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民主化運動、簡単にはつぶれない 在日ミャンマー人がそう信じる二つの理由

研究室から見える世界
ロンドンで9月11日、ミャンマー国軍に抗議する集会が開かれた。「デモ中に子供たちが国軍に暴行を受けた」というポスターを掲げる女性=Sipa US via Reuters Connect

カインさんはミャンマーの最大都市ヤンゴン(当時はラングーン)の高校を卒業後、1989年に留学生として来日し、立命館大学を卒業、同大大学院で博士号(国際関係学)を取得した。

その後は日本で暮らし、開発経済学などを大学で教えながら、通訳・翻訳、日本語教育ビジネスなどを通じて両国の関係強化に尽力してきた。今年2月の国軍によるクーデター発生後は、祖国の民主主義を回復するために、様々な方法でミャンマー国内の民主化勢力を支援している。

■「自衛のための戦闘」を宣言

ミャンマーにおける民主主義の回復について訴えるナンミャケーカインさん。3本の指を立てるサインは「自由」「平等」「正義」を意味するという=横浜市内、本人提供

――ミャンマー国軍は、民主主義の回復を求める人々を武力で徹底的に弾圧していると聞きます。現在のミャンマーの状況を教えてください。

民主派は「国民統一政府(NUG)」を結成して抵抗を続けており、今年5月には「国民防衛隊(PDF)」という国軍による弾圧から市民を守るための武装組織が結成されました。NUGのドゥワラシーラ副大統領は9月7日に「自衛のための戦闘」を宣言し、PDFや少数民族に国軍との戦闘を呼び掛けています。PDFに加わっているのは、主に10代後半から20代の若者たちです。

ミャンマーには複数の携帯電話企業があり、そのうちの一つに、ベトナム国営企業とミャンマー国軍系企業の合弁企業であるMyTelがあります。PDFはMyTelの電波塔を爆破するなどのゲリラ戦を始めています。

PDFのメンバーは地下に潜伏しているので、国軍側はPDFメンバーを投降させるために、メンバーの家族を逮捕して人質にする作戦を進めています。メンバーの未成年の子供が軍に逮捕されたケースもあります。

■軍のプロパガンダ、もう信じない

――若い人々が民主主義の回復を求める運動の中心になっているという話を聞いて思い出すのは、33年前の1988年に起きた国軍によるクーデターです。あの時も軍は国民民主連盟(NLD)が圧勝した2年後の選挙結果を否定し、民主主義を求める若い人々の運動を武力で弾圧しました。カインさんは当時、軍のクーデターをどのように受け止めていましたか。

高校を卒業した年にクーデターが起きましたが、その時のクーデターは暴動後のことだったので、治安のためにはクーデターは仕方がないことだと思っていました。それから、軍が人々を弾圧しているという話を聞いたことはありましたが、激しく弾圧された人に実際に会ったことはなく、弾圧の様子を見たこともなかったんです。

ミャンマーは長年、世界から孤立し、軍にコントロールされていたマスメディアは軍に都合の良いプロパガンダ情報を流していたので、多くの国民は何が起きているのか知らず、「軍による弾圧が行われている」と聞かされても、信じることが難しかったです。だから民主化運動も長く続かなかったのだと思います。

――かつて軍を否定しなかったカインさんが、今は民主派を支持しています。何が変わったのでしょうか。

大きく変わったのは情報環境です。1988年当時、国民の多くは軍が流している情報をそのまま信じていたが、今は誰もがインターネットを通じて様々な情報を取得し、どのような弾圧が行われているかを詳細に知ることができます。

2021年2月1日のクーデター後、国軍が手ぶらの国民の頭を狙い撃ちしたり、自宅内にいる子供を捜査中に撃ち殺したり、銃で撃った後の遺体を無残にも路上を引きずって持ち去ったり等々、様々な悲惨な光景を動画で目にしました。これをきっかけに軍の非人道的な弾圧行為を許せなくなったのです。

特に若い世代は2011年の民主化以降、ヤンゴンなどの都市部で自由な生活を謳歌し、国外から入ってくる情報に自由にアクセスしてきました。外国に留学しなくても、世界の動きについて分かるようになり、自国がどのような状況に置かれているかを客観的に理解できるようになりました。軍がプロパガンダ情報を流しても、若い世代は信用しません。

■激増した在外ミャンマー人の役割

インタビューに答える京都精華大学特任准教授のナンミャケーカインさん=筆者撮影

――インターネットの発達は、民主化運動の継続に決定的な影響を与えていますね。

ミャンマーには「イラワジ」「ミャンマー・ナウ」などのインターネットメディアが存在しており、真実を報道しようと活動しています。若い世代はSNSで情報を共有しています。

ただ、インターネットの発達ばかりが民主化運動を進展させたわけではないと思います。1988年当時との大きな違いは情報環境だけでなく、海外に住んでいるミャンマー人の爆発的な増加です。ミャンマーは1962年以降、事実上鎖国状態だったので、1988年当時は国外に住んでいるミャンマー人はほとんどいませんでした。

しかし、現在は世界に約700万人の在外ミャンマー人が暮らしており、隣国のタイには約200万人います。私が1989年に日本にやってきた時、立命館大学にいたミャンマー人留学生は私1人。日本国内でミャンマー人に出会うことは、ほぼありませんでした。今は日本全国に約3万5000人のミャンマー人がいます。

前のクーデターから30年以上の時間が経過し、海外で暮らすミャンマー人の中からビジネスや様々な社会活動で成功を収めた人が大勢現れました。彼らの財力、知力、人脈が今、民主主義を求める運動を国外から支えているのです。

――日本で暮らすミャンマーの人々は、どのようにして祖国の民主化運動にかかわっていますか。

人によって、また世代によってかかわり方は様々です。中高年世代を中心に日本国内でデモや街頭活動に参加している人々もいますが、若い世代の在日ミャンマー人たちは、知恵を絞って様々な形で民主主義を求める運動に貢献しています。

例えば、ある若い女性は東京でレストランを開店し、売上金を祖国の民主派に寄付しています。様々なグッズを制作して販売し、売り上げを寄付している人もいます。20代、30代の在日ミャンマー人たちは本国と日本で高いレベルの教育を受け、日本でIT関連の仕事をしたり、自分でビジネスを展開したりしています。

彼らはSNSで情報交換し、世論を形成し、ビジネスで得たお金を本国の民主派に送っています。そういう在外ミャンマー人が世界中にいます。1988年当時には考えられなかったことです。

私自身は最近、ミャンマーの民主主義回復を支援するための「Wart」と称する団体を結成しました。勤務先の京都精華大学には日本で唯一のマンガ学部があるので、同学部の先生方と「武力・権力による言論・表現・自由・若者の未来の弾圧」をテーマに描かれた一コマ漫画やイラストを世界中から募集し、展示会専用サイト等で公開する活動などを進めるつもりです。

ミャンマーで国軍が力を持ち続けている理由の一つは、軍が一大利権集団になっているからです。40万人の軍人がおり、その一人ひとりに家族がおり、親戚がいると考えれば、軍にぶら下がって食べている人が数百万人に上ると考えられます。

しかし、今の在外ミャンマー人の若い世代の活動を見ていると、今度は1988年の時とは異なり、民主主義を求める運動は簡単には潰れないと思います。

■日本の政府、企業にできること

ミャンマーにおける民主主義の回復について訴えるナンミャケーカインさん=横浜市内、本人提供

――2011年の民主化以降、ミャンマーは投資先として国際的な注目を浴びるようになり、日本企業の進出が加速してきました。国軍がクーデターを起こした今、日本政府や企業に何か求めることはありますか。

日本政府は国軍による政権掌握を認めておらず、ミャンマー向けの新規ODA(政府の途上国援助)を停止しました。この点は評価できますが、ODAの継続事業については停止されていません。日本のODAが止まれば、国軍への強い打撃になるので、ぜひ全てのODA関連事業を停止して欲しいと思います。

次に、ミャンマーに進出している大手日本企業についてですが、2012年に立ち上げられた「日本ミャンマー協会」という組織の会員となっており、渡邉秀央氏が会長を務めています。

※渡邉秀央氏は87歳。中曽根康弘元首相の秘書を務めた後、自民党から出馬して衆議院議員となり、中曽根内閣の官房副長官や、宮澤喜一内閣の郵政大臣、参議院議員などを務めた。ミャンマー国軍幹部との太いパイプを持つことで知られ、2012年に設立された日本ミャンマー協会の会長に就任した。

渡邉氏が国軍と深い関係にあることはミャンマーでも知られており、様々な報道によって、渡邉氏が国軍を擁護していると伝えられています。現在のミャンマーでは、軍と一切の関わりを持たずにビジネスを継続することは事実上不可能ですが、軍政に協力的であるとされる渡邉氏に対しては、日本に住む多くのミャンマー人が疑問に思っています。

クーデターによって国内は混乱し、治安も悪化しているので、いくつかの日本企業がミャンマーでの事業を一時停止したり、進出を延期したりし、中小企業の中には事業を清算してしまった企業もあります。外国企業がミャンマーから離れていくことは、国軍への大きな圧力になります。日本の企業には、民主主義が回復するまでミャンマーでのビジネスを控えて欲しいと思いますし、国軍を擁護するような活動は一切やめて欲しいと思います。