏の行事に際してだった。2人の恋愛物語はここで育まれ、互いに身近に感じる場所となっていた。
「リンカーンセンターで開かれる公開で無料の一連の企画は、ティーンエージャーのときから私たちの暮らしに大きな位置を占めていた。だから、今回もぜひ参加したかった」とムーアは語る。
キンバリー・ローレンスロペス(28)とジェフリー・ローレンスロペス(33)も、コロナ禍で結婚式の予定を変えさせられた。20年5月にマンハッタンを周遊するクルーズ船で挙式予定だった。しかし、クルーズはキャンセルし、同じ日にズームでバーチャル結婚式をすることにした。
今はクイーンズに住む2人は、ニューヨーク州ウエストハンプトンにある家を一軒、Airbnbで借り上げた。その場に招いた客は、花嫁の母だけだった。
「挙式をつかさどる人もズームで参加した」とキンバリー(診療所で助手をしている)。母を除いて「客の全員がズーム参加だった」
今回の式典では、ゲストを2人招くことができた。そこで、バーチャル参加しかできなかったジェフリーの母を招くことにした。夫婦は、夫の母と祝う機会ができたことをとても喜んだ。
「世の中が正常に戻ったことを意味することでもある」とジェフリー(不動産会社の在宅営業マネジャー)はいい添えた。
ニーシュ・マクリーン(37)とカティーシャ・グロスター(37)は、コロナ禍前の18年7月に結婚した。マンハッタンの行政機関に届け出て婚姻が成立する民事婚で、ゲストは2人しかいなかった。
だから、「ほかの大勢の人たちとともに挙げる今回の式典は、素晴らしい体験になると思った」とグロスター(高等教育機関のプログラムマネジャー)は振り返る。
ニュージャージー州ミドルセックスに住むこのカップルは、お互いの愛を新たに確かめ合う機会としても考えていた。09年に出会い、同居するようになってから13年がたっていた。
「2人の愛が続いていることにも感謝したい」とマクリーン(慈善団体勤務)は補足した。
エスター・フリースナースタッツマン(71)とウォルター・スタッツマン(71)の夫婦は、新たな誓いを立てるよい機会だと思ってこの式典に引き込まれた。
コネティカット州マディソンに住むフリースナースタッツマン(SFやファンタジー小説の作家)とスタッツマン(大学で音楽を教える教授)が同じ州にあるイエール大学で結婚したのは1974年12月のことだった。
以来、機会あるごとに互いの愛を確かめ合った。SF大会やマンハッタンのタイムズスクエアでのバレンタインデー、オレゴン州ポートランドの24時間開いてるエルビス教会(今は閉鎖されている)……。「愛が大好き」なフリースナースタッツマンは、「みんなが幸せなところを見たかった」と話す。
まさに「幸せ」という言葉がピッタリなムードが、今回の式典とこれに続くレセプションを包んでいた。いく組かのカップルとゲストは、ダンスフロアで踊った。キスをし、笑い、その場にひたりきってクルクルと回った。七色のパーティー照明と頭上の1300ポンド(590キロ弱)もあるミラーボールが万華鏡のような光を投げかけた。
どうすれば、幸せな関係を育み続けることができるのか。スタッツマンは47年の結婚生活からこう助言する。
「毎日、『愛してる』とお互いがいうこと。それに、口論をしても、その場を立ち去らないこと」(抄訳)
(Anna Grace Lee)©2022 The New York Times
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