火付け役は米国の柔軟剤「ダウニー」。強い香りが衣類に残る製品で、2000年代の半ばごろから外資系のスーパーなどで人気が出た。日本のメーカーも相次いで開発に乗り出した。08年にP&Gが香りを重視した「レノアハピネス」を出し、それ以降、日本の柔軟剤の香りはより甘く、華やかで長く続くようになっていく。ライオンの「ソフラン アロマリッチ」(2010年)のパッケージのデザインは鮮やかな赤や紫。「従来と圧倒的に見た目も中身も変えないと消費者に訴えられない」とブランドマネジャーの加藤里佳(47)は話す。翌年、黒いパッケージの新製品を投入したところ、いまでは一番人気だ。
■柔軟剤が香水代わり ブレンド楽しむ人も
ライオンの柔軟剤のうち、香りを重視したものの12年の売り上げは05年の3倍近く。日本全体でも市場規模は、08年の626億円から12年には787億円に拡大した(調査会社インテージ調べ)。
柔軟剤の香りを香水がわりに考える人が増え、複数の商品をブレンドして楽しむ人もいる。最近は、P&Gが昨年出した「レノアハピネス アロマジュエル」のように、洗濯物に香りをつける専用剤もある。
室内の芳香剤や防虫剤、掃除用品、台所洗剤なども香りを前面に出している。
花王は一昨年、「香り家事」をコンセプトに、掃除の際に香りを楽しむことを提案。バラの香りをつけた住居用の洗剤などを展開する。ブランドマネジャーの白土淳治(49)は「洗濯や掃除は面倒だが、香りがモチベーションになる」と話す。
アラン・コルバンの『においの歴史』を翻訳した仏文学者の鹿島茂によると、悪臭を隠すために香りを使う時代の後、無臭が好まれるようになる例は他国にもあり、やがて、香りに差別化や個性を見いだす時代がくるという。
では、なぜ日本では香水ではなく柔軟剤なのか? 鹿島は「日本の男性は女性に、成熟した大人のセクシーさよりも、未成熟さや幼稚さを求めがちだ。セクシーなイメージがある香水より、清潔感が強調される柔軟剤が好まれるのではないか」とみている。
■香りの生活用品50年 トイレの防臭対策から
日本の香り商品は、トイレの防臭対策から始まった。1967年にエステーが売り出した「カラーボール」は、防虫効果のあるパラジクロロベンゼンに香料を混ぜたもの。強烈なにおいでトイレの悪臭を覆い隠す発想だった。
70年代になると、新タイプのトイレ防臭剤が登場する。エステーの「シャルダンエース」(71年)はスプレー式のトイレ芳香剤。「噴霧した香りが悪臭の成分を包み込む、という当時としては画期的な技術だった」とエステーの野村竜志(50)は言う。小林製薬の「サワデー」(75年)は、寒天状の芳香剤。現会長の小林一雅(73)が米国に留学した際、トイレの心地よさに衝撃を受けて開発が始まった。380円と割高だったが、爆発的に売れた。
90年代以降は、ペットやたばこのにおいなど居住空間の防臭が主となる。気密性の高いマンション住まいが増えた影響だ。「消臭力」(エステー)、「無香空間」「消臭元」(小林製薬)などが売り出された。防臭し、香りをプラスする商品も生まれた。
1967年 「カラーボール」(エステー)
1971年 「シャルダンエース」(エステー)
1975年 「サワデー」(小林製薬)
1988年 「トイレその後に」(小林製薬)
1995年 「無香空間」(小林製薬)
2000年代半ば~ 輸入品の柔軟剤「ダウニー」が人気に
2010年 香りつき防虫剤「かおり ムシューダ」(エステー)
2011年 柔軟剤「ソフラン アロマリッチ ジュリエット」(ライオン)
2011年 台所用洗剤「CHARMY 泡のチカラ」(ライオン)のローズなど3種類発売
2012年 洗濯時に使う芳香剤「レノアハピネス アロマジュエル」(P&G)
2012年 柔軟剤をイメージさせる「サワデーハッピー」(小林製薬)
2012年 ローズの香りつきの「クイックルワイパー」(花王)
2013年 ローズの香りつきの「バスマジックリン」(花王)
2013年 トロピカルな香りの「CHARMY 泡のチカラ」(ライオン)