――国連で小国とはどのような存在でしょうか。
国土や人口、経済規模など、定義は様々ですが、いずれにしても小さい国はどうしても、単独で行動するには限界があります。一方で、国連は主権平等が原則で、総会では国の大きさにかかわらず一国が1票を持っている。まとまれば小国でもインパクトを持ちうる舞台です。
国連には、人口1000万人以下の国でつくる「小国フォーラム(Forum of Small States, FOSS)」という非公式の集まりがあります。これは1992年にシンガポールの呼びかけで約70カ国で結成されました。30周年を迎え、メンバーは100カ国を超えます。
――国連加盟国が現在193カ国ですから、実に半数以上がFOSSのメンバーなんですね。どんな特徴があるのでしょうか。
「小国」というくくりでまとまっているFOSSですから、地域や文化、経済規模や発展レベルなどは多様性に富んでいます。安保理改革の議論でも、ほかの国々の案に意見するだけではなく、自分たちの提案を出しています。そうした多様性の中からより広い視点で、興味深い提案が出てくることも少なくありません。
小さい国が大国に迎合せず、自分たちなりの立場を主張しているのは立派です。いわゆる力ではかなわないから、大国の影響をなるべく受けないように、小さい国同士でそれぞれ知恵を絞り、連合体をつくる。小国の処世術といえるでしょう。
――国連大使時代、小国ならではの力を感じるような場面はありましたか?
大国の国連大使は通常3年ほどで定期的に交代しますが、比較的小さい国では、人材の関係もあるのでしょう、10年、20年と同じ大使が務めているケースも珍しくありません。独自のネットワークを持っていたり、国連外交の細かいルールや長く議論されている問題に精通していたりと、独特の存在感を放っています。
国連総会では今年4月、安保理常任理事国である米英仏中ロの5カ国が拒否権を使った場合、総会での説明を求める決議案が採択されました。この案を主導したのはリヒテンシュタインです。国土は世界で6番目に小さく、人口は約3万8000人で8番目に少ない、欧州の小国です。大使のクリスチャン・ウェナウェザー氏は2002年から現職です。
ロシアによるウクライナ侵攻で、拒否権の透明性への注目が高まり、決議にいたりましたが、実はリヒテンシュタインは同様の提案を長年続けていました。今回、ようやく日の目を見た形です。
大使個人の能力に加え、各国で対等な大使という立場で長い期間、力量を発揮できた例と言えるでしょう。もちろん、その陰には、大国の要望で握りつぶされるような経験も多々してきたと思います。
――小さい国ならではの強みもあるんですね。
このところ中国の南太平洋の島国への接近が取り沙汰されていますね。対抗するように米国も、大使館設置や関与強化を打ち出しています。日本もこの地域の首脳を一堂に招く、日本・太平洋諸島フォーラム首脳会議(太平洋・島サミット)を1997年から3年ごとに開くなど、良好な関係を維持しようと努力しています。大国にとっても、小国が無視できない存在であることを示しています。