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昔ロシア語、いま中国語 かつて「日本語ブーム」もあった北朝鮮、語学習得の道は

北朝鮮インテリジェンス
中国語で書かれた、北朝鮮製の薬や歯磨き粉のパンフレット
中国語で書かれた、北朝鮮製の薬や歯磨き粉のパンフレット=平井良和撮影

RFAは7月8日、TOEFLを運営する米国の非営利団体ETSの2021年度資料を根拠に、北朝鮮の成績が120点満点で85点だったと伝えた。韓国は86点だったという。

ETSの19年度資料でみると、北朝鮮の点数は、韓国と同じ83点。英語を公用語の1つとし、アジアで最高点だったシンガポールの98点には及ばないが、中国の81点、日本の72点などを上回った。

北朝鮮の元外交官によれば、崔善姫外相や李容浩元外相らの母校で、外交官の養成機関である平壌外国語大では、英ロ中日の4語学部と民族語学部などがあり、計21カ国語を教えている。5年の履修期間中、3~4年は留学に宛て、実践的な学習に努めるという。

ただ、留学費用の捻出は簡単ではない。北朝鮮と国交を結んでいない国も多い。費用が安く、国交もあるアフリカ諸国に留学する学生が多いという。崔永林元首相を養父に持つ崔善姫外相の場合、呉振宇元国防相や許錟(ホダム)元外相らの子どもと同級生だったこともあり、例外的に地中海のマルタで英語を学んだ。

この元外交官は「今のところ、米国と国交正常化する道筋が見えない。国際社会では、英語は必ず必要になる言葉だが、北朝鮮の人々にとって本当に必要な言葉なのかどうか、まだわからない」と語る。

北朝鮮では過去、ロシア語が広く使われた。朝鮮戦争で荒廃した北朝鮮の街を旧ソ連や東欧諸国が支援して再建した。旧ソ連は北朝鮮に実験用原子炉や戦闘機、発電所など様々な支援を行った。軍関係者はフルンゼ軍事大学に留学した。金正日総書記の長男で、2017年に暗殺された金正男氏も一時期、ソ連に留学したことがある。

ただ、1991年のソ連崩壊後、ロシアと北朝鮮の関係は先細りになった。ロシアが北朝鮮に対し、市場価格よりも安い「友好価格」で物資を支援することもほとんどなくなった。ロシア語の履修を希望する北朝鮮の学生は減る一方だという。

中朝ロ3カ国の国境地帯。手前は中国領、左手はロシア、中央を流れる図們江の対岸は北朝鮮
中朝ロ3カ国の国境地帯。手前は中国領、左手はロシア、中央を流れる図們江の対岸は北朝鮮。同江の河口に日本海がかすんで見える=2006年3月、古谷浩一撮影

北朝鮮では一時、日本語ブームが起きたこともある。1990年9月28日、訪朝した金丸信元副総理と社会党の田辺誠委員長が、朝鮮労働党との間で、日朝国交正常化に向けた政府間交渉を促す3党共同宣言に署名したからだ。

北朝鮮関係筋によれば、それまでも在日朝鮮人が投資した事業や貿易に携わって利益を上げた人たちがいた。3党共同宣言で、こうした日朝関係の仕事が増えると予想した人は多かった。日本とは国交がないため、人々は帰国事業で北朝鮮に渡った在日朝鮮・韓国人から日本語を学んだという。

だが、2002年9月の日朝首脳会談で、北朝鮮が日本人拉致の事実を認め、両国関係は険悪になった。北朝鮮の弾道ミサイル発射や核実験により、日朝貿易もほぼ途絶えた。

22回訪朝し、今年3月に亡くなった金丸信吾氏は2012年、朝鮮対外文化協会で働く女性と講演会の仕事で話をする機会があった。この女性は「3党宣言のとき子どもでしたが、これからは日本だと思って日本語を勉強しました。しかし、今は後悔しています」と語ったという。

そして今、北朝鮮の人々に人気があるのが中国語だ。欧米の北朝鮮研究者が3年ほど前、訪朝した。平壌から南北軍事境界線に近い開城に車で向かう途中、休憩所に立ち寄った。

そこにある土産物売り場では、大勢の中国人観光客が買い物を楽しんでいた。売店で働いているのは、若い女性たちだった。高級中学校(高校)を卒業した人ばかりだが、皆流暢な中国語で、観光客に商品の説明をしたり、「値引きには応じられない」と説明したりしていた。

北朝鮮関係筋は「北朝鮮で今、食料品から家電、乗用車まで、中国製品を見かけない場所はない。いちいち朝鮮語の使用説明書が着いているわけでもない。中国語がわからなければ、調理方法も洗濯機の動かし方もわからない」と話す。

中朝国境を流れる川の中国側の河畔に掲げられた両国の国旗=2019年10月、遼寧省丹東、平井良和撮影

北朝鮮は戦後、日本統治時代に使われていた漢字の使用を、教育の場から一掃した。北朝鮮の戦後世代は自分の出生地や名前すら、漢字で書けない人が多い。中国製品の扱い方も、一から勉強しないとわからないという。

関係筋によれば、中国の華僑や朝鮮族らが個人的に塾を開いたり、家庭教師をしたりして中国語を教えているという。中国語と朝鮮語を話すバイリンガルの人も増えている。

金正恩朝鮮労働党総書記の妻、李雪主氏も2018年3月に訪中した際、中国の習近平国家主席の妻、彭麗媛氏に積極的に話しかけている姿が映像で配信された。別の関係筋によれば、李氏は北朝鮮の芸術団に在籍していた当時、中国に短期留学したことがあり、中国語を操るのだという。

ロイヤルファミリーから庶民まで、中国語は北朝鮮の人々にとってなくてはならない言葉になっているようだ。