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ウーバーイーツにない価値、突き詰めたら配膳ロボット ペッパー生んだ企業が描く未来

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ソフトバンクロボティクスの吉田健一CBO=シンガポール、西村宏治撮影
ソフトバンクロボティクスの吉田健一CBO=シンガポール、西村宏治撮影

ソフトバンクロボティクスの吉田健一CBO=シンガポール、西村宏治撮影
ソフトバンクロボティクスの吉田健一CBO=シンガポール、西村宏治撮影

――新型コロナを受けて、世界中でデジタル化が加速していると言われています。ロボットをめぐる変化もありましたか。

すごくあると思います。例えば日本の事例ですが、結婚式場の八芳園(はっぽうえん)さんが配膳ロボットを導入されました。ああいう高級バンケットでロボットを使うことは、これまで考えられませんでした。それが今では、お客様がロボットのほうが安心できると。これはコロナのためですね。

ロボットがもたらすものは結局マネジメントの変革なんです。人間の仕事を、どうロボットに変えていくかということです。しかし効果があることは分かっていても、心理的なハードルがあります。

自動車が初めて世の中に出たときに馬車組合が抵抗した、みたいな話がありますね。結局は自動車の方がいいとなりましたが、当初は「人を殺すんじゃないか」とか「排気ガスの問題がある」とか。似たような話はどの産業にもあります。

レストランでも「本当に大丈夫?」とか「お客さんが怒るんじゃないの?」とかいう不安がありました。ところがコロナで、なるべく人と接触しないほうがいいという話になり、逆に「ロボットのほうがいい」となった。ロボット導入の後押しとして、これは大きかったと思います。

シンガポールのレストランでデモ稼働する配膳ロボット

――ロボットを使う必要性が出てきて、心理的なハードルが下がったわけですね。

外食産業では、さらに別の側面もあります。コロナ禍でフードデリバリーが広がったことで、レストランが差別化を問われるようになりました。「Uber Eatsにはない価値とはなにか」を追い求める変革が、外食産業全体に求められています。そこにロボットが入っていっています。

例えばいま、「焼肉きんぐ」さんが全店で配膳ロボットを使っています。これは単純にロボットを導入して差別化しようという話ではありません。全体のバリューチェーンの中に、うまくロボットをはめているんです。

3千円でお肉が食べ放題。タブレットで注文できるし、配膳はロボットですから気を使わなくてもいい。そして人は何をするかと言えば「おせっかいポリス」といって、それぞれのパフォーマーが「牛タンはこう焼くんですよ」と見せるといったサービスをしています。人間でしかできない価値を、そこで出しているんです。それでいま大成功しているんです。

――確かにデリバリーではできないサービスです。

単純に、旧来のやり方の一部分だけをロボットに任せるんではないんです。その部分がロボット化できるんだったら、それを前提にして、全体としてもっと高い価値を届ける提案ができるんじゃないか、というわけです。こういう考え方はやはり、コロナが引き起こした変化でしょうね。

ソフトバンクの掃除ロボットWhiz(両端)とKeenonの配膳ロボット(中央)=シンガポール、西村宏治撮影
ソフトバンクの掃除ロボットWhiz(両端)とKeenonの配膳ロボット(中央)=シンガポール、西村宏治撮影

――今回はシンガポールでの発表ですが、アジア各国を見ていると新技術の導入も早いな、と感じます。

少し前までは日本がロボット先進国だったんですが、残念ながら、今はそんなこともないと感じます。

シンガポールではどこに行ってもお掃除ロボットがいますし、これからはレストランでも配膳ロボットが出てくると思います。発展の遅れていた地域に先進技術が導入されることで先進国を追い抜いてしまうリープフロッグではないですが、日本よりもパッと進んでしまうことが、シンガポールを初めとしたアジアの国で起きるんじゃないかと感じています。

シンガポールの街中で稼働する見回りロボット=西村宏治撮影
シンガポールの街中で稼働する見回りロボット=西村宏治撮影

――確かに空港やショッピングモールなどでロボットを見ますね。ソフトバンクロボティクスとしては、シンガポールで2018年に清掃ロボット「Whiz」の販売を始めました。これまでの売れ行きはどうですか。

Whizはカーペットのある場所向けですが、それでもすでに200施設以上に導入されています。短期間に広がったと感じます。

日本では「ロボットでは人間ほど掃除はできない」などと言われることがあります。そこで我々が菌の量などを測定して、ロボットの方がいいということを示すとか、そういうことを一つ一つやっています。シンガポールでは、よりロジカルに数字をもとに決めるところがあると感じますし、広がりが早い。

もちろん小さい国だからということはあります。政府も協力的ですし、いろんな業界も協力的です。デジタル政府の取り組みなどもそうですけど、早い。

でも日本も「課題先進国」と言われるほどで、人手不足などを世界に先駆けて体験しているわけですから、日本みたいに大きな国で、本当は世界で一番早くロボットの導入を進めてほしいですね。

――日本でのロボット導入の難しさというのは、どういうところにあるのでしょうか。

いろんな業務のプロセスが、非デジタルでできあがってしまっているので、変えるのが難しい点があります。

清掃ロボットも、新しいビルなどでは提案しやすいんですが、既存のところはなかなか難しい。例えば清掃料金が、かかった費用プラス20%といった形になっています。

この状況だとロボットを入れてコストを下げると、利益が下がってしまいます。こういうことが変革の痛みになるんです。

――では、どうやって導入を進めてくのがいいのでしょうか。

やっぱり、既存のプロセスのまま人をロボットに置き換えようとするといろいろ弊害が目立つんです。

でも全体をデジタル化する、その中の手段として一部にロボットを使うということに考えを切り替えられると、全然違うと思うんですね。

例えばサイゼリヤさんがロボットを使っていますが、配膳などのテーブル周りはスタッフさんがやっています。

ロボットは、キッチンとホールの間の運搬を担います。これで何が起きたか。人件費が下がるというより、お客さんの回転率が上がったんです。

サイゼリヤさんはランチタイムに行列ができるんですが、テーブルを片づけられなくてお客さんを入れられないことがあった。それが机をパパっと片づけて、運ぶのはロボットにやってもらうようにしたんです。

ロボットの活用は、人をロボットに置き換えるという話になりがちなんですが、そうではなくて、どうやって全体を見直すかみたいなところが大事なんです。

――今後の活用先はどういうところになるんでしょうか。

日本ですと、ビュッフェでの下げ膳などはあると思います。日本人は几帳面なので、ロボットが近づいていくと使ったお皿を置いてくれるんですね。スーパーマーケットでバックヤードからフロントに商品を運ぶのにロボットを使っている例もあります。

さらに、昔はよく店頭でウインナーなどを焼いて試食を勧めることがありましたよね。いまはそういうスタッフの方がスーパーに入れないので、ロボットが音を流しながら巡回して、試食品を配るような使い方も出てきました。ロボットが朝と夜はそうじ、昼は商品の運搬をして、さらに空いた時間に試食を勧めるとかですね。

――技術的にはどんな風に進化していくとみますか。

次の技術的なチャレンジは屋外です。壁があると意外に簡単で、今のロボットに入っているLiDAR(光やレーザーなどで距離を測るセンサー)でなんとかなるんですが、壁がないと環境を見て判別しないといけません。それがここ3~5年ぐらいかかるかな、と思います。

さらに難しいのは「手」の技術です。配膳ロボットや清掃ロボットは基本的に「足」です。移動はできますが物をつかむことはできない。物をつかむのは難しいんです。我々が投資しているバークシャーグレイという会社が日本でやっていて、物流センターという限られた状況では使えます。でも、家で洗濯物をたためるかというとできないですね。

屋内の「足」の部分については商用化レベル。屋外の「足」は、来年から数年。屋外の足というと公道の自動運転を想像しますけど、その前の段階にもいっぱいあるんです。ゴミ回収車とか、もうちょっとゆっくり走るものって結構あるんですね。そして「手」ですね、まずは物流センターなどの限られたところから広がっていくと思います。

Keenonの配膳ロボット=シンガポール、西村宏治撮影
Keenonの配膳ロボット=シンガポール、西村宏治撮影

――清掃ロボットを導入している企業からは「トイレ掃除もできたらいいのに」という声を聞きました。

トイレ掃除は難しいです。清掃員がやる仕事って床清掃と、ごみ回収と、トイレ清掃なんですが、まだゴミ回収の方がなんとかなると思います。トイレ掃除は当分できないですね。介護とかも実は結構難しい。だからまずは技術的にできるところからやっていったほうがいいかな、というのはありますね。

――使う側の発想が大事になるということですね。

日本の労働人口が減ってくるときに、どこは機械で我慢して、どこは人がやらないといけないのか。手を使うようなきめ細かい作業、たとえば品出しとか、当分ロボットはできないんです。さっきの介護もすごく難しいんですね。そういうところは残ってくるかなと思います。

ペッパーの事業をやって思ったのは、技術一辺倒でもダメだし、マーケット一辺倒でもダメなんですね。例えばトイレを掃除してほしいって言っても、できない。その交点を見つけるのがソフトバンクロボティクスの価値。あ、ここはそろそろ来るというところを見つけていく。早すぎると失敗しますし、遅すぎてもダメですし、そこがすごく難しいところですね。

――ロボットやAIについては中国の技術開発が目立ちますが、日本の今後の立ち位置はどうみていますか。

中国のロボットやAIは、米国や欧州に受け入れられることはないと思うんです。今回のシンガポールでのKeenbotの導入もそうですが、我々がクラウドを提供します。ハードは中国でつくればいいんですが、データやソフトは中国はちょっと怖いよねというのが、日本でもありますが、アメリカではもう必須です。

これから中国系、米国や欧州系のクラウドが分かれてくると思うんです。私たちは中国の安いハードを使いつつ、米国や欧州側の部分をつくれないかと思っています。日本企業がやるべき分野だと思いますね。

――そうすれば、まだまだチャンスはある?

あると思いますね。中国に生産拠点を置く企業もハードは持ってこれますけれども、もうハードだけ売るという商品は少なくなってきていますから。ソフトは日本、あるいは非中国で提供するというのが今後求められてくると思います。

――先日、ソフトバンクの孫さんが次は「スマボ」の時代だと言っていましたね。やはりAIが入ってくると違うのでしょうか。

変わりますね。例えば自動車工場のロボットアームってすごいよう見えますが、ミクロン単位でプログラミングされたことをやっています。

我々が投資しているバークシャーグレイのロボットは、物を見ています。「これはクリアファイルだ」「ということは、こういうふうに手を下ろさなくてはいけない」「あ、取れなかった」「じゃあこうしなくては」というような学習をしていきます。現実の環境というのはすごく複雑なので、そこでフィードバックループを回しながら、学習していく。

――自分で考えるようになるというわけですか。

自分で考えるというか、言われた通りではない、ということですね。配膳ロボットにしても、Aの地点からBの地点に行く間に障害物をよけていくのは毎回環境に合わせてやっています。

もちろん人間と同じようなインタラクションを全部やるみたいな話は、今の技術では正直、難しいです。でも配膳の足だけに関して言えばスマボで行けるね、とか。清掃の床だけに関して言えば、スマボでできるね、とかそこは切り離してやっていくんですね。

――いちいち考えさせているよりは、指示した方が早いということはないのでしょうか。

結局、一番のボトルネックだったのはエッジ側(端末側)のコンピューティングパワーなんです。いちいちクラウドに飛ばしていたらダメなんですよ。危ないので。ぱっとその場で判断して止まるということをやらないといけない。そのための計算能力が必要です。

あとはセンサー。LiDARとかです。それらの精度とコストが課題でした。それがようやく商用化できる水準になってきたんです。5年前はすごく高くて、だったら人を雇ったほうがいいという話でしたが、ようやく配膳とか清掃といったところは投資に見合う回収が見込めるようになってきました。

――そうするとハードの進化に伴い、もはや自己学習するロボット、つまりスマボは当たり前になっていくと。

なってくると思います。一番、大きいのは、LiDARからカメラへの変化です。LiDARって、これが椅子だとか人だとかは分かっていないんですね。でも目で見ると、人だとか椅子だとかが分かる。そこの差を埋めるのがAIです。これが出来るようになると、カメラはいま数十ドルの世界、LiDARはまだ千ドルの世界ですから、カメラが使えるようになると爆発的に普及しますよね。それが、ここ数年で起きてくる変化だと思います。もうひとつの波になってくると思います。