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1日36万円のカバン持ち研修は3年待ち 「ダスキン」加盟店社長の人の育て方

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「ダスキン」で知られる武蔵野の小山昇社長と矢島茂人専務がそれぞれ出した著書
「ダスキン」で知られる武蔵野の小山昇社長と矢島茂人専務がそれぞれ出した著書

――武蔵野はダスキンの東京第1号加盟店だそうだが、一度辞めたのはなぜ?

最初はアルバイトで1968年に入った。退職者が多い中、山梨から通うのが面倒で本社3階の社長宅に泊まっていて、価値観や方向性が社長に近いことが認められ、重用された。

ナンバー2の常務になったころは、社長は病気がちで月に1回ほどしか出社しなくなっていた。社長が始めた中華料理店を勝手に閉めても事後報告で済ませたりしているうちに衝突し、75年に辞めた。思い上がっていた。

―そう気づいたのはなぜ?

退職後、朝寝坊を電話で起こす会社を起業した。友人らもいいねと言ったが、市場が全くなくて3カ月で倒産させた。日本の中小企業の社長は、銀行から資金を借りる際に個人保証を求められる。会社の債務は、最後は社長が払わなければならない。従業員への責任もある。ナンバー2はそうした責任は負わない。重圧の決定的な違いを痛感した。

――古巣へ戻った経緯は?

ダスキン創業者に誘われてダスキン本部に入社し、直営店ナンバー2として業績を急回復させたが、10カ月で辞めた。起業した貸しおしぼり会社が軌道に乗り始めた87年に、病床の社長から「経営を手伝ってほしい」と電話がかかってきた。快復したら辞める条件で復帰したが間もなく亡くなり、夫人が1年だけ形式的に社長を務めた後、89年に社長になった。

小山昇・武蔵野社長
小山昇・武蔵野社長

――ナンバー2は社長のイエスマンがいいのか?

社長1年目は幹部が指示を聞かないので好きなようにやらせた。2年目に「好きなようにやれ。ただし今度は失敗したら退職してもらう」と言ったら、みな指示を聞くようになった。中小企業でナンバー2が社長にたてつくと、全体が社長の指示に従わなくなって針路を見失う。指導する企業には「そんなときは多額の退職金を払ってでもナンバー2に辞めてもらえ」と言っている。10社以上が実行した結果、すべて業績が改善し、年1億円以上の利益を出すようになった会社もある。

指導していて最悪なのは、優秀な妻がナンバー2で夫の社長と合わない会社で、1社の例外もなく赤字。家庭の延長で雰囲気が悪くなり、社員も辞めていく。

――一方で著書に「会社の実力は、ナンバー2の実力に比例する」とも書いている。

最終判断・決定する社長には耳が痛い情報が入りにくくなる。社内外の情報を的確に伝え、社長に正しい意思決定をさせるナンバー2が重要だ。

だが、親が子どもの成長を見守ることしかできないように、経営幹部にも意思決定する訓練をさせ、失敗も体験させて成長を待つしかない。創業社長の子どもは余計に難しい。創業の苦労や失敗を知らず、親は猫かわいがりするからだ。武蔵野では指導する社長の子どもを3年ほど預かって「他人の飯を食う」経験もさせていて、常時10人ほどがいる。戻った息子が社長の指示に「承りました」と答えて、驚かせたこともある。

■ナンバー2のセミナーも300人待ち

武蔵野にはもう一つ、300人待ちの人気セミナーがある。講師は同社のナンバー2、矢島茂人専務。今年1月には50期として全国各地の経営幹部13人が、緊張した面持ちで東京都内のホテル会議場に集まった。年齢は30~57歳、和牛加工・販売業、製造業、パチンコ業、工務店……と業種も様々だ。転職経験のある人がほとんどで、過去最多3人の女性が含まれていた。

このメンバーで2泊3日のセミナーを6月までに4回受ける。初日は参加者の「自己開示」にたっぷり時間を割いた。矢島専務が徹底して強調するのは「自分と対面する習慣をつけ、自分が変わること」だ。「自己開示は他の参加者が聞いていなくても、自分自身は聞いている」という。

武蔵野ナンバー2の矢島茂人専務が講師を務める経営幹部セミナー
武蔵野ナンバー2の矢島茂人専務が講師を務める経営幹部セミナー

もう一つの狙いは、利害のない参加者どうしが切磋琢磨(せっさたくま)する関係を築くこと。「ナンバー2など経営幹部は、絶対的な権力を持つ社長からは圧力と期待をかけられ、下からは突き上げられる。一般の幹部とは全く違う立場にいる。だからこそ、社内ではモノ・ヒト・情報がうまく動く環境整備に努め、社外では同じ立場の仲間と交流することが大切になる」

初回3日目の締めくくり、矢島専務はかつて小山社長に午前3時半過ぎに送ったボイスメッセージを会場に流した。小山社長が経営コンサル事業にさらに注力する趣旨の発言をしたため、現業部門から矢島専務に次々に相談が寄せられていた。指導企業の社長らも同席する翌日の共同勉強会で発表してしまったら現場の大混乱は必至だ。

「気持ちは分かりますが、昨日の言い方だと、現業部門の幹部たちが激しく動揺しています。そのままの発言では小山さんにとっても武蔵野にとっても良いことはないと思います」。クビも覚悟しながら必死の思いを込めたメッセージだった。

小山社長は当日、発言を改めた。「ああよかったあと思った。経営幹部には最後は勇気が必要。社長に恥をかかせたくないから、社長が聞きたくないことでも言わなければいけない時がある」。そういう矢島専務を、小山社長は「ノーと言ったことがない最高のナンバー2」と評している。