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「キャンセル・カルチャー」が燃えさかるアメリカ いま何が起きているのか

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米ワシントンで4月20日、上院司法委員会の公聴会に出席した共和党のジョシュ・ホーリー米上院議員=ロイター。2020年の米大統領選で不正投票があったと主張し、米連邦議会議事堂での暴動をあおったとして多くの批判を受けた

The tragedy of “cancel culture”

「キャンセル・カルチャー」という悲劇

3月14日付 ブラウン・デイリー・ヘラルド紙

2003年、アメリカがイラク戦争をはじめる数日前、アメリカの人気カントリーミュージックグループであるDixie Chicksに所属するメンバーの一人はパフォーマンスの最中に、イラク進軍計画と当時の大統領であるジョージ・W・ブッシュを批判した。カントリーミュージックのファンには共和党支持者が多く、イラク進軍を支持していた。そのためbacklash(反感)も大きく、多くのラジオ局は同グループの音楽を流さなくなり、彼女らは殺害の脅迫まで受けた。その結果、コンサートチケットを始めとしたグループの売り上げは大きな打撃を受けた。

当時、cancel cultureという言葉は存在しなかったが、この現象を説明するのには非常に良い例である。著名人の行動や発言に対して大衆(あるいはその一部)から強い反発が起きて、不買運動や起用の取り消しを呼びかける声が上がるのである。日本語で言う「炎上」と似ているが、その意味の中には、その人が公的な職や立場から辞任するように求めることが含まれている。有名人が麻薬を使ったことがわかると、その後の芸能活動が停止させられると共に、過去に販売した商品も撤去や販売自粛の対象になるという日本独特の現象が思い出されよう。その現象とキャンセル・カルチャーの違いは、後者の場合、大衆の声が原動力になっているということだ。一方、日本の麻薬使用者への懲罰を与えるのは、音楽や映画、テレビコンテンツを作る企業であって、大衆からの要求に対する答えではない。

近年のキャンセル・カルチャーと呼ばれる事案の中には、女性や少数民族、同性愛者に対して偏見に基づく差別的な行動や発言をした人が批判を受けて、キャリアに大きなダメージを受けた例も多い。例えば、コメディアンのロザンヌ・バーが黒人に対する差別を含むツイートをして、出演する人気番組が放送中止になった。また、枕メーカー「My Pillow」の最高経営責任者マイク・リンデルが2020年の米大統領選挙の結果を疑い、1月にトランプ氏に軍の発動をほのめかす内容が書かれた資料を手にしてホワイトハウスを訪問したと報道された際には、不買運動が起こり、複数の大手小売店が商品を売らないことを決めた。スター・ウォーズシリーズの米人気ドラマ「マンダロリアン」に出演していたジーナ・カラーノがインスタグラムでホロコースト(ユダヤ人大虐殺)に関して不適切な投稿をした際には、強い反発が起こってルーカスフィルム社は彼女を解雇した。

たった一度の誤りで将来が台無しになるというのは厳しすぎるのではないか、という議論も存在する。人を「cancel(抹消)」するよりも、理解と教育を提供するべきだ、とこの記事を書いたブラウン大学の学生は主張している。

しかし、そのような思慮深い議論をするよりも前に、キャンセル・カルチャーは政争の道具になってしまった。先程述べたような事例は年々増えて、概してその対象は共和党支持者となっている。そのため同党は最近、「キャンセル・カルチャー」をキーワードとして利用し、リベラル派への批判を行っている。例えば、去年の共和党全国大会で可決された決議文では、キャンセル・カルチャーが「歴史を削除し、法律違反を奨励し、市民の発言や思想の自由を抑圧する」恐れがあると主張した。

一方、キャンセル・カルチャーには問題はないと考える人々は、これらはaccountability(説明責任)や法律に基づくrepercussions(影響)であり、世論と自由市場の結果であると主張する。ハラスメントや差別的発言のために人が解雇されるのは職場が正しい反応を示しただけであり、セレブがSNSに投稿したことでファンやスポンサーを失うのは世論の反応を踏まえた当然の帰結だという。そして、会社が本の出版を差し止めたり、不買運動が起きたりするのは自由市場に基づく正統な流れであるという考え方だ。

この記事は説明責任の欠如がキャンセル・カルチャーの中心にあることを指摘している。「キャンセル」される割合が高いような、お金と権力を持つセレブたちがmisdeeds(悪行)を働いたとしても、実際に法的、政治的あるいは経済的な懲罰を受けることは非常にまれである。そのため「キャンセル」を達成したい人々は自分たちのうっぷんをぶつけると共に、正義のany semblance of(ようなもの)を行使できる唯一の手段としてキャンセル・カルチャーを捉えている。

しかし実際問題として、キャンセル・カルチャーによってできることは限られる。また、場合によっては「キャンセル」されると、副作用として社会的に抹消された人に注目が集まり、結果的にキャンセルへの反発が出ることで、かえってその人の成功をbolster(助長する)こともある。例えば、今年カントリー音楽の歌手モーガン・ウォーレンがracial slur(特定の人種に対する侮辱的な発言)を行った際、ラジオ局は彼の歌を流さず、ストリーミングサービスも彼の歌をプレーリストから削除した。そして、レコードレーベルからは契約も打ち切られた。しかし、その後の数週間のうちに、彼のアルバムが数千枚販売され、彼の名を一躍有名にした。

キャンセル・カルチャーの最大の悪影響は自分のメンツを失うことだが、shameless(恥を知らない)人であれば何をしてもrepentance(後悔)することはない。例えば、ジョシュ・ホーリー上院議員は2020年の大統領選挙の結果に関して不信をあおり、翌21年1月に米連邦議会議事堂で暴動を起こしたmob(暴徒)を扇動した結果、widespread condemnation(多くの非難)を受けた。彼の本拠地であるミズーリ州の大手新聞2社が彼の辞職を呼びかけ、彼の政治家としての助言者は、彼を育てたことが「自分の最大の誤り」と発言した。しかし、いまだ議員として居座り、その力と注目度を保っている。

このように、キャンセル・カルチャーの効果は限定的だとしても、共和党がこの文化の批判をpolitical platform(政治的綱領)のtenet(信条)にしていることはdisingenuous(不誠実)であり、その結果、キャンセル・カルチャーの本当の課題について議論できなくしてしまったと結論づけている。

私は、キャンセル・カルチャーについて書かれた文章を見ても、本質的な討論ではなく、政治についての文句ばかりだろうと推測してしまうので、読まないようにしている。そして、そのように感じている人は多いのではないかとも思う。もしかすると、それ自体がこの言葉を武器にした共和党の狙いだったのかもしれない。