1. HOME
  2. People
  3. トップをちゃんとクビにできる会社に スシロー社長の会社改革

トップをちゃんとクビにできる会社に スシロー社長の会社改革

令和の時代 日本の社長 更新日: 公開日:
FOOD & LIFE COMPANIES代表取締役社長CEOの水留浩一氏
FOOD & LIFE COMPANIES代表取締役社長CEOの水留浩一氏=畑中徹撮影

――計9人の取締役のうち、8人が「社外」取締役です。社内出身者が多数を占めることが多い日本企業では、珍しい試みといえます。このような大胆な変革に踏み切った理由を教えてください。

会社をどのように統治するかを考えたときに、これが「あるべきかたち」だろうと判断しました。取締役会には執行役員の業務執行をしっかり監視・モニタリングしてもらうことに徹してもらいます。業務執行の意思決定は各執行役員にお任せをいただく、というかたちです。

以前、カルビーの松本さん(同社の元会長兼CEOで「プロ経営者」としても知られる松本晃氏)に、私たちの会社の社外取締役を務めてもらいました。松本さんは、アメリカの医薬品・日用品大手のジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)で働いておられました。

アメリカ企業の統治のあり方を熟知していて、取締役会の果たす機能とは基本的には監視・モニタリング機能であり、「取り締まられる人たちが、取り締まる側にいることは、そもそもおかしいことだ」と語っていました。そこで当社の経営を「取り締まる側」と「取り締まられる側」をしっかり分離しようと考えまして、2020年12月からスタートしました。

――「監督と執行の分離」とよく言われますが、日本企業で、ここまで徹底している事例は珍しいと思います。

他社さんはそれぞれお考えがあると思います。ただ、いま言ったことをやろうとするときには、中途半端にやる意味はないわけです。

業務執行に関しては、正直、執行役員の方が日ごろ時間も費やしているし、ある意味では経験値も高くて詳しいです。となると、業務執行に関して、社外取締役に関わってもらう価値はそれほどありません。そうであれば、業務執行は執行サイドに任せてもらい、監視する立場の取締役会は社外の人で固めてしまうのが一番分かりやすい、と考えました。

スシロー店舗
スシロー店舗(F&LC提供)

――監督と執行の境界があいまいだった日本企業では、「いつかはオレも取締役に」という考え方が残ります。「いつかは取締役に」という価値観がなくなるわけですね。

過去、多くの日本企業がそうだったと思うのですが、多くの社内出身の取締役がいると、取締役というものが「ゴール」のように映ってしまう。それはよくないと思っています。取締役と執行役員は、そもそも職務内容が違うので、本来、「執行役員の上に取締役がいる」という捉え方はないはずです。

上位職でいえば、私の下に専務執行役員がおりますし、常務執行役員もいます。「出世」ということでいえば、まずは執行役員をめざすということでしょう。そこが、会社組織の一つの階段のようになっています。

世間一般で、よく「役員さん」といいますが、私は「執行役員=役員」でいいのではないか、と考えています。取締役というのは、業務執行の先にあるポジションではないし、そもそも役割が違う。うちの会社の人たちは、そこはよく理解していると思います。

代表取締役社長CEOの水留浩一氏
代表取締役社長CEOの水留浩一氏=畑中徹撮影

――日本企業のガバナンスは、まだまだ未熟だということでしょうか?

企業のガバナンスには、決まった答えがあるわけではないので、各企業が選択した「かたち」の中で、しっかり高い業績を維持できるのであれば、それでよいと思います。

問題があるとすれば、業績が振るわないのに、ガバナンスが効かないことです。例えば、力のない経営トップが居座って、交代させる圧力が働かないという状況です。

私は、究極的には、社長・CEOといった経営トップをすげ替えることが、取締役会の役割だと考えています。それができない取締役会は、機能していないということです。

――つまり、仮にF&LCの業績が振るわなくなったら、水留さんご自身の首を切ってくれ、ということでもあるわけですね。

そうしていただいて、まったく構いません。日ごろから、社外取締役の方々には「みなさんの仕事は、私の首を切ることです」と伝えています。さらに言うと、そうなった場合、「私の後任を考えるのも大事な仕事です」と説明しています。

私ではない人が経営して業績が上がるのであれば、いつでも経営トップを代えてもらって構いません。このポジションにしがみつくつもりは、1ミリもありません。

スシローはタイにも進出している
スシローはタイにも進出している(F&LC提供)

――多くの日本企業の社長は、新卒で入社した会社で、社内で地道に階段をのぼってトップに就任しています。そういう人たちだと、「必要ならば自分の首を切ってくれ」とは言いづらいですね。

たしかに日本の企業では「マネジメント層の流動化」が進んでいないので難しいかもしれません。首を切れば、マネジメント層も自然に流動化すると思います。

ガバナンスの大事なところは、経営者の業績責任だと思います。業績をあげられない人物が、ずっと居座っていることは、その会社にとっても、日本経済にとってもいいことはない。ここが諸悪の根源ともえます。

業績をあげられない社長に辞めてもらったら、当然、経営人財の流動化が進む。その中で、経営者として実力を備えた人が、しっかり実績をあげていき、日本経済全体をよくしていく。そういう構造ができていないことが、一番の問題だと思っています。

私は、コーポレートガバナンスの議論を難しく考える必要はないと思っていて、基本的には取締役会が機能して「トップを代える」ということだけでもできたら、ガバナンスはこと足りると思います。なんだかんだいって、会社というものは経営者によって変わるのですから。

――ガバナンス改革の要諦(ようてい)は「社長の選任と解任」ということでしょうか。

そうです。そこだけです。

代表取締役社長CEOの水留浩一氏
代表取締役社長CEOの水留浩一氏=畑中徹撮影

――多くの日本企業では、現在の社長やCEOが、意中の後任候補を社長室に呼んで、「次はお前だからな」と言い渡すのが現実だと思います。

私たちの場合、指名報酬委員の人たちが、社長CEOである私を入れないかたちで各執行役員の面談をします。そこで、指名報酬委員の人たちは、「私の次はだれがよいか」ということを議論します。本人のインタビューやこれまでの実績を見ながら判断します。もちろん、社内人材に限らず、社外にはどんな候補者がいるかということを見ていく。それを常にやり続けるわけです。

――よくある批判は、「外部出身者で構成する指名委員に、社内の人材のことは分からない」ということです。これについては、どう考えますか?

その指摘はあたらないと思います。例えば、ふだんの取締役会の場で事業について各執行役員が説明しますが、そこで執行サイドにどんな人材がいるかは分かりますし、さらに当社の場合、指名報酬委員は社長がいない場で各執行役員に何時間もインタビューをします。

それだけやれば、その人がどういう人材なのか分かるはずです。「社外の人に分かるはずがない」と語る人たちは、ふだんから社外の人にも社内人材について分かってもらうような取り組みをしていない、ということだと思います。

スシローの商品
スシローの商品(F&LC提供)

――自分で後任を決めたいと思っている現社長は、まだまだ多いと思います。

決め方はともかく、後任を決めた人間が社内に残るからダメなのです。私が社内で言っているのは、この会社を辞めた瞬間にそれ以降はいっさい関わらない、ということです。会長とか取締役会議長とか、絶対にやらないと公言しています。

社長が残るから、後任と「師弟コンビ」のようになってしまう。新社長に選ばれた方だって、前社長が残っていたら仕事がやりにくいです。何かを変革しなくてはならないときも、どうしても遠慮が残ってしまうでしょう。辞めたらスパッと会社を離れたらよいと思います。

多くの経営者は辞めると寂しいのでしょう。だから財界活動などをされるのだと思いますが、マネジメント層の流動性があれば、ある会社のトップを辞めた瞬間に、別の会社から「ぜひ、うちに来てほしい」と声がかかるかもしれません。いまの会社にしがみつかなくても、別の仕事ができる。そういう土壌ができていれば辞めた人がしがみつく必要がなくなるわけです。

F&LCが展開する、回転寿司みさきの店舗
F&LCが展開する、回転寿司みさきの店舗(F&LC提供)

――現実には、取締役会長や名誉会長などの役職で、会社に残るケースがほとんどだと思います。

結局、権限があいまいなことがよくないです。社長やCEOにしっかり業務をさせる、最高経営責任者としてのポジションを与えるのであれば、その「上役」は必要ないわけです。相談役とか名誉会長とか、そういうものが一切いらない。百害あって一利なし、ということでしょう。

――水留さんの場合は、辞めた後は一切関わらない、すべてを後任に託すとうことですね。

「託す」という言葉も使いたくないです。私が手がけてきたことを、別に引き継いでもらう必要もありません。新しい責任あるトップが、自分で考えればいいと思います。私は海外展開を進めていますが、それが間違っていると思うならば、やめればよいと思う。トップが交代したら、私の時代はおしまい、次の新しい時代が始まるんだということでよいと思います。

――社長になっても、積極的に変革しようとする経営者は、じつは多くないかもしれません。

経営者にとって、変えるインセンティブがないから、変えようとしないだけです。日本企業の効率が悪いとか、「ROE(自己資本利益率)」が低いとか、いろいろ言われます。その根っこにあるは、業績があげられなかったら、トップはその時点でクビになり新しい人がトップに就いて、その人が新たに自分が最善だと考える経営を進めていくという、当然のサイクルが回っていないことだと思います。

2021年10月にオープンしたスシロー ドバイ万博店(F&LC提供)

――他社の経営トップと、ガバナンスに関する議論をすることはありますか?

他の経営者の方々からは、「水留さん、F&LCの取締役会は、社外取締役ばかりで大変じゃないですか?」と心配する声をかけていただきます。「取締役会に身内が少なくて大変だろう」という趣旨で言われるのですが、私はとくに大変ではなく、「業績が悪くなって、私がクビになったら、それは取締役会が機能したのだ」という捉え方をしたいと思います。

私たちの取締役会の構成は、社内と社外と比率が「1:8」ですが、これが一番分かりやすいと考えています。なぜなら、過半数が社外でないと社長を交代させられない。過半数が社外だったら、社長を交代させられます。

法律の決まりから、代表権を持つ社内取締役は1人は置かないといけないということで、私が社内取締役になりましたが、その決まりがないのであれば、取締役会は「全員社外」でもいいと考えています。ただ、株主総会で業務内容の説明をしなくてはなりませんので、やはり1人は社内取締役がいるということは理にかなっていると思います。

多くの日本企業は、会社が強くなるためにいろいろなことを変えていく必要があると思うのですが、その意識がまだまだ弱いのだと思います。たとえ業績が悪くても社長が首にならないのですから。首になるかもしれないと考えたら、そうならないようにがんばるわけです。トップに対する牽制(けんせい)がきくような仕組みを導入することが、会社をよくしていくことにつながるのだと思います。

――水留さんは、電通やコンサル業界、日本航空、ワールドなどの多様な経験を経て、現職に就任されました。日本には、いわゆる「プロ経営者」も少ないですね。

プロ経営者という言葉も、私は好きではないです。経営者は本来、だれもがプロじゃないといけないですよね。アマチュアの経営者だとしたら、株主などが困りますから。そのような言葉があること自体が、日本の行き詰まりを示しているのかもしれません。
関連して言うと、「モノ言う株主」という言葉もそうです。これはネガティブな使われ方をしますが、基本的に株主はモノを言わなくてはいけない、要求をしなくてはならない存在です。

――社外取締役のニーズが高まる一方、その人材が足りません。どのように増やしたらよいでしょうか。

日本企業の場合、自分が勤めている1社しか知らない経営者が多いです。社長・CEOに限らず執行役員などの人材がどんどん流動化していき、さまざまな会社経営に携わるようになって、さまざまな経験を積んだ人たちが社外取締役として経営に携わるようになるのがよいと思います。もしくは、現役の専務、常務クラスの人たちが他社の社外取締役をやるのもいいと思うのです。