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アフリカの半分、ロシア非難に加わらず どれだけ深い関係が?

研究室から見える世界 更新日: 公開日:
ロシア軍に加わろうとして、アジスアベバのロシア大使館前に列を作るエチオピア人
ロシア軍に加わろうとして、アジスアベバのロシア大使館前に列を作るエチオピア人=ロイター

ロシアのウクライナ侵攻を受けて今年2~3月に開かれた国連総会緊急特別会合では、ロシアを非難する二つの決議の採決で、アフリカの多くの国が「棄権」や「不参加」を選択した。4月7日の国連人権理事会におけるロシアの理事国資格停止の決議の採決でも、同様の現象が起きた。
なぜ、多くのアフリカの国が、ロシアの侵略行為を正面から批判することをためらうのか。ロシアはアフリカ諸国とどのような関係を築いているのか。前・後編の2回にわたって考えたい。前編の今回は、「経済」と「軍事」の分野における両者の関係に焦点を当てる。(白戸圭一)

はじめに、国連におけるアフリカ諸国の投票について詳しく見ておきたい。

ウクライナからのロシア軍即時撤退を求めた3月2日の決議案に対しては、141カ国が賛成、5カ国が反対、35カ国が棄権した。反対5カ国はロシア、ベラルーシ、北朝鮮、シリア、イサイアス大統領の強烈な反米主義で知られるアフリカ北東部のエリトリアだった。また、棄権35カ国のうち、17カ国はアフリカの国だった。

さらに、国連総会には「不参加」という態度表明の方法がある。不参加は「棄権」とは異なり、そもそも決議案の審議に参画しなかったことを示す。3月2日の決議案の審議では、12カ国が不参加であり、このうち8カ国がアフリカの国であった。

反対1、棄権17に不参加8を足すと計26。つまり、アフリカ54カ国のほぼ半分はロシア非難に加わらなかったのである。

独立記念式典が開かれたエリトリアの首都アスマラで、集まった観衆に手を振るイサイアス大統領ら=2019年5月、中野智明氏撮影

続く3月24日の総会緊急特別会合では、ロシアが軍事侵攻によって悲惨な人道状況をもたらしたとして、民間人に対する無差別攻撃の停止や人道支援強化を訴える決議案が採択された。

賛成140カ国、反対5カ国、棄権38カ国。反対5カ国は前回と同じ顔ぶれ。棄権38カ国のうち20カ国がアフリカの国で、不参加10カ国のうち6カ国はアフリカの国であった。反対1、棄権20、不参加6を足すと27。アフリカ54カ国のちょうど半分がロシアを正面から非難しないという結果だった。

さらに、4月7日の総会緊急特別会合で、国連人権理事会におけるロシアの理事国資格停止について採決した際には、賛成93カ国、反対24カ国、棄権58カ国。反対24カ国のうち9カ国がアフリカの国。棄権58カ国のうち24カ国はアフリカの国。そして、この時もアフリカから11カ国が不参加であった。反対9と棄権24と不参加11を足すと44。なんとアフリカ54カ国のうち44カ国がロシアの資格停止に賛同しなかったのである。

■アフリカとロシア、経済のつながりは?

ルワンダ、キガリ中心部の街並み。高層ビルやホテルが立ち並ぶ=2019年2月、石原孝撮影

今日のアフリカが、経済の「ラストフロンティア」として世界の政府・企業から注目を集めていることはよく知られている。アフリカ側からみれば、対アフリカ投資に積極的な国の機嫌を損ねるような投票行動は回避したいだろう。

だが、ロシアとの経済面の関係を理由に「棄権」や「不参加」を選択したアフリカの国は、ほとんど存在しないと思われる。国連貿易開発会議(UNCTAD)が毎年発行している「世界投資報告書」の2021年版によると、19年時点の対アフリカ直接投資残高の上位10カ国にロシアの名はない。

南部アフリカ諸国にはレアメタル、ギニアにはボーキサイト、アルジェリアには天然ガスを採掘しているロシア企業が存在するものの、UNCTADはアフリカ全体に流入している直接投資のうち、ロシア企業による投資は1%に満たないと推計している。また、ロシアとアフリカの間の貿易(輸出+輸入)は、アフリカ全体の貿易の2%程度である。ロシアはアフリカ経済におけるメインプレーヤーではないのだ。

そもそもロシアは、核大国ではあるが経済大国ではない。国際通貨基金(IMF)の世界経済見通し22年4月版データベースによると、21年のロシアのGDP総額(名目値、ドルベース)は1兆7755億ドル。これは世界最大の米国の約13分の1、第2位の中国の約10分の1、第3位の日本の約3分の1の規模に過ぎず、韓国(1兆7985億ドル)よりも小さい。

さらに言えば、ロシアで生産される工業製品の質は悪く、エネルギー分野を除けば世界を相手に戦えるロシア企業はほぼ存在しない。アフリカの国々は、アフリカの発展に対するロシアの経済面での貢献にほとんど期待していないだろう。

■存在感増した民間軍事企業「ワグネル」

そこで注目されるのが、アフリカ諸国に対する軍事面でのロシアの影響力である。英国のシンクタンク、国際戦略研究所(IISS)が公表したミリタリーバランス22年版によると、21年のロシアの軍事費は約622億ドルで世界第5位。ソビエト連邦(ソ連)崩壊後に凋落(ちょうらく)したとはいえ、ロシアは今なお軍事大国の一つであり、東西冷戦時代にはアフリカの様々な政府、反政府組織などに軍事支援してきた経験を有する。

一方、多くのアフリカ諸国の為政者にとって、軍事力は政権維持のために死活的に重要な要素である。旧宗主国が植民地期に設定した境界線を引き継ぐ形で独立したアフリカの多くの国は、国内に様々な民族や宗教集団を抱え込んでいる。「多様性ある社会」といえば聞こえはいいが、異なる価値観、利益、歴史的記憶を有する集団同士の共存は容易ではなく、現実には内戦やクーデターが発生しやすく、政情が不安定化しやすい。そうした中、軍事支援を提供してくれるロシアに配慮し、国連総会でのロシア批判を控えるアフリカの国があったとしても不思議ではない。

アフリカにおけるロシアの軍事プレゼンス拡大の象徴として18~19年ごろから注目を浴びてきたのは、「ワグネル(Wagner)」というロシアの民間軍事企業の中央アフリカ共和国における活動であった。

ワグネル社はウクライナ、シリアへも派遣されたことでも知られる。プーチン大統領と関係の深い政商で、「プーチンの料理人」の異名を持つロシアの実業家、イェフゲニー・プリゴジン氏が出資者とされ、ロシアの元特殊部隊員などが中心メンバーと言われているが、実態には不明な点が多い。

1960年にフランスから独立した中央アフリカ共和国は、内戦、軍事クーデターの発生など長期にわたって混乱が続いている。政情不安の中、2016年3月にフォースタンアルシャンジュ・トゥアデラ大統領が就任したものの、政権の実効支配は首都周辺にしか及ばず、治安維持を肩代わりしてきたフランス軍の同年10月の撤収後は、いつ政権が打倒されてもおかしくない状況であった。

そこに登場したのがワグネル社である。米国議会図書館の調査報告書や複数の報道を総合すると、18年1月あたりから、自動小銃、機関銃などのロシア製火器が中央アフリカ政府軍に供与され、ロシアの軍士官5人とワグネル社の170人が軍事教官として政府軍の指導を始めた。

同年8月にはロシア・中央アフリカ両政府間で正式な軍事協定が締結され、ワグネル社による政府軍に対する訓練や、トゥアデラ大統領の身辺警備が本格化した。その時点で、中央アフリカにはおよそ1200人のロシア人が駐留していると推定されていた。中央アフリカにはダイヤモンドと金の鉱床があり、政府は採掘権をロシア企業などに売却し、ワグネル社への支払いに充ててきたという。18年7月には、中央アフリカでワグネル社を取材していたロシア人ジャーナリスト3人が何者かに殺害されている。

中央アフリカ共和国以外のアフリカの国では、スーダン、モザンビーク、マリでワグネル社の存在が確認され、このうちモザンビークでは、ワグネル社が北部のイスラム武装勢力と戦う政府軍を訓練してきたとの情報がある。

最近では、国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチが今年4月、「西アフリカのマリの中部で、マリ政府軍兵士とロシア人とみられる外国人戦闘員が3月27日にイスラム武装勢力との戦闘に際し、民間人推計300人を殺害した」との報告書を公表した。米国やフランスは、ロシア人戦闘員はワグネル社の傭兵(ようへい)だと指摘している。マリでは20年8月と21年5月にクーデターがあり、権力を掌握した軍事政権は「反フランス」を掲げてロシアとの関係を深めている。マリには既にワグネル社の戦闘員約1000人が派遣されているとの報道もある。

国連総会における3月2日、24日の2件のロシア非難決議に対する投票行動をみると、ワグネル社の存在が指摘される中央アフリカ共和国、スーダン、モザンビーク、マリの4カ国とも全て棄権している。4月7日のロシアの人権理事会の理事国資格停止決議では、中央アフリカ共和国とマリが反対、モザンビークとスーダンは棄権であった。政権の安定や国内秩序の維持のためにロシアの民間軍事企業の力を借りている国々は、国連の場でロシアを非難することを避けたようにみえる。

■軍事協定結びつつ、ロシア非難に加わった国も

ロシアのソチで開かれたロシア・アフリカ経済フォーラムの展示会場で、ロシア製の対戦車ロケットランチャーを持つ参加者
ロシアのソチで開かれたロシア・アフリカ経済フォーラムの展示会場で、ロシア製の対戦車ロケットランチャーを持つ参加者=2019年10月、ロイター

だが、アフリカの国々の中で、ロシアの民間軍事企業との関係が確認されている国はごく一部の少数派である。他の多くのアフリカの国々の投票行動について、ロシアとの軍事面の関係という観点からどこまで説明できるだろうか。

東西冷戦の時代、ソ連はアフリカの多くの国や反政府勢力に軍事支援を提供していたが、1989~91年にかけて冷戦は終結、ソ連は消滅し、ロシアはアフリカへの影響力をほとんど失った。スウェーデン国防研究所(FOI)が2018年末に発表した報告書によると、15年以前にロシアとの間に軍事協定を結んでいることを確認できたアフリカの国は、アルジェリア、リビア、チュニジア、アンゴラの4カ国に過ぎなかった。

ところが、ロシアは15年4月のカメルーンを皮切りにアフリカ諸国と次々に軍事協定を締結し、18年末までの3年半ほどの間にアフリカの21カ国と軍事協定を結んだ。協定の内容はロシア製兵器の供与、アフリカ諸国の軍のトレーニング、対テロ戦争の支援などであった。ストックホルム国際平和研究所の調査によると、ロシアの対外兵器輸出に占めるアフリカ向け兵器輸出の割合は、12年の約19%から18年には約28%にまで拡大した。

ロシアは14年にウクライナのクリミア半島を武力で一方的に併合し、これに反対する欧米諸国との対立は決定的になった。翌15年以降、アフリカ諸国と矢継ぎ早に軍事協定を締結した背景に、非欧米諸国との関係強化を急いだプーチン政権の思惑があることは想像に難くない。経済ではメインプレーヤーになれないロシアにとって、軍事は国際社会に影響力を行使できる数少ない領域だからだ。

筆者は今回、15年以降にロシアと軍事協定を締結したアフリカ21カ国の国連総会における投票行動について調べてみた。この21カ国にはワグネル社の活動が確認されている中央アフリカ共和国、スーダン、モザンビークの3カ国が含まれている。

結果は3月2日のロシア非難決議案の採決では、棄権6、不参加5。これに対し、賛成した国も10あった。3月24日の決議案の採決では棄権9、不参加3に対し、賛成9であった。つまり、ロシアとの間で軍事協定を結んでいる国のほぼ半分はロシアを非難することを避けたが、米国主導のロシア非難決議に賛同した国も相当数存在したのである。

以上の結果を見れば、多くのアフリカの国がロシア批判を回避する理由について「軍事」のみでは説明できないことが分かるだろう。そこで(後編)では、「歴史」と「情報戦」という観点からロシアとアフリカの関係を読み解いていきたい。(つづく)