ミゲル・ルッソは銃を所有できなかったはずだった。彼には重い有罪判決を受けた前科があり、精神障害の兆候もあった。
ところが、ニューヨーク州シラキュースの警察は2019年の冬、6歳の少年が背中を撃たれたとの報告を受けて出動し、銃を手にしたルッソを見つけた。少年は命を取りとめた。だが、ルッソは銃で警察官を脅したため、射殺された。
捜査当局は後日、ルッソが何らかの方法で入手した銃は「ゴーストガン(幽霊銃)」だったことを知った。シリアル番号のない銃で、オンラインで注文できる部品を組み立てたものだ。
ルッソの死は、後に起きる事態を示唆していた。それから2年、パンデミック(感染症の大流行)中に銃撃事件が急増したニューヨークで、地元警察はゴーストガンの回収事案が増え、この武器は検察官の新たな関心を集めていると述べた。
マンハッタンの地区検事サイラス・バンス・ジュニアは8月、オンラインで注文した部品を使って計8丁の銃を組み立てたとして、フランシスコ・マルティネス(38)とマリア・オバレス(29)の2人を起訴した。
「被告人たちは自分たちのアパートをちょっとした銃工場に変えた」とバンスは声明で述べ、こう続けた。「ゴーストガンはもはや絵空事ではなく、現実的な脅威だ。脅威は目前にある。阻止するための連邦規則が必要だ」
マルティネスもオバレスも無罪を主張した。裁判記録によると、マンハッタン北部にあるマルティネスのアパートの屋根から数発発砲した複数の銃が見つかっており、(本紙が)マルティネスの弁護士に電子メールでコメントを求めたが、回答はなかった。オバレスの弁護士ロバート・ビーチャーは、被告の主張については言及したが、それ以上のコメントは控えた。
オンラインで銃メーカーから部品一式を購入して、組み立てることができるゴーストガンには、司法当局が10年以上にわたって注目してきた。その武器は誰が、いつ、どこからその銃を購入したのかという出所の追跡に依拠する捜査を妨げ、銃密売パターンの大規模な分析を混乱させる。銃規制を求める団体「Everytown」の分析によると、昨年はパンデミックと銃購入の急増が一致したことで、ゴーストガンが全米各地の都市で増加していることが判明した。
銃取り締まり担当の警察部隊を率いる警視コートニー・ニランによると、ニューヨーク市ではここ2年間に押収された数千丁の銃のうち、ゴーストガンの数は少ないものの、その構成比は増えている。
彼女が言うには、警察は2020年に約150丁のゴーストガンを押収したが、前年は45丁で、2018年は17丁だった。昨年は、75丁分の組み立て前の部品も押収した。
ニランの部隊は今年8月までに、約120丁と組み立て前の30丁分の部品も押収した。彼女の話だと、今年の押収総数は年末までに昨年の数を超えると見込まれる。彼女によると、現在はより広範に流通しているという。
「これまでは、ゴーストガンを持ち歩くギャングのメンバーはめったに見られなかった」とニランは言う。「多くの場合、(ゴーストガンを持ち歩いていたのは)愛好家か、精神的な病気で合法的に銃を持てない人たちだった。それが今や、路上に立ち止まっていたり車の中にいたりする17歳の少年ギャングがゴーストガンを持っているのだ」
全米各地の検察官たちは、ゴーストガンの蔓延対策に多くの戦略を立てている。サンフランシスコでは昨年、殺人に使われて押収された銃の約半数がゴーストガンだった。地方検事のチェサ・ブーダンはオンラインで武器を販売する三つの組織を相手取り訴訟を起こした。
「銃の安全性に対する法執行機関の従来のアプローチは機能していない」とブーダンは言う。「こうした企業が何万丁もの銃を街にばらまくのを阻止する方が、警察が違法な銃を1丁ずつ押収することをぼんやりと期待しているよりずっと効果的だ」
ニューヨークのマンハッタンは、サンフランシスコ並みの状況に近づいているわけではない。しかし、(マンハッタン地区検事長の)バンスとニューヨーク州司法長官のレティシア・ジェームスは、個々の被告を起訴するとともに、司法省がゴーストガンの部品を銃器に含める定義拡大を求めたうえで、バイデン政権が提案された規則を適用するよう要請した。銃規制を求める人々は、武器の増加を許す抜け穴を塞ぐことになると言っている。
一方、全米ライフル協会(NRA)は、「何ら暴力犯罪に対処することにならない」として、その規則に反対している。
ニューヨーク州議会は6月、ゴーストガンの販売とゴーストガンを組み立てる部品の販売を禁じる法案2件を可決した。法案は(成立に必要な州知事の)署名がまだされていない。州知事キャシー・ホークルの広報担当によると、同州の新体制(訳注=クオモ州知事が2021年8月にセクハラ問題で辞任し、同月24日、ホークル副知事が知事に昇格した)は法案を検討中だとしている。(抄訳)
(Jonah E. Bromwich)©2021 The New York Times
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