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コロナ対策、当事者の「封じ込め」ではなく参加型の仕組みを キーポピュレーションという考え方

国境なき感染症 私たちの物語
日本でも新型コロナウイルスの一般向けワクチン接種がようやく始まったが、課題は山積している。写真はイメージです=gettyimages
日本でも新型コロナウイルスの一般向けワクチン接種がようやく始まったが、課題は山積している。写真はイメージです=gettyimages

岩橋恒太さん=akta提供
岩橋恒太さん=akta提供

――セクシュアルマイノリティが集まる新宿2丁目で働く人たちは長年、HIVの感染問題に取り組んできました。新型コロナウイルスにはどんな対策を取っているのでしょうか。

いよいよ緊急事態宣言が出そうだという昨年3月末、2丁目ではゲイバーなど有志の店舗が呼びかけ、情報共有のためのLINEグループをつくり、かなりの数の店舗が参加しました。ビニールカーテンなど感染予防の方法から、休業した場合の助成金や支援の内容まで、幅広く情報交換されていました。

やがて2丁目のお店でもコロナの感染者が出るようになりました。ただ、馴染み客とのつながりが強いゲイバーなどは、濃厚接触した可能性のあるお客さんたちには直接その情報を伝えていたようです。

秋になると比較的大きなお店のマスターなどに感染する人が出て、ツイッターなどで公表する動きもみられました。お客さんの反応は好意的でしたが、もしかしたらこれまでのHIV感染の経験が生きているのかもしれませんね。

つまり、病気の問題は人権にかかわっていて、勝手に情報を流すのは無粋なこととか、自分たちのコミュニティで対応していくことが大事といった「配慮」と「冷静さ」がみられました。

――エイズ対策に関わってきた立場から見て、コロナ対策にはどんな課題があると思いますか。

検査にせよワクチン接種にせよ、必要なところに必要な情報やツールが届くのが大事で、それはエイズ対策と変わりません。

エイズ対策では、「キー・ポピュレーション」という言葉があります。感染リスクが高い人たちであると同時に、有効な対策を実現するために鍵を握っている人でもあるという考え方です。

つまり、ハイリスクグループとして排除したり、囲い込んだりするのではなく、逆に彼ら自身に対策の企画や実施、評価にかかわってもらうことが重要であり、むしろ成果をもたらすのです。

最近、HIVに限らず、問題の当事者自身が施策づくりに参加する大切さはよく言われるようになりました。これは「誰も取り残さない」という概念を大切にするSDGsが注目されてきたことも影響しています。

これに対し、コロナ対策において、キー・ポピュレーションになりそうな人たちの意見が施策に反映されているかというと、それはまだ限定的な印象です。

ヒアリングは行われていて、その動きはとても重要ですが、実際に対策を決めるにあたっても、キー・ポピュレーションの人たちと議論し、彼らの意見を採り入れることが大事です。

aktaが作成、配布しているHIVや新型コロナウイルス予防に関する啓発資料。このほか、aktaはコロナとセックスライフについてのアンケートをしてフィードバックするなどの取り組みもしている=akta提供
aktaが作成、配布しているHIVや新型コロナウイルス予防に関する啓発資料。このほか、aktaはコロナとセックスライフについてのアンケートをしてフィードバックするなどの取り組みもしている=akta提供

――ほかにも課題はありますか。

コロナ感染者らの動向データの共有が不十分なことです。エイズ対策の場合は、感染がどこで起き、どういう経路なのかなどについて、現場で予防啓発や支援活動をしているNGOにも共有されてきました。

ところが、コロナの場合は、今まさに大流行している感染症ということもあってか、動向データがNGOなどには共有されず、実際に街の中でどのくらいコロナが流行しているのかなかなか把握できないもどかしさがあります。

また2丁目で感染者が出ても、保健所などの聞き取りに感染経路などを正確に話すことができない人もいるでしょう。彼らがセクシュアルマイノリティの場合、それを知られたくないと思うからです。自分が新宿2丁目にいたことすら言えないかもしれません。

ただ、それは言えない本人に問題があるのではなくて、必要なときですら、セクシュアルマイノリティであることを安心して明かせない社会に問題があります。そういったことで2丁目では一層、コロナの感染状況が見えにくくなっているのです。

――エイズ対策の知見をどうしたら生かせますか。例えばアメリカでは、コロナ対策の要は有名なHIV研究者です。アフリカでもエイズ対策の経験豊富な人たちがコロナ対策にあたっています。

それは日本も同じです。いまコロナ対策に尽力している医師や、現場でコロナ対策にあたっている人たちの中には、これまでエイズ対策にかかわってきた人が多くおり、私たちと協働してきた方々が何人もいます。

――エイズ対策ではaktaが2丁目の店舗と行政との連携のハブになっていますが、それはコロナ対策においても機能しているのですか。

aktaのそうした役割はコロナ対策でも重要だと考えています。お店に対する情報の共有は続けています。2020年にはコロナ対策にあたる医師や行政関係者らを招き、店舗向けの勉強会を開きました。

エイズ対策での経験から、コミュニティとの信頼関係が重要と考えている専門家や行政の担当者も少なくなく、積極的な協力を得ることができています。

今考えているのは、新宿2丁目を対象とした自前のコロナ検査を実現できないか、ということです。HIV検査でも前後のカウンセリングや陰性の意味の説明、陽性だった場合のその後のサポートなど、多くの経験値があります。それを生かせるのではないかと、関係機関との検討を始めたところです。

――ワクチンの接種が始まっても並行して検査は必要です。グローバルファンドでも低所得国に対しHIV検査に加え、新型コロナ検査の緊急拡大を支援していますが、日本の検査率はまだ低いですね。

実はHIV検査にも似たような課題があります。世界ではHIVの自己検査も含め、さまざまな検査方法にアクセスできるようになっています。いま不安だから検査を受けたいというニーズに応えるのも必要ですし、感染動向を把握するうえでも検査は大切です。

そのため、受け皿になる検査の機会はたくさんあるほうがいいのですが、日本ではHIV検査の機会を広げる動きはまだ限られていて、保健所や医療機関が中心となっています。ですからそういう機関がコロナ対策で手一杯になってしまうと、今度はHIV検査にも影響が出ます。実際、2020年は一時期、保健所でのHIV検査の件数が前年の4分の1まで減少してしまいました。

――検査の機会が増えたとしても、本当に必要とする人に情報が届くのでしょうか。

「保健所のHIV検査は無料・匿名です。保健所で受けましょう」と広報するだけでは、ゲイ・バイセクシュアルの男性をはじめ、セックスワーカー、トランスジェンダー、薬物依存やメンタルヘルスなどの課題を重複して抱える人たちなど、本当に検査が必要な人たちに情報を届け、実際に検査に行ってもらうようにするのは難しい。さまざまな啓発の工夫や地道なコミュニケーションの努力が必要です。

同様にコロナの検査やワクチン接種をめぐっても、リーチしづらい人たちが出てくる可能性はあるでしょう。そうなってしまうと、彼らが再流行の「へそ(中心)」になる危険性もあります。誰も取り残されない社会の実現が、みんなにとっても重要だと考えます。

また、コロナが注目されがちですが、HIVの流行も終わったわけではありません。コロナ禍でもセックスをする人は当然いるわけです。

海外の対応をみてみると、英国はあれだけコロナの流行が激しく死者も多かったのに、今年2月のHIV検査普及週間に検査を受けた人は、前年の4倍にのぼったそうです。

1990年代のゲイコミュニティのエイズ禍を取り上げたテレビドラマが話題となり、コロナとあいまって人々の関心を上げたからとも言われていますが、クリニックでの検査も、自己検査キットも、郵送検査も、いろいろなものを地域で準備していたことがあり、受けやすかったと聞いています。

コロナの影響を受けながらも、レジリエント(柔軟)なエイズ対策や体制づくりが重要だとわかります。私たちも引き続き、新宿2丁目というコミュニティに根ざしながら活動を続けていきたいと思います。

日本国際交流センター/グローバルファンド日本委員会 伊藤聡子)