『学級委員長選挙』は、韓国の動画配信サービスWATCHA(ウォッチャ)で配信中の4本の短編映画をまとめた『UNFRAMED/アンフレームド』の中の1本だ。パク・ジョンミン、ソン・ソック、チェ・ヒソ、イ・ジェフンの4人の人気俳優がそれぞれ監督を務めた。昨年10月の釜山国際映画祭で先行上映された後、WATCHAオリジナル作品として配信され、日本でも見られる。
パク・ジョンミンは釜山映画祭のトークで「僕自身が小学生の頃、学級委員長選挙で恐怖を感じたことがある。その時は衝撃的だったが、ある日テレビを見ていたら『大人の選挙もあまり変わらないな』と思い、シナリオを書きました」と語った。
主人公はいじめられっ子の男子生徒イノ。男子のリーダー的存在、ジャンウォンに選挙の「協力」を求められ、言われるがまま立候補する。「協力」すれば、仲間に入れてくれるというのだ。女子のリーダー的存在、ソニョンがジャンウォンの最大のライバルだ。ジャンウォンはソニョンに勝つため、イノを利用する。
学級委員長になったら何をするのか、それぞれが抱負を語る。ジャンウォンは「学力を向上させてクラスの平均点を上げてみせる。最強のクラスにします!」、ソニョンは「芸能事務所に頼んでアイドルをクラスに招待します!」と、派手な公約を掲げる一方、イノは「友達と仲良く過ごせるようにしたいです」と言って笑われる。
パク・ジョンミンは映画『それだけが、僕の世界』で天才ピアニスト役、映画『辺山』でラッパー役を演じるなど、演技で音楽センスを発揮してきたが、今回の『学級委員長選挙』も投開票の緊張感を音楽にのせてリズミカルに見せた。後半ではイノがどんな不正を通してジャンウォンの勝利に協力したのか、その手口が明らかになる。
果たして生徒たちは誰を支持したのか、本当の結果を知るのはイノだけだ。実際の大統領選では、有力候補の李在明(イ・ジェミョン)候補と尹錫悦(ユン・ソクヨル)候補の泥仕合に愛想をつかした有権者たちが第3の選択肢、安哲秀(アン・チョルス)の支持に回っている。足の引っ張り合いの醜い大人の選挙は、子どもの選挙にも悪影響を与えているのかもしれない。『学級委員長選挙』を見ると、好戦的なリーダーよりも「優しい世の中」を望んでいる人も多いのでは、という気もした。
ソン・ソックが監督を務めた『再放送』は甥とおばが親類の結婚式場へ向かう中でけんかをしながら、互いを少しずつ理解していくロードムービー。ソン・ソックが「初監督作は心温まる映画にしたかった」と言うように、甥とおばの2人の間で、他の誰も気付かないようなさりげない心遣いが行き交って優しい気持ちになった。
チェ・ヒソ監督作『バンディ-蛍の娘』はシングルマザーと娘バンディの物語。バンディの亡くなった父は、かつて実家の裏山で蛍を見たと話していた。母と娘はその裏山に蛍を探しに行く。母役はチェ・ヒソが自ら演じた。バンディ役のパク・ソイとは映画『ただ悪より救いたまえ』でも母と娘を演じ、この共演がきっかけで今作が実現したという。パク・ソイは映画やドラマ、CMで引っ張りだこの人気子役だ。
イ・ジェフン監督作『ブルーハピネス』では、チョン・ヘインが主演し、株式投資の沼にはまる今どきの若者を演じた。主人公チャニョンは彼女と同棲しているが、彼女は会社勤め、自分は就職活動がうまくいかず焦っていたところ、偶然出会った旧友の話に乗って株式投資を始める。イ・ジェフンは「最近の若者が熱中している株式投資を素材に夢と挫折を描こうと思った」と話す。
監督4人とも30代の勢いある俳優たちだが、演出も新人とは思えない力量。27人の子役を演出したパク・ジョンミンは、自ら演技を見せながら演技指導をしたという。「短編映画ながら、うまく作れなかったらどうしようという責任感、監督の重圧感を感じた」と話した。イ・ジェフンは「改めて自分は映画を愛しているということを実感した時間だった。もしまた機会があれば、情熱を燃やして演出に取り組みたい」と、今後の演出にも意欲を見せた。