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『愛の不時着』にも登場、北朝鮮の占い 実は刑法で禁止、それでも頼る人が絶えない

北朝鮮インテリジェンス
8月29日、平壌で開かれた「愛国的な青年の力を示す」と題したイベントで踊る若者。朝鮮中央通信が8月30日配信した=Latin America News Agency via Reuters Connect

■「迷信行為」根絶の闘争宣言

米政府系放送局ラジオ・フリー・アジアは8月10日、北朝鮮の社会安全省(一般警察)が7月末に各地で群衆大会を開き、迷信行為(占い)を根絶するための全面闘争を宣言したと伝えた。同省は迷信を信じる行為は、敵の前にひざを屈する敗北主義、反社会主義的な行為だと主張したという。新型コロナウイルスの防疫対策などで、北朝鮮市民の生活も更に困窮し、迷信に頼る市民が増えているのが背景にあるという。

北朝鮮は従来、刑法第7章「社会主義共同生活秩序を侵害する犯罪」のひとつとして、第256条に「迷信行為罪」を設けている。「金や物品を受け取り、迷信行為をした者は1年以下の労働鍛錬刑」「何人かに迷信行為を教えたり、迷信行為で重大な結果を招いたりした場合は3年以下の労働教化刑」「罪状が重い場合は3年以上7年以下の労働強化刑」といった具合だ。日本や韓国などで気軽に楽しめる占いをやっただけで、処罰されることになる。

だが、複数の脱北者は「占いに熱中している人は大勢いる」と証言する。最もよく知られているのが、朝鮮王朝時代から残るムーダンによるお告げだ。違法行為なので、巫女の格好などせず、アパートの一室などでひっそりと営業している。ほとんどが、先祖代々から受け継いでいる。市民は口コミでムーダンの存在を知り、ひそかに訪ねて、自分の未来を占ってもらう。「不幸が続いているのは、先祖の供養が足りないからだ」といったアドバイスを受けることもある。

北朝鮮をたびたび訪れている専門家によれば、北朝鮮で地位が高い人ほど、占いに熱中する傾向がある。「北朝鮮では出世すればするほど、周囲からねたまれる。最高指導者の目にもつきやすい。明日をも知れぬ生活だから、占いに頼ってしまう」

■軍幹部失脚、理由に「妻が占い熱中」

典型的な事件が、2012年7月に起きた李英鎬軍総参謀長の解任だった。

李氏は10年9月の朝鮮労働党代表者会で、金正恩氏と共に朝鮮労働党軍事委員会副委員長に選ばれた実力者だった。北朝鮮当局が当時、幹部たちに説明した解任理由は、妻が占いに熱中したことだった。韓国が李の副官を籠絡してスパイに仕立てた後、李氏の妻に「よい占師(ムーダン)がいる」と紹介させた。妻は占師から「李英鎬氏が昇進するためには、軍の機密情報がいる」「カネも必要だ」などと迫られ、違法行為を働いたという。

この説明が事実かどうかは明らかではないが、少なくとも北朝鮮当局が軍高官の更迭理由に使うほど、占いは北朝鮮の社会に浸透している。

韓国の情報機関、国家情報院で北朝鮮分析を担当した元高官は、占いが流行する理由について「政情不安とともに、当局による宗教弾圧の影響も無視できない」と指摘する。

元高官が小学生だった約60年前、韓国ではキリスト教を信じる人が2~3割、昔からの迷信(占い)を信じる人が7~8割だった。キリスト教関係者らが朝鮮戦争で荒廃した国土の復興や、1980年代の民主化運動を助ける過程で、韓国内でキリスト教が広がり、アジアではフィリピンと並ぶキリスト教信者が多い国になった。その過程で、占いに頼る人たちの割合が激減したという。

元高官は「北朝鮮は独裁国家だから、宗教の自由を認めるわけにはいかない。すべての恩恵は神ではなく、最高指導者が与えるからだ」と語る。北朝鮮は1961に開いた第4回党大会の前後に「金日成主席の思想を信じるのか、迷信を信じるのか」という大々的な政治キャンペーンを実施し、迷信行為の一掃を目指した。74年に制定した党の十大原則は最初に「金日成同志の革命思想によって全社会を一色化する」とした。

その一方で、宗教を徹底的に弾圧した。北朝鮮は憲法第68条で「公民は信仰の自由を持つ」と定めるが、全く守られていない。

■信教の自由をめぐる懸念

平壌で開かれた「青年の日」イベントで若者に手を振る金正恩氏。朝鮮中央通信が8月30日配信した=ロイター

米国務省は5月に発表した年次報告書で、北朝鮮を信教の自由をめぐる特定懸念国に19年連続で指定した。報告書は、韓国の北朝鮮人権情報センター(NKDB)の資料を引用。2007年から19年までの脱北者からの聞き取り調査の結果、信教の自由に対する迫害によって死者が126人、行方不明者が94人にのぼったとした。

NKDBによれば、北朝鮮に強制送還された脱北者らは、国外で教会に通った事実が発覚すると、罪がさらに重くなるという。

米国の国際宗教自由委員会も8月18日、「組織的な迫害、北朝鮮内の宗教の自由侵害の記録」を発表。当局による思想統制の指示文や公開裁判の写真などを添え、「北朝鮮はシャーマニズムの影響を抑圧すると同時に、全キリスト教徒の絶滅を目指している」と指摘した。

■「若者のあるべき姿」強調

北朝鮮の朝鮮中央テレビは8月21日夜、「あるべき青年の姿」として一人の女学生ユ・ギョンファさんを紹介した。平壌の青年運動事績館にユさんのモノクロの遺影と業績を示したレリーフが掲げられていた。

キムチョルス師範大音楽美術学部の2年生だったユさんは2005年1月13日、突然発生した火災のなか、「偉大な首領様たちの肖像画」を始め10余点を運びだそうとして倒れていた2人の革命同志を救助して犠牲になったという。ユさんには「透徹の首領決死擁護精神と熱い革命的同志愛の生きた模範を示した」として共和国英雄の勲章が贈られたという。

この報道は、ハリウッド映画や韓国ドラマに夢中になり、党の指導に従わない青年層に「あるべき姿」を示す目的でつくられたようだ。それだけ当局は、国外からの情報に影響されて、党の指導を信じず、キリスト教や迷信行為(占い)に頼る人が増えていることを強く警戒している。

国情院の元幹部は「北朝鮮の人々は毎日の暮らしが苦しい。家系によって進学や就職が差別され、自分の努力も報われない。さらに、病気を治療する医療体系も整っていない」と説明。「そうでなくても、誰かにすがりたい気持ちになるのに、宗教の自由もない。朝鮮王朝時代の迷信行為(占い)がはびこるのも無理はない」と語った。