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中国で権力者のご機嫌を取る方法 内幕暴いた告発本『レッド・ルーレット』

ニューヨークタイムズ 世界の話題 更新日: 公開日:
**EMBARGO: No electronic distribution, Web posting or street sales before FRIDAY 3:01 A.M. ET SEPT. 24, 2021. No exceptions for any reasons. EMBARGO set by source.** A memoir by a well-connected businessman offers insights into the Communist Partyユs thinking as it tightens its grip on the private sector. (Jialun Deng/The New York Times) -- FOR EDITORIAL USE ONLY WITH NYT STORY CHINA CORRUPTION MEMOIR  BY LI YUAN FOR SEPT. 23, 2021. ALL OTHER USE PROHIBITED. --
Jialun Deng/©2021 The New York Times

デズモンド・シャムは、北京の主要空港の隣に物流拠点を建設するため、中国の幾層もの官僚機構から150の公印をもらうのに3年を費やした。

こうした承認印を得るために政府の役人たちのご機嫌とりをした。たとえば、空港の税関長は、屋内のバスケットボールコートとバドミントンコート、200席の劇場、カラオケバーを備えた税関の新しいオフィスビルの建設を要求した。

「もし、それができないなら」と税関長はディナーの席で大きくニヤッと笑い、「お宅には(物流拠点を)建てさせない」と告げた。

シャムは、共産党がどのように経済界を統制しているのか、そしてビジネスパーソンがそれを踏み外したらどうなるかのやり取りの詳細を回想録に記述した。9月に発売された「レッドルーレット――今日の中国における富、権力、汚職、復讐の内幕」には、政府の役人がいかに規則を曖昧(あいまい)にし、いつでも厳重に取り締まれる脅しの状態を維持して、国の発展にビジネスパーソンが果たす役割を制限しているかが描かれている。

「中国で何かを成し遂げるには、曖昧な領域に踏み入る必要がある」。シャムは英国の自宅から、ニューヨーク・タイムズの電話インタビューにそう答え、「我々は皆、刃の血をなめ続けていたのだ」と言っていた。

9月に発売された「Red Roulette: An Insider's Story of Wealth, Power, Corruption and Vengeance in Today's China(レッドルーレット――今日の中国における富、権力、汚職、復讐の内幕)」

この本に描写されている出来事について、第三者が検証することはできないが、カネと中国政治の相互作用の最前線にいたシャムの見解に疑いはない。

シャムはかつて、元首相の温家宝(ウェン・チアパオ)の一家と近い関係にあったトワン・ウェイホンと結婚していた。トワンはホイットニーの名でも知られ、温家宝の親戚が管理していた巨額の隠し資産について2012年にニューヨーク・タイムズが調べた時の中心的な取材対象だった。

トワンは17年9月に姿を消したが、シャムによると、本が出版される少し前、彼女が差し止めを要請してきた。

一部の読者は、彼らのような影響力のある元カップルや裕福な中国人ビジネスリーダーに同情する気にはなれないかもしれない。この本は、影響力を使って取引を成立させる有力な政府幹部との抜け目のない駆け引きによって蓄えられた富を描いている。言うまでもなく、カネと政治の結びつきは、世界中どこでも腐敗を生む。

だが、シャムの本は中国の起業家たちの将来が疑わしくなっている時に出版された。政府は、電子商取引の最大手アリババグループ(阿里巴巴集団)や配車サービスDiDi(滴滴出行)といった最も成功した民間企業を厳しく取り締まった。政府を恐れずに批判したビジネスリーダーたちには、長期の懲役刑を言い渡した。

中国の最高指導者・習近平(シー・チンピン)は「共同富裕」を追求する取り組みとして、有力者たちと一般の国民が富を分かち合うよう促した。これは、国家が民間部門を締め上げ、共産党が人びとの日常の暮らしをいっそう揺さぶりかねないとの懸念を引き起こしている。

「党は、抑圧と支配に対し、ある種の動物的な本能を備えている」。シャムは本の中で、こう記述し、「それはレーニン主義の基本的信条の一つだ。党は、抑圧できる余裕がある時はいつでもそうするだろう」と指摘している。

**EMBARGO: No electronic distribution, Web posting or street sales before FRIDAY 3:01 A.M. ET SEPT. 24, 2021. No exceptions for any reasons. EMBARGO set by source.** Desmond Shum in Oxford, England, Sept. 12, 2021. A memoir by the well-connected businessman offers insights into the Communist Partyユs thinking as it tightens its grip on the private sector. (Andrew Testa/The New York Times)
現在は英国オックスフォードで暮らしているデズモンド・シャム=2021年9月12日、Andrew Testa/©2021 The New York Times

欠陥や過ち、悪事を犯してきたとはいえ、中国の経済界は国を貧困から救い上げ、世界第2位の経済を築くうえで重要な役割を果たしてきた。これは、共産党が認めたがらないことだ。

その代わり、党は事業主に対し国家に従順であるよう強いている。事業主たちは、明文化されているか否かにかかわらず、規則には従わなければならないのだ。中堅クラスの官僚が何かを欲する時は、温家宝とのコネがあっても役に立たない。

「中国では権力がすべてであり、富は重要な意味を持たない」。シャムはそうインタビューで述べ、「起業家層も、党のもとでは抑圧された階級なのだ」と語った。

ニューヨーク・タイムズからのコメントの要請に応え、中国の外務省は、この本は中国についての誹謗(ひぼう)中傷や根拠のない主張であふれていると回答した。

シャムとトワンは、1990年代と2000年代における中国の金めっき時代(訳注=史上最高の経済成長を記録し、多くの成り金が輩出した時代)にビジネスをしていた。当時は民主派の抗議活動を弾圧した1989年の天安門事件の後で、共産党は正当性と経済的な真正性を強化するために社会の統制を緩めていた。この時期、党はビジネスリーダーを締め付けるのではなく、しばしば取り込もうとしていたのだ。それは、経済界を党の支配下に置き、同時に、中国の経済的奇跡を党の功績とする主張を後押しするためだった。つまり、ビジネスリーダーたちに、党員になって、国の立法委員や政治顧問の仲間入りをするよう持ちかけたのである。

それはうまくいった。ビジネスパーソンたちは中国の自由化に寄与できると思った。彼らは、財産の保護や独立した司法制度、透明性の高い政府の意思決定過程を求めた。そうなれば、富裕者であれ誰であれ、党の権力から人びとをしっかり守ることができる。立法機関の会期中、重大な問題を提議した者もいた。また、非政府組織や教育機関、調査報道機関を支援する者もいた。

しかし、その期間は短かった。

シャムは「党は危機にある時にだけ締め付けを緩め、より多くの自由な事業や束縛からの解放を認めた」と指摘し、「中国の経済成長は、党による支配を再び主張させる機会を与えた」と書いている。彼によると、党による締め付けは2008年の金融危機後に始まったが、12年の後半に習近平が党の指揮をとるようになってから加速した。

「かつては経済が最優先事項だった」とシャムは言い、「習近平になってから、政治がすべての原動力になったのは疑う余地がない」と続ける。

習近平は、政府とビジネスの関係は「友好的で汚れなきもの」であるべきだとの方針を打ち出した。彼は、政府高官は民間企業と交流し、彼らを支援するのをためらうなと言う。

しかし、習近平のもとで、弁護士やジャーナリスト、市民社会活動家たちにかけられた長年の抑圧はチェック・アンド・バランス(抑制と均衡)を弱めた。政府と経済界との力の不均衡は深まるばかりだ。

シャムは、財界人の大多数は制度の問題を認識していると信じているが、それを口に出す人はほとんどいない。その代償はあまりにも高くつくからだ。

多くのビジネスパーソンは、資産の少なくとも一部を海外に移せたと彼は言う。長期にわたる投資をする者はほとんどいない。あまりにもリスクが大きく、難しいからである。「バカ者だけが長期の計画を立てる」と彼は言っている。

シャムの観察は、他の人たちの言うことと合致する。北京を拠点にするビジネスウーマンは、「レッドルーレット」は中国における政府と経済界との力学のブラックボックスに穴を開けた、と記者に語った。不動産業界の大物2人は、事業の認可を得るために役所の外で何時間も立たされなければならない屈辱的な経験を記者に話した。

空港の物流拠点プロジェクトの認可をもらうため、シャムは数年間、ほぼ連日のように当局者と会食し、その度に中国の有名なマオタイ酒を1本飲みほした。シャムの従業員たちは役人のために上等の茶を運んできたり、役人たちの雑用をこなしたり、彼らの妻や子どもたちの世話をしたりした。

ある従業員は、あまりにも多くの役人とあまりにも多くのサウナ通いを繰り返したので、皮膚がはがれ始めた、とシャムは書いている。

シャムのプロジェクト期間中、空港と地元地区の最高幹部が3回交代した。交代の度に、シャムのチームはご機嫌とりのプロセスをあらためて始めなければならなかった。

シャムによると、「多くの人は、温家宝ファミリーの庇護があれば」と元首相の一家に言及し、「あくせくしなくても、その庇護を勘定に入れられると思い込んでいた。でも本当のところ、消耗してしまった」と言っていた。(抄訳)

(Li Yuan)©2021 The New York Times

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