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グーグル副社長が「サイバー戦争という言葉、好きじゃない」という理由

World Now 更新日: 公開日:
ビント・サーフ氏
ビント・サーフ氏=田中郁也撮影

私は、サイバー戦争という言葉が好きじゃない。「戦争」という言葉遣いが、建設的とは思えないマインドセット(思いこみ)を刷り込んでしまうからだ。

インターネットの脆弱(ぜいじゃく)性に伴って、我々が直面している問題は、従来の戦争とは様相が違う。そこにいるのは、軍服を着込んだ悪者ではないし、自分たちが何者かなどと名乗りはしない。

たとえば国のインフラ施設にボットネットからの攻撃があったとして、誰が仕掛けたのか特定するのはとても難しい。

ボットネットは世界中のパソコンに仕込まれている。見かけ上、攻撃を仕掛けたのは、あなたのパソコンかも、あるいは私のパソコンかもしれない。A国とB国との間に紛争を起こそうと、別の国の誰かが、A国内のボットネットを遠隔操作して、A国からB国への集中攻撃があったようにみせかけることもできる。

戦争というのは、きわめて重要な選択だ。少なくとも、誰が攻撃を仕掛けたか、明確な証拠がない限り、国として何らかの判断を下すのは非常に危険だ。しかも、サイバー上のトラブルは、外からのアタックと思えるものでも、システム設定の誤りなど、まったく違う要因で生じることがある。サイバー空間の問題に「戦争」というメタファー(隠喩〈いんゆ〉)を使うことには、とても慎重でなくてはならない。

サイバーセキュリティーへの現実的な対策として私が勧めたいのは、サイバー消防団とでもいうような、自主的な協力体制を国際的に築き上げていくことだ。

もし、自分の家が火事になったら、気づいた誰かが消防署に電話して、出動と消火を求めるだろう。同じようにサイバー空間上の消防部隊を考えるのだ。攻撃されて対処する能力がなかったら、このサイバー消防団が救助に駆けつけるようにする。この仕組みなら、その「火災」が本当に攻撃で生じたのかが明確でなくても、出動を要請して問題ない。結果として、トラブルにも迅速に対応できる柔軟性をもてるだろう。

サイバー消防団は、有志による自主的な組織で構わない。たとえばコンフィッカーというコンピューター・ワームに対処するため、数多くの団体が国境を超えて協力し合ったことがある。そんな協力体制を想定してもらえばいい。

米国の政治家は、我々がインターネットに依存しすぎていると神経質になっている面がある。古典的なワシントンDC流の考え方から、緊急時に米国のネットワークをインターネットから遮断すべきだといった議論も出てくる。しかし、現実はもっと複雑で、世界は密接につながっている。多国間の様々な利害関係者が議論し、解決策を見いだしていくしかない。(聞き手・田中郁也)

Vint Cerf グーグル副社長。1943年生まれ。インターネットの基礎となるデータ転送の通信手順「TCP/IP」の原型を開発、「インターネットの父」と呼ばれる。米国防総省国防高等研究計画局、MCI副社長を経て、05年からグーグル副社長兼チーフ・インターネット・エバンジェリスト。