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内戦に巻き込まれた大使館員は、敵同士だった 『モガディシュ』監督が語る撮影の裏側

現地発 韓国エンタメ事情
韓国大使役を演じたキム・ユンソク(左)と韓国大使館参事官役を演じたチョ・インソン
『モガディシュ 脱出までの14日間』から。韓国大使役を演じたキム・ユンソク(左)と韓国大使館参事官役を演じたチョ・インソン  ©2021 LOTTE ENTERTAINMENT&DEXTER STUDIOS&FILMMAKERS R&K All Rights Reserved. 

――韓国と北朝鮮の大使館職員がソマリア内戦から一緒に脱出したというニュースは1991年当時から知っていましたか?

事件の大きさに比べるとニュースの扱いは小さく、当時は気付きませんでした。2017年ごろ、たまたま後輩から聞いて知って、すごい話だなとびっくりしました。それから2年ほど経ってその話を映画化するという企画が自分のところに来て、運命的だと感じました。

――どのあたりがすごい話だと思ったのでしょうか?

これまで内戦を素材とした映画は、内戦の悲惨さや苦痛を描くもので、内戦の加害者や被害者など直接的な関係者が主人公の映画でした。ところがこの事件は、外部から来た人たちが内戦に巻き込まれ、同時に自分たちの中でも葛藤を抱えているという二重構造を持っている。それがおもしろいと思いました。まだ冷戦時代の影響が色濃く残る90年代初頭、南北の外交官が内戦に直面し、一緒に脱出するという事実だけでも想像力を刺激されます。この地球上で最も敵対している2つのグループが、生存をかけて協力せざるを得ないというアイロニーに惹かれました。

『モガディシュ 脱出までの14日間』から。内戦に巻き込まれ、路頭に迷う北朝鮮大使館の職員と家族 ©2021 LOTTE ENTERTAINMENT&DEXTER STUDIOS&FILMMAKERS R&K All Rights Reserved. 

――映画はソマリアの首都モガディシュがメイン舞台ですが、撮影はモロッコだったそうですね?

この映画を作ると決めて、社内で本格的に会議が始まった時、総括プロデューサーは冗談半分で「これは月に行って撮る方が簡単だ」と言いました。ソマリア内戦は今も続いており、実際に行くことはできません。月に行ってセットを組んで撮るしかないぐらい無謀な企画に思えたということです。どこで撮るのがいいか探した結果、モロッコが有力な候補地として挙がりました。なぜならリドリー・スコット監督の『ブラックホーク・ダウン』(2001)がソマリア内戦を描いた映画で、モロッコで撮影したという情報があったから。

ところが行ってみたら映画で見たのとはまったく違う。セットを組んで撮って、すべて原状復帰してしまったようで、絶望的な気持ちになりました。いろんな所をロケハンに回って、最後にモロッコの中心から7時間ほどの所に行ってみたら、奇跡的にモガディシュと非常に似た街が見つかりました。

リュ・スンワン監督
リュ・スンワン監督(中央)©2021 LOTTE ENTERTAINMENT&DEXTER STUDIOS&FILMMAKERS R&K All Rights Reserved. 

――それにしても時代背景も30年前で再現は難しかったのでは?

美術チームがカバーできる範囲でした。建築もモガディシュと似ていて、ディテールは特殊効果チームがCGを駆使し、看板や街路樹、自動車などは美術チームの力で当時のモガディシュを再現しました。ただ、難しかったのは、モロッコは黒人が多い国ではないんです。だからアフリカ各地から俳優を呼んでくる必要がありました。

――内戦があまりにもリアルでびっくりしましたが、モロッコ現地のエキストラではなかったんですね?

コンゴ、ナイジェリア、南アフリカなどから来てもらって、韓国でオーディションをして、300人余りのエキストラにモロッコ現地の撮影に参加してもらった。危ない場面も多かったので、現地のスタントマン志望者を集めてアクション監督が基本動作から訓練して、大規模群衆を先導する重要な役割を果たしてくれました。

モロッコで撮影した俳優とスタッフの集合写真
『モガディシュ 脱出までの14日間』モロッコで撮影した俳優とスタッフの集合写真 ©2021 LOTTE ENTERTAINMENT&DEXTER STUDIOS&FILMMAKERS R&K All Rights Reserved. 

――主演の4人、キム・ユンソク、ホ・ジュノ、チョ・インソン、ク・ギョファン、みんな魅力的な俳優ですが、特にク・ギョファンは『新 感染半島 ファイナル・ステージ』や『D.P.-脱走兵追跡官-』などでここ1、2年注目を集めています。

僕自身がずいぶん前からク・ギョファンのファンでした。独立映画の俳優、監督として活躍していて、僕はミジャンセン短編映画祭の創立メンバーで執行委員や審査員を務め、ク・ギョファンの作品を見てきました。実は出演オファーも今回が初めてではないんですが、なかなかスケジュールが合わず、今回やっと出てもらえました。チョ・インソンとのアクションシーンがあったり、体格的には大変だったと思いますが、そこから出てくるエネルギーがいい演技につながったと思います。

『モガディシュ 脱出までの14日間』から。北朝鮮大使館参事官役を演じたク・ギョファン ©2021 LOTTE ENTERTAINMENT&DEXTER STUDIOS&FILMMAKERS R&K All Rights Reserved. 

――チョ・インソンの英語がとってもチャーミングでした。

台本を渡す前に会った時は出演したいということだったんですが、台本を送ってから「こんなに英語のセリフが多いとは知らなかった。自信がない」と言い出したのでどうしようかと思いました。でも、90年代初めの外交官が、ネイティブみたいな英語を話す必要はなくて、むしろ韓国式英語の方が魅力的だと考えていました。それで英語のセリフにハングルで発音を書いて送りなおしたら、やると言ってくれた。とは言え、僕を含め誰も想像もしなかったようなユニークな英語の演技を見せてくれて、現場は大笑いでした。それでチョ・インソンも確信を持って英語で演じてくれました。

――特にタバコをプレゼントしながら「Your favorite Korean cigarette(あなたの大好物の韓国タバコ)」とおどけて言うチョ・インソンがおかしかったです。

あれは完全にチョ・インソンの創作。プレゼントをもらう英国人記者の役者がびっくりして、「そんな英語はダメだ」と直そうとしたぐらいですが、直さないでとお願いした覚えがあります。

リュ・スンワン監督
リュ・スンワン監督 ©2021 LOTTE ENTERTAINMENT&DEXTER STUDIOS&FILMMAKERS R&K All Rights Reserved. 

――昨年、韓国で公開された後、エゴマの葉のシーンが感動的だと話題になりました。韓国と北朝鮮の大使館職員と家族が初めて一緒に食事をしながら、韓国の人がおかずのエゴマの葉がうまくつかめず、北朝鮮の人がお箸でおさえてあげるというさりげないシーンですが、この反響は予想していましたか?

韓国の食文化はおかずを並べて一緒に分かち合って食べるというものです。食事の場面は幼い頃おばあちゃんが自分にしてくれたことを思い浮かべながら、言葉はなくとも行動で互いに気遣っている様子が伝わるように作りました。食べるというのは、思想や理念とは関係ない人間の基本的なことですよね。そこまで話題になるとは予想していませんでしたが、心を砕いて撮ったシーンで、観客の心を動かす部分だという程度には考えていました。

――映画館を出ながら、一緒に見た友達と「もし自分が韓国大使だったらどうするか」ということを話しました。北朝鮮大使館の人たちに手を差し伸べると韓国大使館の人たちを危険にさらすかもしれないという難しい選択です。監督もそんなことを考えながら作ったのでしょうか?

観客がそういうふうに考えてくれることはとてもうれしいことです。この映画の結末は完結しているわけでなく、彼らがその後どうなるか分からない、開かれた結末です。観客が彼らの人生について深く考えるに及んだのであれば、監督としては光栄です。本当に難しい選択ですよね。正直に言って、自分にはできない選択だからこそ、尊敬の念を持って映画として作ることができたように思います。

『モガディシュ 脱出までの14日間』のポスター
『モガディシュ 脱出までの14日間』のポスター ©2021 LOTTE ENTERTAINMENT&DEXTER STUDIOS&FILMMAKERS R&K All Rights Reserved. 

――リュ・スンワン監督の映画は今回のようなスケールの大きなアクションが多く、映画館で迫力を楽しむ映画だと思います。コロナ禍で観客数が減り、オンライン配信サービス向けの作品を作る監督も増えていますが、今後についてどう考えていますか?

未来のことは分からないので断言はできません。ただ、僕自身、スクリーンを通して音響なども整った状況で映画を見るのが好きです。これまで作ってきた作品は映画館で見ることを前提に作ってきました。映画館で見ることがオリジナルを体験することだと言えます。絵画作品を美術館で直接見るのと、インターネット上で見るのとは違うように、映画館で見てこそ味わえるものがある。コロナでなければ日本の観客の皆さんにも直接お会いしたいところですが、じきにそんな日が来るだろうと期待しています。