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ロシアの脅威にかつてなく結束するNATO、日本の核保有めぐる議論の行方は【後編】

これだけは知っておこう世界のニュース

中川 後編は、スペインで開催された北大西洋条約機構(NATO)首脳会議(62930日)とウィーンで開かれた核兵器禁止条約の第1回締約国会議(62123日)について触れていきます。

パックン NATOのイズメイ初代事務総長(英国)は、「NATOの目的は?」と聞かれたときに「ソ連を締め出し、アメリカを取り込み、ドイツを抑え込む」(Keep Soviet union Out, America In, Germans Down)というふうに表現したんですよ。

でも、今のNATOを見れば、そのドイツの活躍がどんなに大事なのかが、とてもよく分かると思います。それこそ今回のG7首脳会議では、ドイツのショルツ首相が活躍しましたし、ドイツは新型の武器もウクライナに提供している。ドイツが立ち上がって、ロシアをより強く牽制する役割を果たすぞ、という意気込みが感じられます。

ブリュッセルで開かれた欧州連合(EU)首脳会議後に記者会見するドイツのショルツ首相=2022年6月24日、ブリュッセル、朝日新聞社

今までは、ドイツがNATOへの新メンバーの加盟を阻止していました。ウクライナも阻止されていました。しかし、そのドイツが前向きになって、今回の首脳会合では、北欧のフィンランドとスウェーデンの加盟も認められました。

アメリカをいかに取り込むかは、少なくともトランプ前大統領時代は課題の一つでした。トランプ前大統領は交渉のカードだけだったのかもしれないけれど、NATOから撤退しようとしていましたから。そして、今回、ロシアの締め出しというか、ロシアの抑え込みに、中国の抑え込みも加わった気がします。

NATOサミットに「パートナー国」として、インド太平洋から日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランドを招待して、中国牽制に言及し、それも声明文にも載せるという、このあたりのNATOの動きは、以前より明らかに団結力があって存在意義がよく分かります。日本も含め世界各国の防衛費も増額されて、もうこんなに強いNATO見たことないぐらいですよ。少なくとも冷戦終結以降、なかったと思います。

NATO首脳会議に出席する岸田文雄首相(中央手前)=2022年6月29日、スペイン・マドリード、代表撮影

中川 今回、NATO2010年以来、戦後4回目の「戦略概念」を変更し、今後10年間の行動指針を策定しました。2010年版と今回の2022年版を比較すると、2010年版のポイントは、国際情勢が平和な状態でNATO域内への旧来型の攻撃の脅威が、小さいという評価でした。

それでロシアは戦略的パートナーに位置づけ、ミサイル防衛も含めて、ロシアとの相談や協力を深めるとしています。中国への言及はありませんでした。しかし、2022年版の今回は、ロシアはパートナーとはみなせない、最大かつ直接の脅威、NATO域内への攻撃の可能性がある、と評価しています。

決定的にまずここで概念が違うし、中国は野心と威圧的政策でNATOの国益や安全保障に挑むとあります。さらに中国とロシアが戦略的関係を強化、インド太平洋地域の事態は、欧州、北太平洋に直接影響するというのも今回記述されました。大きく変わりましたね。これが今の国際情勢を端的に反映していると思います。

パックン

パックン 今回のロシアによるウクライナ侵攻で、ロシアに裏切られたと思っているNATOメンバーも多いと思うんですよ。ロシアの言い分を信じるなら、ロシアはNATOの脅威を解消したくて侵略戦争を起こしたわけです。NATOも、ロシアに気を遣っていれば脅威にはならないだろうと思って、ブカレスト宣言(*)とかでウクライナの加盟を目指すと言いながらも実行しませんでした。

*ブカレスト宣言―2008年にルーマニアのブカレストで開かれたNATO首脳会議で採択された。加盟国間の意見が分かれたことから、ウクライナの「将来的な加盟」を認めた一方で、具体的な準備手続きに入らない、あいまいな趣旨となった。

NATOはロシアを甘く見ていたし、性善説でロシアを考えていたようです。ロシアは何があっても長期的には民主化するでしょう、と。それで国際秩序を守っていれば、みんなと貿易関係とか文化交流関係で得をするから、そのまま平和を維持してくれるだろう、と。それが今回、裏切られたような結果が、このNATOの声明文にも入っています。

同時に中国からも同じような新しい脅威があります。あんなに中国の発展に我々が貢献したのに、なんでこうやって国際秩序に挑発するのかという、がっかりと驚きと脅威、そういう気持ちが全部伝わってくるんですね。

心配なのは、中国です。中国は過去にも脅威を感じた時に、ロシアが今回やったように先手を打つ、つまり先制攻撃をすることもあるんです。「攻撃的抑止」といいます。

朝鮮戦争とか、中国とインドが戦争をした時とかもそうだし、ベトナム戦争もそう。自分にとって脅威があると思ったら外で戦う。攻撃されるのを待つのではなくて先手を打って脅威を解消するということがあるんです。

NATOに、インド太平洋から日本、韓国、ニュージーランド、オーストラリアが加盟する方向で実際に動き出したら、中国から見ればこれを脅威と感じて先手を打つ可能性はゼロとは言えない。ちょっと怖いなと思うんですよ。

中川 今回、岸田首相が、日本の首相として初めてNATOサミットに出席されました。日本への評価は高かったようですが、それは逆に言うと、日本の防衛力への期待値が上がったということでもあると思うんです。

だから、日本はこれから防衛に全力をかけていくことが期待されていると思うんです。そこで、6月に核兵器禁止条約の第1回締約国会議が開かれてグテーレス国連事務総長が、「核戦争の可能性が、現実にありうるレベルに戻ってきている」という発言をビデオメッセージで寄せました。

核兵器禁止条約の第1回締約国会議で、国連のグテーレス事務総長のビデオメッセージが流された=2022年6月21日、ウィーン、朝日新聞社

締約国会議には、今回、日本のように条約には署名していないけれどオブザーバーとして参加する国もありました。日本政府はオブザーバーとしての参加もしませんでした。オブザーバー参加について、私は意味がないとは言わないですが、もうちょっと本質的なところで議論すべきではないかと思うんです。

日本は、これまで非核3原則も含め、核に関する国民的議論がタブー視されてきました。私の元外交官としての経験から言うと、日本政府の立場は結局、国民の意志の反映でもあります。日本がアメリカの「核の傘」の下にいることについて、今後どうしようとしているのか、今回の締約国会議には、核保有国は一切出席していない中でオブザーバー参加してもあまり意味がない。それはパフォーマンスに過ぎないと私は思います。

そうでなくて、日本がやるべきことは、核保有国を核兵器禁止条約の世界に引き連れてくることです。そのためには、日本自身がアメリカの核を頼らずに、どうやって日本の安全を保障するのかという根本的な議論を先に始める必要があるのではないかと思うんです。今年に入り、ロシアのウクライナ侵攻があり、日本を取り巻く安全保障環境は本当に厳しいと思います。

パックン オブザーバー参加は、意味ないとは僕は思わないですよ。それを言ったら、日本はNATOでもオブザーバーです。それでもNATOでは仲間意識を示すことができます。それに、オブザーバーとしてでも、その部屋にいないと聞けない話があると思うんですよ。

我々、一般市民のレベルでは、全部報じられても読む暇はないですよ。でも、日本の担当者には、誰よりも詳しく、すべての情報を握っていてほしいわけです。そのためのオブザーバーとしての参加も、大きいかなと思うんです。でも僕は、何よりも中川さんの指摘の、「国民レベルの議論」がないとまずいというのは一番同意するところですよ。

中川浩一さん

中川 繰り返しますが、国連トップのグテーレス事務総長が、核兵器の使用について、「今年になって現実的にあり得る」と発言したことの重みを日本人は改めて認識する必要があると思うんです。

今、時代は変わり、日本を取り巻く環境というのが、本当に著しく悪化しているということを認識する。日本は中国とロシア、北朝鮮に囲まれています。

私は外務省時代に中東のイスラエルに勤務したことがあります。イスラエルは、四国ぐらいの大きさですが、周辺はイスラム組織ハマスがいて、いつでもイスラエル本土にロケット弾が飛んでくる可能性がある。日本にとっての北朝鮮と同じです。そして、隣にはシリアがある。さらに離れてイランがいるわけです。北には、同じくイスラム教シーア派組織ヒズボラもいる。皆がイスラエルに敵対心を持っています。日本はイスラエルとよく似た状況だと思うんですよ。

パックン 僕は基本的スタンスとして、何についても議論は止めちゃいけないと思いますよ。考えない、話さないっていうのは「アウト」です。みんなが当然に思っていることについて、常に話し合ったほうがいい。日米関係もそうですよ。議論しましょうよ。

北大西洋条約機構(NATO)首脳会議を終え、記者会見に臨むバイデン米大統領=2022年6月30日、マドリード、朝日新聞社

日米の同盟関係は絶対じゃないと思いますよ。考え直して、その存在意義、地域共同体の存在意義、日米関係の存在意義がもう分からなかったら、考え直してやり直してもいいんじゃないかと思います。

話さないと、例えば基地問題が起きた時に、米軍が勝手に日本の領土を使っているように感じて、みんなが腹立つんですよ。「こういう必要性を感じて結んだ条約で、必要性を今も感じているから維持している条約であって、米国が勝手にやっていることじゃない」ということを少し認識してもらえると、いいかなと思うんですよ。

例えば米軍や米兵が起こした事故とか事件を許すわけではないんだけど、議論が止まってしまうと、どんどん国民感情のバランスが取れなくなると思うんです。だから、なぜ日本は核を持たないのか、作らないのか、持ち込ませないのか、その意味を確認しあうための議論も必要だと思います。

中川 パックン、率直な意見をありがとうございました。今年に入り、世の中に絶対はないということを痛感しています。日米同盟だって絶対じゃないんです。日本は、世界に誇る民主主義国家だと私は思います。だからこそ国民レベルでの自由闊達な議論を、こういう危機だからこそ始めたいですね。このコラムが、今後も、読者のみなさんへの刺激材料になれるように願っています。

(注)この対談は、7月4日にオンライン形式で実施しました。対談写真はいずれも上溝恭香撮影。