今年夏のアフガニスタンからの米軍撤退とタリバンによる政権奪取の混乱の中、アフガン政府軍基地の明け渡しや制圧によって、何千もの米国製武器と大量の軍事装備が武装勢力の手に渡った。
アフガン南部カンダハル州の武器ディーラーたちによると、タリバンが権力を掌握したことで、米国の武器や軍事物資の数々がアフガンの銃器ディーラーの店で公然と売られている。武器商人は、政府軍兵士やタリバン戦闘員にカネを払って銃や弾薬、その他の物資を手に入れている。
カンダハルの銃器商人3人が(ニューヨーク・タイムズの)インタビューに応じ、数十人のアフガン人が同国南部で武器を扱う店を立ち上げ、米国製の短銃やライフル、手榴(しゅりゅう)弾、双眼鏡、暗視ゴーグルを販売していると話した。そうした装備は、もともと、米国による訓練や支援プログラムのもとでアフガン治安部隊に供与されたもので、米国の納税者は20年にわたる戦争を通して830億ドル超の費用を負担した。
タリバンは反政府活動を展開していた時期、米国が提供した武器や装備を血眼になって追い求めた。だが今や、そうした武器の多くは、アフガンの起業家たちに売り渡されている。銃器商人たちの話だと、戦闘の終結でタリバン側の需要が減ったからである。彼らが言うには、多くの銃器ディーラーが米国製武器に対する需要が高いパキスタンに密輸している。
米国製武器や装備を何千万ドル分も失ったことは、米軍によるアフガンでの20年間に及ぶ任務の失敗に手痛い結果を積み増した。米軍が築き、訓練を施し、資金を提供したアフガン軍を、タリバンが打ち砕き、8月15日に首都カブールを制圧したことで、状況は混乱し激変した。
アフガン復興特別監察官(SIGAR)の最新報告書によると、米国は長年にわたってアフガン軍に膨大な量の武器や軍用車両を供与してきた。M4カービン銃、ロケット、プロペラ攻撃機A―29、ハンビー(高機動多用途装輪車両)、そしてアサルトライフルや機関銃用の大量の弾薬などである。直近2期の6月締め会計年度で、米国がアフガン軍に費やした資金は計26億ドルにのぼる。
米国防総省は10月4日、米国提供の大量の兵器がアフガンに残留していることを認めた。
「米軍は2005年以来、アフガンの国防軍と治安部隊に対し、短銃から中機関銃まで何千何万丁もの小型武器を提供してきた」。国防総省の広報担当で少佐のロブ・ロードウィックは、ニューヨーク・タイムズの取材にそう答えた。
ロードウィックは、アフガン政府が8月に崩壊した後、「これらの武器の多くが現在、おそらくタリバンの手に渡っていると我々は認識している」と語った。
米国防長官ロイド・J・オースティンは9月末の議会証言で、米軍の部隊がアフガンで使っていた高性能の武器は8月に最後の部隊が立ち去る際、撤去したと述べた。アフガン治安部隊に提供されたヘリコプターや航空機といった高度な武器は米国人がアフガンを離れる際に使用不能にしてきた、と国防総省の当局者は言っている。
タリバンは、そうした武器が市場に出回っていることを否定した。
タリバンの広報担当ビラル・カリミはニューヨーク・タイムズのインタビューに対し、売りに出されている武器はないと語った。「私は(武器が市場に出回っているとの情報を)全面的に否定する。我が戦闘員たちはそれほど軽率ではない」と彼は言っている。「市場で弾丸を売ったり、密輸したりする者は一人たりともいない」
戦争中に獲得した米国製武器は「すべて列記され、検証され、将来の軍隊のために、イスラム首長国(Islamic Emirate)のもとで安全に保管されている」と彼は付け加えた(タリバンは、自分たちの政府を「アフガニスタン・イスラム首長国」と称している)。
ところが、別のタリバン関係者(複数)は、大量の米国製武器が市場に出回っていることを明確に認めている。
米国が供与した武器類の山は、この夏、アフガン治安部隊に盗まれて売られたか、(政府側の)兵士や警察官がタリバンに命乞いをし、容赦の約束と引き換えに武器を渡すとの全面降伏交渉で、タリバンに押収された。アフガン兵士や警察官が脱走し、軍服や武器、装備が単に放棄されたケースもある。
一部の兵士や警察官は、(タリバンとの)降伏交渉の前に、彼らが持っていた武器弾薬を売った。銃器商人の話だと、武器ディーラーは米軍向けに調達されたベレッタM9短銃1丁に約1200ドル支払う。兵士の月給をはるかにしのぐ額だ。それは、警察官や兵士に給料が支払われなかったり、弾薬や食料、水の補給がなかったりした時期だった。
武器ディーラーによると、米国製M4カービン銃は、特にレーザーサイト(レーザー照射型の照準器)か銃身下のグレネードランチャー〈擲弾(てきだん)発射器〉を装備していれば約4千ドルで売れる。一方、カラシニコフ銃(訳注=旧ソ連時代に開発されたライフル銃で、別名「AK―47」)は900ドルほどで売れ、ロシア製のロケット推進型グレネードランチャーなら約1100ドルだ。NATO(北大西洋条約機構)軍がアフガンの警察官に供与した短銃は約350ドル。そうした売買は大半がパキスタンルピーで行われ、現金が使われるとディーラーたちは言っている。
銃器商人の一人、エスマトゥラは、タリバンがカンダハル州周辺地域を制圧した後の今年2月ごろ、同州に店を開いたと言う。彼の話だと、その前までは彼は行商の銃器商人として政府軍基地を訪れ、現金の必要性に迫られ首都の政府にうんざりしていた兵士や警察官から武器弾薬を買っていた。そうした兵士や警察官は、自分たちが(政府に)見放されたとの思いにかられていたのだ。
「私たちは、モバイルチーム(移動集団)として仕事をしていた」と彼は言う。「多くの政府軍兵士や将校に会って武器を買い取った。それから、そうした武器をタリバンに売ったり、あるいはよい値で買ってくれるなら誰にでも売ったりしてきた」
これとは別にタリバンは、明け渡されるか制圧した軍事基地で奪い取った小型武器の一部を彼らの戦闘員が売却するのを許した、と銃器商人は言っている。押収した武器の残りはタリバンの司令官に引き渡され、部下の戦闘員たちは今夏、アフガン各地を行進した際には米国製のM4カービン銃を撃ったり、ハンビーに乗ったりしていた。
銃器商人たちによると、現在の彼らの顧客はアフガンの起業家や一般市民である。そうしたアフガン人は、パキスタンで転売するために需要の高い米国製武器を買い取っている。パキスタンでは、自衛や、長年にわたる個人的あるいは部族間の反目にけりをつけるために武器のニーズがあるのだ。
「米国製の武器は、性能が良く、人びとは扱い方を知っているので高い需要がある」と、カンダハルのもう一人の銃器商人は言う。彼は、(身元が判明すると)タリバンに店を閉められてしまうのを恐れ、匿名を条件に取材に応じてくれた。
カンダハルに住む3人目の銃器商人は、この夏、銃器ディーラーたちがタリバンに対空砲のような大型の武器を売った、と匿名を条件に話してくれた。現在、彼は米国製M4や50口径の機関銃とともにロケットランチャーやカラシニコフ銃など米国製以外の武器も商っている。
「ロシア製より少し高価ではあるけれど、まず優先するのは米国製だ」とし、「銃や短銃といった小型武器は運搬や持ち運びが容易だから、とても需要が高い」と彼は話していた。(抄訳)
(Ruhullah Khapalwak and David Zucchino)©2021 The New York Times
ニューヨーク・タイムズ紙が編集する週末版英字新聞の購読はこちらから