菅義偉首相とバイデン米大統領との首脳会談が終わった。本コラムでしばしば登場している対中強硬派の米海軍・海兵隊関係者たちは、今回の日米首脳の"対面"会談には、さほど期待は寄せていなかった。これまでの日米首脳会談どおりに、日本の為政者がワシントンDCを詣でて、日米同盟の「強固さ」を確認して胸をなで下ろす、というパターンが繰り返されるに違いない、と考えていたからだ。
結局、残念ながら予想どおり、日米首脳会談はこれまでどおりの「Do you love me?」を再び確認する作業に終わってしまった、と対中強硬派の米軍人たちはうんざりしている。
ただし、それよりもさらに大きな問題があったという。今回の首脳会談でバイデン政権が、「失態をさらした」と激怒している、というのだ。
バイデン政権は、NATOの同盟諸国や日本をはじめとするアジアの同盟・友好諸国を結集して対中包囲網を構築する姿勢を示している。しかしながら、バイデン大統領が初めて自ら対面で迎えることになった今回の日本の首相に対する接遇姿勢には、大統領が外国元首をホワイトハウスに招待する際のプロトコル(外交儀礼)に精通している人々から、同盟国に対する公式外交においては失態といわざるを得ない場面が少なくなかった、との指摘があがっている。米軍関係者も、この点を問題視している。
第一に、菅首相がホワイトハウスに到着した際、公式の歓迎手順が省略されてしまった。これに対して、米軍関係者からは、「本来であれば、同盟国の首脳が訪問した際にはホワイトハウスの玄関先にレッドカーペットを敷いて大統領自身が出迎えあいさつをかわすべきではないか。これが中国包囲網の鍵となる同盟国に対する姿勢なのか?と疑問符をつけざるを得ない」との声があがっている。
また、菅首相がハリス副大統領と会談した際の共同スピーチで、ハリス副大統領が真っ先にインディアナ州の銃乱射事件について話したことに対しても、同盟国に対して失礼な態度であるとの批判が出ている。なぜならば、外国からの来客それも同盟国の首相を横にして、相手国と無関係の国内問題を論ずるのはおきて破りであり、相手国を軽んじているとみなされるからである。
そして、菅首相とバイデン大統領の二人だけの貴重な対面会談に際して、アメリカ側がハンバーガーでもてなしたことは、外交専門家だけでなく軍関係者からも驚きを持って受け止められている。菅首相は会談後、記者団に対して、「(食事に)まったく手をつけないで終わってしまったというぐらい熱中した」と振り返り、バイデン大統領と信頼関係を構築できたと強調した。だが、「公式の首脳会談に手づかみでかぶりついて食するハンバーガーとは、日本を馬鹿にしているとしか思えない」というのが、外交に携わった経験も豊富な軍関係者の率直な感想である。
それほどまでにアメリカが同盟国に対してぞんざいな「もてなし」をしたことで、バイデン政権は日本や同盟諸国に対して不安の種を植え付けてしまった、と軍関係者は受け止めている。
中国が南シナ海や東シナ海に対して覇権主義的な進出行動をますます強める中、今回の日米首脳会談では、日米同盟を強化する方策に関して、「どのような分野において」、「どのようにして」、「いつまでに」といった具体的な内容を共同声明などでどこまで盛り込むことができるかが、米軍関係者の間では関心の的となっていた。しかし、こうした点において、両国にとって意味のある内容が共同声明に付加されることはなかった。
対中強硬派の米軍関係者の間では、アメリカは今後、本気で尖閣問題で日本側の主張を支持する気があるのならば、従来のような日本による施政権だけではなく、日本による領有権の主張を支持する、といった積極的な立場を示す必要がある、との考えが出ている。いくら第三国間の領有権紛争には介入しないということがアメリカの伝統的な外交方針だとはいっても、バイデン政権自身が、中国による既存の国際海洋法秩序への挑戦に反対し、同盟国との関係を重視すると公言している以上、これまでのアメリカの外交姿勢に修正を加えなければならない事態に直面しているからだ。
一方、日本側も、真に日米同盟を強化する気があるのならば、アメリカに頼るだけではなく、自らの防衛能力を強化する具体的方針を明示すべきだ、との声が米軍関係者の中にはある。すなわち、日本を取り巻く軍事環境から判断するならば、国際的に見ても極端に低く抑え込まれている国防費を、少なくとも国際社会の平均レベルであるGDP2%まで増額する方針を表明する必要があるという。
以上のような具体的な日米同盟の強化策がとられない限り、外交的には百戦錬磨の中国共産党政府と渡り合うことは今後ますます難しくなるのではないだろうか。