保有株を担保に巨額の借金も アマゾンCEOら米億万長者、所得税逃れのテクニック

この分析によると、米国の最も富裕な経営者たちが支払った連邦所得税は、彼らの資産4010億ドルに対してほんの一部にすぎず、136億ドルだった。
この記録文書は、ウォーレン・バフェット(訳注=投資家)、ジェフ・ベゾス(同=米アマゾン創業者)、マイケル・ブルームバーグ(同=米ブルームバーグ創業者)、イーロン・マスク(同=米テスラ創業者)といった大富豪たちが、税法の複雑な抜け穴から利益を得られるという米税制のひどい不公平さと、富に対して労働所得への課税に重点を置くという(米税制の)現実を明らかにした。
大統領ジョー・バイデンが、企業や富裕層への増税に向けた税法の見直しを図っており、米国のトップ億万長者たちの手口に切り込むまれな機会が訪れている。バイデンは最高税率を37%から39.6%へ引き上げることを提案している。
記録文書と分析の結論から、上院議員エリザベス・ウォーレン(民主党、マサチューセッツ州選出)が支持しているような富裕税の導入を検討するよう、バイデンに改めて求める可能性がでてきた。ウォーレンの構想は、負債を差し引いた後の5千万ドルを超える個人の純資産――株や家屋、ボート、その他の所有物――に2%の税金をかけるというものだ。
ウォーレンは今回の報道が次のことを指摘したとツイッターに投稿した。「米国の税制は億万長者のために不正に仕組まれている。彼らは、勤労世帯のように賃金収入で財を成すわけではない」と。
プロパブリカは、情報をどう入手したかについて明かしておらず、ニューヨーク・タイムズは独自の検証ができていない。しかし、報道は、記録文書が「条件も結論もない生の形で」プロパブリカに提供されたものであり、この記事で言及されたすべてのエグゼクティブに情報を確認してもらったとしている。
「この記事の中で、税の情報が書かれている人すべてにコメントを求めた」とプロパブリカは書き、「そのいずれもが払うべき税金は支払ったと回答した」と付け加えた。
これとは別の編集者のメモで、プロパブリカは「これまで隠されていたパターンを読者に知らせることは基本的な意味で公共の利益にかなうと私たちは信じ、かなり選択的かつ慎重に」情報を公開したという。
今回の報道は、富裕層が税負担を減らすためによく使うテクニックに焦点を当てた。そうしたテクニックには複雑な抜け穴や完璧に合法的な控除の活用などがあり、それによって納税額を著しく削減したり削除したりできるのだ。莫大(ばくだい)な株式保有を担保にした巨額の借入金などが含まれる。そうした借入金は課税されず、経営者が支払う借入金の利息は税額からしばしば差し引くことが可能になる。
アマゾンのCEO(最高経営責任者)のベゾスは2007年、同社の株価が2倍になったにもかかわらず、連邦所得税をまったく支払わなかった。プロパブリカによると、その4年後、ベゾスの資産は180億ドルに膨れ上がったが、彼は損失を計上し、子どもたちのために4千ドルの税控除を受けた。
プロパブリカが掘り起こした事例の一つには、バークシャー・ハサウェイのCEO、バフェットのケースがある。バフェットは長い間、税法は富裕層にもっと負担を課すべきと公言してきたが、彼自身は2014年から18年の間に資産が243億ドル増えたにもかかわらず、税金を2370万ドルしか支払わなかった。
財務省とIRSは、6月8日に情報が明るみに出た際、すぐにはコメントしなかった。IRS長官のチャールズ・レティグは同日、米議会上院財政委員会の公聴会で、IRSで起こったらしい違反行為にはコメントできないが、詳しく調べていると語った。
「あの記事の情報がIRSから出たとの申し立てに関しては、調査が行われていることは確かだ」「調べる」とレティグは述べた。
上院財政委員会委員長の上院議員ロン・ワイデン(オレゴン州選出、民主党)は、納税者データの保全に対する懸念をレティグに伝えた。同上院議員は、情報が表に出て、税法改正の必要性も明らかになったと強調した。
「このデータが示しているのは、パンデミックの間に莫大(ばくだい)な利益を上げた米国の最も裕福な人たちが公平な税を支払っていなかったことである」とワイデンは指摘し、この不公平を是正する提案があると言い添えた。
アイダホ州選出で同財政委員会の共和党トップの上院議員マイク・クレイポは、IRSが納税者の財務情報にもっとアクセスできるようにするというバイデン政権の提案に対し、今回の情報開示で懸念が一層高まったと語った。データの安全保持という点で、彼はIRSを信頼できないと示唆した。(抄訳)
(Alan Rappeport)©2021 The New York Times
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