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ミサイルで揺さぶる北朝鮮、TPP参加急ぐ中国と台湾 バイデン政権下の国際情勢を考える【後編】

これだけは知っておこう世界のニュース

中川 前編では日本とアメリカ、オーストラリア、インドの4カ国の枠組みである「QUAD(クアッド)」について取り上げました。9月24日にアメリカのワシントンで開かれたクアッド首脳会合の声明では、北朝鮮に対して一致した協力が確認されました。

■バイデン政権を「ミサイル」で揺さぶる北朝鮮

バージニア州で演説に臨むバイデン大統領
バージニア州で演説に臨むバイデン大統領=7月23日、朝日新聞社

9月は北朝鮮が多数のミサイルを発射しました。

北朝鮮が活動を活発化させたのは、アフガニスタンからの撤退などで、バイデン政権の足元が揺らいでいるなか、バイデン大統領に相手にされてこなかった金正恩氏が存在感を示したかったからではないでしょうか。

バイデン政権は4月末、北朝鮮政策を「調整されたアプローチ」という言葉で定義していますが、トランプ前政権時代に、北朝鮮との直接会談など派手な外交を繰り広げたことと比較すると、地味さが否めないと思います。

バイデン大統領はこれまで、外交を中国対策にシフトさせるなか、一方で、アフガニスタンをはじめ中東にも足を取られていましたので、正直なところ、北朝鮮に目を向ける余裕はなかったのではないでしょうか。ホワイトハウスでは「インド太平洋調整官」というポストを設置していますが、バイデン大統領自身、なかなか取り組めていない印象です。

パックン 北朝鮮への向き合い方については、アメリカのメディアもトランプ前大統領のやり方を批判しています。つまり、金正恩氏を対等に扱い、北朝鮮が欲しがっている交渉のカードを先に切ってきたことについてです。

これはトランプ大統領の得意技とも言えます。提供できるカードを先にすべて切ってしまう。

しかし、それではそのあと、交渉が暗礁に乗り上げるのはあたりまえなんです。「ディ-ルの芸術」という本も出しているトランプ氏ですが、やっぱり交渉は下手でした。

外交って、事務レベルで交渉が進み、成果が見られる段階でトップが会うというのがふつうだと思いますが、その成果が世界に自慢できるようなものでなければ、大統領は出てくることができないんです。演出においても、(両首脳が)同じタイミングで部屋に入るとか、なかなかやらないですよね。

会談を終えたトランプ米大統領と北朝鮮の金正恩氏の映像がメディアセンターに流れた
会談を終えたトランプ米大統領と北朝鮮の金正恩氏の映像がメディアセンターに流れた=2018年6月12日、シンガポール、朝日新聞社

パックン 2018年6月にシンガポールで開いた初めての米朝首脳会談では、トランプ前大統領と金正恩氏が同じタイミングで同じように歩いて向き合いました。

この点、バイデン大統領が今年6月にスイスのジュネーブでロシアのプーチン大統領に会ったときは、プーチン氏を待たせました。

しかし、(交渉カードをすべて切ってきた)トランプ前大統領の大失態があったあとですから、金正恩氏はバイデン大統領にとっては交渉しづらい相手であるのは間違いないと思います。

■「『北朝鮮』はアメリカの問題ではない」が世論の大勢

パックン 私は、8月のアフガニスタン撤退はバイデン大統領の考え方を体現しているのだと思います。「勝てない戦争はしない」、「勝たない戦争はあきらめる」ということです。

この点、北朝鮮についても、勝てない戦いに臨んでもしかたがない、とバイデン大統領は考えているのではないかと思います。

アフガンは20年間駐留しても、進展はなかった。そもそも何が目標だったかは議論がありますが、とにかく達成できなかった。

北朝鮮に対する目標は、まずは非核化、その次に民主化です。韓国から見れば、その次は統合・統一でしょう。

でも、非核化は1996年ごろのクリントン大統領の時代から交渉しています。

オルブライト国務長官の下で、ほとんど非核化できたのに、ブッシュ政権になって履行せず、大炎上しました。

その意味で、北朝鮮は2001年に始まったアフガニスタン戦争より長い戦いと言うことができます。

いちど核保有国になった国の非核化なんて、いままでできたことはほとんどありません。南アフリカぐらいです。もしくはリビア。

リビアの場合はどうなったのか。カダフィが殺害されるわけです。

ということを考えると、金正恩氏が歴史を見て、非核化を望むかといったら100%望まないでしょう。

ロードマップを作成して、核関連施設の公開を進めて、その代わりにアメリカが制裁を緩めていく、ということは考えられますが、これも、結局は確認のしようがないと思います。

非核化ができる保証もない中で、アメリカだけが譲っていることになるのではないかと。見た目もよくないし、弱腰外交だと批判されます。

だったら北朝鮮が多少暴れても、放っておけばいいと判断しているのだと思います。

パックンと中川浩一さん
パックン(右)と中川浩一さん(※実際の対談はオンラインで実施しました)

中川 バイデン大統領は、アフガニスタン撤退、終結宣言の演説でもさかんに「国益」という言葉を使っていました。

要は、アフガニスタンはもはや、アメリカの国益ではないと。北朝鮮は、アメリカの国益ではないというのは言い過ぎでしょうが、「死活的」ではないと考えているのかもしれませんね。

パックン 北朝鮮は、アフガンと比べるならアメリカの安全保障上の脅威とはなっています。

もう、4、5年前からワシントンD.C.に届くミサイルが完成しているという情報があり、核弾道ミサイルの技術はおそらく持っているのではないかと考えられます。

その脅威を解消するために、何ができるか考えなければなりませんが、バイデン大統領にとっての北朝鮮のプライオリティ(優先度)は低いと思います。

安全保障上の脅威ではありますが、無謀な交渉は国益につながらないという判断でしょう。

たしかに、韓国のように民主化して経済発展もして貿易パートナーになってくれれば別でしょうが、それは何十年も先の話でしょう。アメリカ人のほとんどは、北朝鮮の問題は自分たちの問題ではないと思っています。

■TPP加入急ぐ中国と台湾 アメリカが距離を置く理由は?

台湾がTPPへの加盟を正式に申請したことについて説明する蔡英文政権の閣僚たち
台湾がTPPへの加盟を正式に申請したことについて説明する蔡英文政権の閣僚たち=9月23日、台北市、朝日新聞社

中川 軍事、外交、経済が一体となって「経済安全保障」という言葉が使われるようになりましたが、そういう中で今回、TPP(環太平洋自由貿易協定)について、中国が9月16日に、加盟申請の先手を打ってきました。そして、そのあと22日には台湾が続きました。

アメリカはTPPにオバマ政権のときに加わり、トランプ政権で脱退しました。その後、バイデン大統領は、大統領選の選挙公約にも、TPPへの復帰を盛り込んでいません。

TPPからの離脱を表明するトランプ大統領
TPPからの離脱を表明するトランプ大統領(当時)=2016年6月28日、アメリカ・ペンシルベニア州、朝日新聞社

中川 民主党は本来、アメリカ国内の雇用を奪う自由貿易には反対の立場でしたね。しかし、オバマ大統領がTPPに合意をして、その反動で有権者の支持がアメリカ国民の雇用確保を強調するトランプ大統領に流れました。

TPPは、先に加盟したすべての国の合意がなければ、新たな国の加盟が認められないルールです。理論的には中国が先に加入を認められて、アメリカの復帰を阻止することもできるわけです。

先日、国連総会の機会に、日本の茂木外務大臣がブリンケン国務長官と会談して、アメリカのTPP復帰を働きかけたようです。

バイデン政権は現在、アフガニスタンの問題や、(オーストラリアとイギリスとの3国間で結んだ軍事同盟の)AUKUS(オーカス)の問題もあり、TPP復帰を検討する余裕はなさそうですか。アメリカはなぜTPPに復帰をしないのでしょうか。

会談を終えたトランプ米大統領と北朝鮮の金正恩氏の映像がメディアセンターに流れた=2018年6月12日、シンガポール、朝日新聞社

パックン これはひとえにアメリカの内政の問題です。これは経済学者の見解とか、専門家の見解とかは関係なく、自由貿易がアメリカの労働者を苦しませている、というレトリックが、まあ実はずっと民主党の間で、繰り広げられていたんです。

そこでNAFTA(北米自由貿易協定、1994年発効)を結んだのが民主党のクリントン大統領時代でした。その結果、裏切られたと感じた労働者が、徐々に共和党にシフトして、トランプ大統領誕生につながりました。

私はえんぴつと紙があれば、5分間で、なぜ自由貿易が労働者のためになるのかを簡単に説明できます。

経済学者だって、もちろんできるはずです。でも、感情論には勝てないんです。

NAFTAは少しやり方がまずかったのは事実です。FTA(自由貿易協定)を含め、自由貿易を進めた結果、負け組となりかねない労働者に対するケアが足りなかった、といわざるを得ません。

これがクリントン大統領の妥協の負の遺産なんです。

クリントン政権は共和党に妥協してFTAを通しました。けれども、共和党から妥協を引き出して、労働者への補償となるべき福祉制度の強化は認めてもらえなかったどころか、福祉予算も削減されてしまいました。

このことが、トランプ流「ポピュリスト共和党」の誕生につながったといえるんです。

パックンと中川浩一さん
パックン(右)と中川浩一さん(※実際の対談はオンラインで実施しました)

共和党も本来は自由貿易に賛成なのに、トランプ大統領が労働者の票を取りたい一心でTPP脱退を選挙公約にして、そして実際に脱退しました。

万が一、バイデン大統領がTPPに復帰したら、立場を忘れて、ものすごくたたくと思いますよ。

トランプ大統領のレトリックは、TPPのような多国間の交渉ではなく、世界一の影響力を持つアメリカは、2国間で交渉すべきであり、そのほうが優位に立てる、という考えでした。

ロジックとしては一理あり、ですが、結局、トランプ前大統領はどこかの国と有益な交渉ができたかというと、そんな成功例は見当たりません。

韓国、中国、日本にも交渉は持ち込みましたが、同盟国とは微調整程度で終わりました。

逆に、中国へのけん制とか、貿易をめぐるルール作りは、多国間のTPPより緩いものになってしまいました。

TPPは、合意当時は日本では農家がかわいそうという世論もありました。ですが、いまでは、これは日本人の生活にとっても、安全保障の面でも、外交における影響力においても、プラスだという論調が強く、その意味で、多くの日本人は、離脱したトランプ大統領が本当に許せないと考えていると思うんです。

TPPのような大型FTAはこの先、なかなか結べません。トランプ政権下で、アメリカの分裂が進みましたので、労働者が政治基盤である民主党の大統領は、怖くて(労働者の間で賛否が分かれる)自由貿易には取り組めません。

TPPに復帰してしまうと、共和党からも民主党内部からも、すごくたたかれます。

共和党が取り組むなら、もしかしたら通るかもしれませんが、今の共和党はトランプ主義になっているので、トランプ氏が捨てたTPPに復帰することはまずないですね。(中川さんとパックンさんの写真はいずれも上溝恭香撮影)

編集部注:中川浩一さんとパックンの対談は9月29日にオンラインで実施しました。

(この記事は朝日新聞社の経済メディア『bizble』から転載しました)