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ほぼ新品でも捨てられる消防ホース、「もったいない」心動いた 解体業からバッグ屋に

令和の時代 日本の社長
「アップサイクル ラボ」の小島忠将さん
「アップサイクル ラボ」の小島忠将さん=畑中徹撮影

――廃棄されるはずの消防ホースを活用し、トートバッグに生まれ変わらせるビジネスはとてもユニークです。そのアイデアは、いつごろ、どんな風に思いついたのですか?

以前、建築作業員をやっていました。建物の解体現場で、大量の消防ホースが、ほぼ新品のまま廃棄されるのを何度も見てきました。消防ホースは未使用であっても、一定期間で交換しますので、そのまま廃棄となります。未使用だと、見た目は新品同様です。「もったいないなあ」と、いつも思っていました。これを材料にすれば、何かつくれるはずだと思い、自分でバッグづくりに挑戦することにしました。

廃棄予定の消防ホースからつくったバッグ=畑中徹撮影

――実際にやろうとすると、なかなか大変だったのではないですか?

まずは材料となる消防ホースを入手するために、最初は消防署に片っ端から電話をかけました。「消防ホースを譲っていただけませんか?」と頼みましたが、怪しまれて全部断られました。消防ホースは税金で購入していますので、「どこの馬の骨か分からない」個人にはやすやすと譲るわけにはいかないですよね。

仕方なく、インターネットオークションで中古ホースが出品されているのを見つけ、ようやく入手できました。農業の散水用といった用途で売り出されていたのです。

やっとのことで消防ホースを入手しましたが、今度は、それを縫製してくれるところを探す必要がありました。見つけるのに、すごく時間がかかりました。当時は、インターネットで自社のホームページなどを開設している縫製業者はほとんどありませんでしたので、地元の図書館に行きまして「タウンページ」(電話帳)をめくり、現在地から同心円状に範囲を広げながら電話をかけまくりました。

「消防ホースなんて、そんな素材、縫えるか分からん」と言われ、とにかく断られまくったのを覚えています。ようやく、かばん産業が盛んな兵庫県豊岡市の縫製業者が「できるか分からんが、1回やってみましょう」と言ってくれました。

廃棄される予定の消防ホース
廃棄される予定の消防ホース=「アップサイクル ラボ」提供

さらに困ったのはデザインです。私自身は、バッグのデザインなど、もちろん未経験です。だいたいのかたちやサイズ感を自分で考えて、ネットからイメージに近い画像を拾ってきては、縫製業者さんに「こんな感じでつくりたいのですが」と相談しました。消防ホースの固さや素材の特性があって、業者さんでも、できるデザイン、できないデザインがあって、それを一つひとつ判断してもらいました。こうしたやりとりを経て、半年ほど後にトートバッグの「試作品第1号」ができあがったのです。

――試作品ができてから、どうしたのですか?

まずは、インターネットで販売してみました。それまで現場の解体作業をやっていましたので、パソコンなんてほとんど触ったことがなかったです。

ネットでショップを開店できるフォーマットを見つけてきまして、商品のトートバッグの写真は自分で撮影し、試しに販売しました。最初は2万円前後とわりと高額なバッグしか扱っていなかったのですが、数カ月のうちに30~40個ぐらいパッと売れました。出来たてホヤホヤの手づくりのホームページに、お客さんがどうやってたどり着いたのだろうと不思議でした。この反応を見て、「これはビジネスになるかも」と思いました。

この試験販売が2009年のことでした。奈良市内にいまの事務所をオープンしたのが10年7月。このころ、勤めていた会社を辞めて、この仕事一本に絞りました。

消防ホースを加工する作業
消防ホースを加工する縫製業者「福永」(大阪市)の福永佳久さん=畑中徹撮影

――廃棄予定の消防ホースをアップサイクルする「アップサイクル ラボ」という会社は、小島さんがお一人で手がけているのですね。今回、取材を依頼する電話で何度かやりとりさせていただいた際、必ず小島さん本人が電話口に出るので「もしかしてお一人でやっているのかも」と思いましたが、その通りでした。

おっしゃる通り、運営は私が1人でやっています。商品づくりの部分は、縫製業者さんにお願いするわけです。奈良県の2社と大阪府の2社、埼玉県の1社が中心です。ウェブサイトの作成は外注しています。販売用のホームページを見た人たちからは、かなりの規模で事業を手がけていると思われがちですが、仕事で関わったみなさんから「えっ、お一人でやっているんですか?」と驚かれます。

「もともとカバン屋をしていたのですか?」などと聞かれますが、この事業を始めるまで、私はふだんバッグを持ち歩かない人間でした。どこに出かけるにも手ぶらが基本でした。

消防ホースを加工する作業
消防ホースを加工する作業=畑中徹撮影

――デザインも自分で担当されています。外注する考えはなかったのですか?

正直言いますと、うちの商品はデザイン性がすごく高いわけではないのでプロダクトデザイナーに依頼しようと考えたこともあったのですが、費用がめちゃくちゃ高くて、そのプランはあきらめました。

そこで、専門学校の学生さんにデザインしていただけないかと考えました。大阪や京都の専門学校さんに電話をかけまくりまして、「消防ホースを活用し、こんなバッグをつくっているのですが、学生さんたちにデザインで協力いただけませんか?」と話を持ちかけたところ、3校からOKをいただきました。

その一つは、大手の「モード学園」でした。学生さんの空いている時間にデザインを考えてもらえたらいいなと思っていたのですが、なんと授業カリキュラムに組んでいただきました。その結果、ある学生さんのデザインを実際に商品化しました。採用させていただいた学生さんには謝礼をお支払いしました。

このビジネスをやっていくうえで、ふんだんにお金があるわけではないので、その分知恵を働かせているという感じですね。

廃棄予定の消防ホース。見た目は新品同様だ=畑中徹撮影

――現在、消防ホースはどのように調達しているのですか?

いまは消防ホースメーカーから大部分を調達しています。

消防ホースの検査基準は各メーカーが非常に厳しい基準を設けていて、素人目には、どこに基準を満たさないような箇所があるのか、まったく分かりません。品質検査の現場をメーカーさんに見せてもらったことがあるのですが、検査にひっかかったというホースを見ても、見た目はまったく問題がないので、「これ、何がダメなんですか?」と聞いたぐらいです。「非常に厳しい検査の基準が設けられ、そこに合致していないので、ロットごと廃棄します」との説明を受けました。「すごい量をまとまって廃棄せざるをえないのですね」と言いましたら、「検査基準を満たしていない以上、メーカーとしてはこのように対応するしかありません」ということでした。

検査基準を満たさず、もともと廃棄される予定のものなので、無料で譲り受けることもできますが、ホースメーカーさんにもメリットをとっていただきたいという思いが私の中にありまして、無料ではなく、お金を支払って引き取らせていただいています。

業界の検査基準を満たさないといいましても、見た目はまったく問題がありませんので、廃棄されてしまうのは本当にもったいないと思いました。だからこそ、消防ホースをアップサイクルさせていただく意義があると思っています。

消防ホースを加工する作業
消防ホースを加工する作業=畑中徹撮影

――これまでお話をうかがって、消防署に電話をしたり、縫製業者を見つけ出したり、専門学校と交渉したり、小島さんのバイタリティーはすごいですね。

たしかに、縫製業者や消防ホースメーカー、専門学校などとの交渉は全部自分でやってきました。周囲からは、「いち個人の事業主が、大きな会社や学校に電話や交渉をして、ちゃんと相手をしてもらえるの?」とよく聞かれます。そう聞かれたら、「でも、やってみないと分からんでしょう」と答えています。なんだかんだいって、結局、話を聞いてもらえることが多かったように思います。でも、話が唐突すぎて、怒られることも多かったですよ。

――ブランド名は「アップサイクル ラボ」ですね。最近、アップサイクルという言葉が広がり始めましたが、この言葉にはいつごろ着目したのでしょうか?

事業を始めた10年以上前から、アップサイクルという言葉には注目していました。捨てられるはずのものに、まったく新しい価値を持たせて生まれ変わらせるというのは、「面白い概念やなあ」と思っていました。ただ、当時は新聞記事などにも、ほとんど出ていなくて、世間一般には浸透していませんでした。

商品のブランド名に「アップサイクル」という言葉を使おうと思ったのですが、周りの人たちから「アップサイクルなんて、だれも知らない」「この言葉では関心をもってもらえない」と言われ、仕方なく、「経年変化」を意味する「パティーナ」という言葉を盛り込んだブランド名でスタートしました。消防ホースの経年変化による劣化具合をむしろ楽しんでもらおうという意味を込めて、名付けました。

「アップサイクル ラボ」の小島忠将さん
「アップサイクル ラボ」の小島忠将さん=畑中徹撮影

――いまとなってみれば、「アップサイクル」というキーワードをブランド名に入れて、大成功だったのではないですか?

もともとアップサイクルという言葉をブランド名に入れたかったのですが、そういう経緯があって、いったんはあきらめたわけですが、その後、いい感じで時代が変わってきました。19年には「アップサイクル ラボ」の名前を商標登録することができました。19年12月から、正式にブランド名を変更したのです。
商標登録の出願は18年にトライしたのですが、当時は、「アップサイクルなんて、一般名詞のようなもので、商標登録は認められず、ブランド名には使えないだろう」と思っていました。ところが、フタを開けてみると、商標登録が認められたのです。ダメもとでやったのですが、本当によかったです。グーグルなどで検索すると、このブランド名がトップページあたりに出てくるので、これは大きな効果がありました。

――主力商品はどんなものですか?

主力はトートバッグですね。「スパイラルトートバッグ」という種類がありまして、創業時から続けています。消防ホースを「らせん状」に縫いあげてつくります。ふつう、バッグは横の部分に「つなぎ目」がありますが、らせん状に縫いあげていくので、このタイプにはないのです。1本のホースから、トートバッグが4つか5つはつくれます。この製造方法だと、廃棄部分が少なくなります。

廃棄予定の消防ホースからつくったバッグ=畑中徹撮影

――顧客層はどんな人たちですか?

ネット販売で買っていただくのは圧倒的に女性が多いです。プレゼントなのか、ご自身で使っていただくのか、そこまで把握できていないのですが、消防士さんの夫がおられる方が誕生日プレゼントやご退職の記念に贈られるという話はよく聞きます。

――販売を増やして、規模を大きくする考えはないのですか?

ニッチな分野なので、規模を急拡大するのは難しいと思っています。何でも1人でやっているので、知り合いのコンサル社長からは「典型的な貧乏社長やな」と言われます。コロナ禍もあって、売り上げの波はありますが、何とか黒字は確保しています。1カ月に50~100個ほど売れています。商品の在庫が手元になくなったら、縫製業者にお願いして追加でつくってもらいます。

これぐらいの規模でやっている方が楽しいので、いまは、このペースが心地よいです。自分にあまりストレスがかからない程度で、ぼちぼち進めていくつもりです。