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「3年B組金八先生」で全国区に、稚内生まれの南中ソーラン

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「南中ソーラン」の練習に励む寝屋川市立東小の生徒たち=和気真也撮影

「どっこいしょおっ、どっこいしょ!」と、かけ声が体育館いっぱいに響いた。四角く並んだ約100人の生徒たちが一斉に腰を落とし、足を踏ん張って網をたぐり寄せる動作を繰り返した。ドッドッドドドと太鼓が鳴り、ジョンガラベベンと津軽三味線が速いテンポを刻む。「ソーランソーラン」の歌声に、今度は上体をそらして天を仰ぐ。おそろいの青い法被が翻った。

大阪府寝屋川市立東小では5年生になると、秋にある体育祭などに向けて「南中ソーラン」と呼ばれるこの踊りを習う。生徒たちは演舞後、「しんどいけど、すっきりする」「気合を入れて踊る一体感が気持ちいい」と口々に話した。

南中ソーランは、北海道の稚内市立稚内南中学校が生んだ踊りだ。1980年代に一時期荒れていたところから立ち直った南中の教員が、90年代に入ってロック調の音楽に合わせて振り付けを考えた。それが、学校の「再生神話」と共に世間に広まった。

さらに99年放送のテレビドラマ「3年B組金八先生」で、学級崩壊に陥った生徒たちが結束を取り戻すシーンで南中ソーランを踊ると、一気に全国の小中学校に普及した。元南中校長の大久保慧(80)は「踊りで不良を更生させられるほど学校運営は単純ではない。でも、長い法被を羽織り、そろって踊るかっこよさが子どもの憧れを誘ったのだろう」と話す。

学校の先生たちは「速いテンポに合わせて夢中で体を動かす爽快感と、自己表現する解放感が南中ソーランの魅力だ」と話す。一方で、大勢で踊る一体感が集団の規律意識を生むという期待もある。

「みんなめっちゃ笑顔で、フルパワー。それがカッコイイ」

世代を超えたコミュニケーションにも役立ち、学校だけでなく地域で取り組む人たちもいる。京都を拠点に各地のYOSAKOI祭りなどで踊る「関西京都今村組」の指導者、今村克彦(55)は元小学校教諭。かつて、手を焼いた教え子たちが体育祭でヒップホップを伸び伸びと踊ったのが原体験だ。「文化活動は、規律や目標を持った集団を作るのには有効だ」と話す。一方で、「子どもは大人や体制側に反発して生きるもの。無理にダンスをあてがってもうまくいかない」と話す。

「ソーラン」を踊る若者たち=2013年4月、和気真也撮影

7年前に学校を辞め、ダンスを通じた教育に取り組み出した。小学5年生から今村組で踊る中田麻咲(17)は「ダンスを完成させる過程は問題も起こるししんどいけど、それが楽しい。普段不良っぽい子までみんなめっちゃ笑顔で、フルパワー。それがカッコイイし、だからまた踊ろうと思う」と話す。]

社会問題を「ヤンキー文化」に照らして論評した著書がある斎藤環(51)は、全国の学校に広がる南中ソーランについて「派手な格好で踊るスタイルは、子どもの持つ反社会性への憧れをほどよく満たし、エネルギーをうまく踊りに向かわせて反発を防いでいる」と分析し、「生徒指導の手法としてはうまい」と評価する。ただ、「コントロールされた踊りともいえる。社会運動に向かうエネルギーが生まれにくくなるかもしれない」と指摘する。

(文中敬称略)