電子廃棄物を用いた作品とは、どんなものだろう? 日本国内で開かれた長坂さんの個展を訪ねてみた。
油絵で描かれた「子どもの顔」に近づくと、古びたパソコンのキーボードやゲーム、テレビのリモコンが埋め込まれていた。黒人の子どものアンバランスな目や鼻を近くで見ると、それらはラジオやCDの廃材でつくられたものだった。
どの作品にも憂いがあり、ときにユーモラスでもある。
■ごみに囲まれたスラムの暮らし
長坂さんが初めて現地を訪れたのは、2017年のことだった。
広大なスラム街は、電子機器の廃棄物でおおわれていた。近くの市場には生ごみが散乱し、放し飼いの牛がえさを求めていた。廃材に火を放って、金属を抽出して生計を立てる人たちや、それを手伝う幼児の姿もあった。
燃やされている廃材から黒煙が上がり、ハエや蚊が体にまとわりついた。不衛生な環境で、感染症やがんで亡くなる人がいるという。
ガーナで目の当たりにした、不条理さ、先進国と途上国の生活の落差。その光景が忘れられず、帰国すると、得意だった水墨画に加え、油絵の上にeウェイストを重ね合わせる芸術作品に打ち込むようになった。
美術家として表現するだけでなく、自分が描いた絵を売って、そのお金を現地のために使うことで、人々の生活を少しでも改善できないかと考えた。少しずつ作品が認められ、無名だった自身の作品に1500万円の値が付いたことがあった。
■作品の売り上げ、現地に還元
ただ、eウェイストの作品をつくるだけでは、現地の状況を利用しているだけかも――。
そう考えた長坂さんは18年、作品の売り上げを元手にして、現地の有志といっしょに英語などを学べる施設を設けた。これまでに5回ガーナを訪れ、現地の人との信頼関係をつくってきた。
長坂さんは言う。「ガーナに行ったことで生き方の価値観が変わった。先進国による電子機器の大量生産のしわ寄せが、最貧国にもたらされていることを知ってしまった。持続可能な社会を実現するために、自分も何か貢献したいと心底思いました」
■「アートの力で街を変えたい」
ガーナを支援する長坂さんだが、自分自身、美術家として平坦(へいたん)な道を歩んできたわけではない。
生まれ故郷の福井市で美術家としての一歩を踏み出した。10年以上前、「絵描きで生きていく」と決め、東京都心のJR新宿駅そばの路上でライブペイントを始めた。
「絵描きの評価が高い欧米で認められたら、きっと飛躍できる」と信じ、わずかな所持金で各国を渡り歩いた。毎日の宿と食べる物に困るほどの生活も経験した。
長坂さんとガーナで活動を続けるナブー・ゴドフレッドさん(33)は「マゴ(真護)がつくる、土地のごみをアートにした創造性あるアイデアもすばらしいが、何より彼には情熱がある。貧しい子どもたちも、彼から夢を与えてもらっている。マゴのアートの力を借りて、eウェイストの街を地球に優しい街に変えたい」と語る。
コロナ禍の影響で、作品づくりは中断を余儀なくされたが、長坂さんは昨年11月、再びガーナへと渡り、創作活動を再開させた。
「最終的には、ガーナのスラム街のごみが全部なくなって、こうした作品がつくれなくなるのであれば、それがいちばんよいと思います。僕は環境活動家でも慈善活動家でもない。美術家として、仲間や支援者たちと目の前の問題に取り組みたいのです」(文と写真・池田良)