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中国から北朝鮮に望遠レンズを向けたら、監視社会の片鱗が見えた

北朝鮮インテリジェンス
中朝国境にある北朝鮮集落。国境沿いには鉄条網と検問所が設置されていた=姜東完教授提供

北朝鮮東北部、咸鏡北道穏城郡南陽。豆満江を隔てて中国と接する小さな街だ。ここにある3階建ての小さなアパートの前に、「南陽区第35警備哨所」という小さなコンクリート製の詰め所があった。入り口の左側には「告知」という文字、右側には「申告電話番号」として、保安部(人民保安部、現・社会安全省=一般警察)、保衛部(国家安全保衛部、現・国家保衛省=秘密警察)などの連絡先が記されていた。

咸鏡北道穏城郡南陽にある警備哨所(詰め所)。「南陽区第35警備哨所」の文字が見える=姜東完教授提供

南陽に住んでいた脱北者によれば、北朝鮮で「警備所」と呼ばれる施設だ。20~30世帯で構成される人民班ごとに設けられる。人民班のなかで引退したお年寄りを中心に、警備所に詰める。南陽はアパートが古いため、外に設置されているが、平壌のアパートの場合は、アパートの1階内部にあるケースが多い。

姜東完・韓国東亜大教授=本人提供

アパートを訪ねてくる外部の人間は必ず、警備所に訪問先を申告しなければならない。遠方から来た訪問客は旅行証明書も一緒に提示しなければならない。申告しないでアパートに入れば、社会安全省の分駐所(派出所)に通報される。エレベーターがあるアパートでは、エレベーター内に椅子を置いて、警備所の人間が見張っている。申告した書類は定期的に分駐所に送られ、チェックされる。不定期で夜中に戸別訪問が行われ、不審者がいないか確認作業が行われる。

正面のアパートの左隅に「警備哨所」が設置されていた=姜東完教授提供

この脱北者は「南陽は小さな街だから、お互いが顔見知りの関係だ。服装や言葉遣いが違う人間は非常に目立つ。アパートの訪問客だけではなく、道や市場で外部の人間を見つけたら、必ず分駐所に申告しなければならなかった」と語る。

人民班のなかには、人民班長も知らない社会安全省や国家保衛省との連絡員が必ずいる。住民が不審者をかばったり、申告をおろそかにしたりすれば、すぐに密告される。韓国の人気ドラマ「愛の不時着」では、登場人物が「北朝鮮に逃亡すれば誰も追いかけてこられない」と語る場面があった。脱北者は「外部の人間が北朝鮮で隠れられる場所などない」と話す。

姜東完教授が昨年12月に発表した写真集「平壌882.6キロ」=本人提供。扉の写真に題名と同じ標識が見える。常に平壌を意識するようこうした標識が使われるという

街の外れには検問所が設置されている。自由な往来を防ぐためだ。軍や社会安全省の要員が見張っている。姜東完教授が撮影した当時、荷台に女性を乗せた男性の自転車が検問所を通過した。担当者は、他の通行人の自転車を借り上げて追いかけ、この男性が持っていた荷物を一時的に没収した。2人乗りが規則違反だということで、勝手に荷物を取り上げようとしたらしい。

検問所の前を通過する2人乗りの自転車(左)。この後、検問所の担当官(右)に追いかけられ、荷物を一時没収された=姜東完教授提供

国境地帯には鉄条網が張り巡らされ、検問所が設置されている。豆満江や鴨緑江に洗濯に行く女性、魚を釣りに行く子どもたちも、すべて検問所と鉄条網を経なければならない。

最近は、新型コロナウイルス対策のため、国境警備がより厳しくなっている。在韓米軍のエイブラムス司令官は昨年9月、北朝鮮当局が中朝国境から1~2キロ離れた地帯に特殊部隊を派遣し、無断で近づく人間を射殺する命令を出したと明らかにした。

粗末な軍の詰め所にもスローガンは必ず掲げられている=姜東完教授提供

そして、人々は頭の中も監視される。どこに行っても、政治スローガンから逃れられない。人々を監視する役割も担う軍の粗末な詰め所には、木の枠で作った、朝鮮労働党機関紙、労働新聞の閲覧版がつくられていた。粗末な貨物船、軍の詰め所、アパート、学校、ありとあらゆる場所にスローガンは掲げられている。電気がなくて、夜になれば闇に包まれる北朝鮮でも、巨大な政治スローガンのほか、金日成主席や金正日総書記をたたえる建造物には照明が当てられる。

スローガンやモザイク壁画だけが浮かび上がった夜の北朝鮮の集落=姜東完教授提供

人々は毎週土曜日に職場や地区ごとに行われる「生活総和」と呼ばれる自己反省や政治学習を行う機会や、労働党が主催する講演会などで、こうした考えを改めてたたき込まれる。たたき込めない人間は、生活総和の場所で批判され、ひどい場合は処罰されることになる。

欧米のNGOは、北朝鮮の管理所と呼ばれる政治犯収容所に10万人以上の市民が収容されていると批判する。人口2500万人と言われる北朝鮮の人々は、政治犯収容所の外でも自由に息を吸うことを許されていないのだ。