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台湾有事は「対岸の火事」ではない 日本がアメリカに求められる「責任の分担」

揺れる世界 日本の針路
海自護衛艦「かが」の甲板で記者会見する山崎幸二・統合幕僚長(中央左)とシュナイダー・在日米軍司令官(同右)=2020年10月26日、四国沖、西畑志朗撮影

この図上演習は米国を想定したブルーチームと、中国を想定したレッドチームに分かれて行われた。元米国防次官補代理で、演習に協力している米シンクタンク、ランド研究所のデビッド・オクメネク研究員は、NBCに対して「台湾の空軍は数分間で全滅し、太平洋地域の米空軍基地が攻撃を受け、米国の戦艦と戦闘機は中国の長距離ミサイルに阻止される」と説明。「ブルーチームが断固として介入した場合も、(レッドチームの)侵攻を退けるとは限らない」とも語った。

オクメネク氏は朝日新聞の取材にも「中国の軍事ドクトリンは、紛争の早い段階で台湾の空軍基地やその他の標的を攻撃すると想定している。米軍は台湾防衛を支援するために迅速に対応する姿勢をとらなければならない」と語る。

ランド研究所のデビッド・オクメネク研究員(本人提供)

CRSは3月9日付の報告書で米中両海軍の保有艦艇を比較した。複数の資料から三通りの比較を行ったが、最も中国に有利なデータでは、2020年時点で米軍の297隻に対し、中国軍は360隻に上った。このデータでは、中国軍艦艇数は30年には425隻に達すると予測している。
日本の軍事専門家の1人は「大西洋に配備した米艦隊を除けば、更に差は広がる。西太平洋での米中の軍事バランスは逆転しているとみて良い」と語る。

オクメネク氏も「急速で広範囲に及ぶ中国軍の近代化は、西太平洋の軍事バランスを侵食している」と認める。そのうえで「米国国防総省もこの状況を認識している。特にインド太平洋における米軍の能力、態勢、運用概念における変革の加速化を最優先事項にしている」と語る。
では、米軍は西太平洋での戦力展開をどう改めようとしているのか。

海上自衛隊呉地方総監を務めた池田徳宏元海将は1月、米海軍の現役とOBらが参加するオンライン協議に参加した。そこでは、1970年代まで米海軍がインド太平洋で運用した第1艦隊の復活が話題になった。従来ある「欧州抑止戦略(EDI)」に加え、太平洋抑止戦略も必要だという議論になったという。

池田氏は「米国の目的は対中軍事バランスを維持することだ。米海軍もズムウォルト級ステルス駆逐艦のような大型艦から、より小型の艦に切り替えて隻数を増やそうとしている」と説明する。

そのうえで、池田氏は「米国では当然、こうした動きに日本をどう組み込むかという議論が始まっているはずだ」と語る。具体的な例として「米国は現在、中国を射程に捉えた陸上発射型の中距離ミサイルを持っていない。(南西諸島からフィリピンの西側に向かって伸びる)第1列島線沿いに配備したいという話も予想される。海自艦の隻数を増やし、能力の強化も希望するだろう」と予想する。池田氏は「日米2プラス2(外務防衛閣僚協議)でも、この話は出ているはずだ。菅義偉首相は16日の日米首脳会談で厳しい判断を迫られるはずだ」とも語る。

池田徳宏元海将(本人提供)

一方、海上自衛隊を巡る状況は厳しい。その象徴とされるのが、3月3日に命名・進水式を行った海自の新型護衛艦「FFM」1番艦「もがみ」だ。

FFMは、フリゲート艦クラス(FF)で、機雷戦(M)にも対応できるという意味だ。基準排水量は3900トンだが、「船体のコンパクト化」を掲げ、フリゲート艦にはない機雷敷設や機雷掃海の機能も持たせた。将来的には、海自が保有を許された護衛艦54隻中、22隻がFFMになる予定だ。

FFMの特徴は、廉価で省人化を図っている点だ。FFMの価格は、約729億円かかった直近の「あさひ」型護衛艦よりも、約250億円安くなっている。イージス艦が4基、「あさひ」型が2基搭載しているガスタービンエンジンは1基だけだ。搭乗員も「あさひ」型が150~160人なのに対し、FFMは約90人で運用する。

海上自衛隊の新型護衛艦(FFM)2番艦「くまの」=朝日新聞社撮影

池田氏によれば、海自OBの間ではFFMに疑問の声を投げかける声も少なくなかった。「船体が小さく、装備も必要に応じて付け替えるのに、フリゲート艦クラスが通常やらない機雷戦までやらせるとはどういうことか」という内容だったという。

池田氏はFFMが登場した背景について「日本を取り巻く安全保障環境の激変が生み出した」と語る。海上自衛隊は今、イージス艦によるミサイル防衛や尖閣諸島周辺を含む東シナ海、南シナ海などでの警戒任務などで忙殺されている。

中国艦隊の活動が活発化し、南西諸島を通過した回数が10回を超えた2012年、相手の動きに合わせて停泊地から緊急出港する受動的警戒監視から、数隻の護衛艦があらかじめ決められた期間、東シナ海で行動する能動的警戒任務に変わった。逆に、津軽海峡や対馬海峡などで警戒監視活動を行う艦が足りなくなり、護衛艦以外の艦や哨戒機で埋め合わせる事態にもなっていた。

池田氏は「FFMは平時からグレーゾーンと呼ばれる事態に至るまでの情報収集や警戒監視の任務を行う。島嶼部が攻撃されたら、機雷戦などを担当するという幅広い活動が期待されている」と説明。「FFMを多数建造すれば、イージス艦などの運用に余裕ができ、艦隊決戦などに備えた訓練を重ねることができる」と語る。2018年の防衛計画の大綱では、哨戒艦12隻が新たに主要装備と位置づけられた。

副大統領時代の2011年に訪中したバイデン氏と、中国国家副主席としてバイデン氏を迎えた習近平氏=北京の人民大会堂、朝日新聞社撮影

こうしたなか、米国のバイデン大統領は3月3日に発表した、安全保障政策をめぐる「暫定戦略指針」のなかで「responsibility sharing(責任の分担)」という言葉を使った。オクメネク氏も「米国の同盟と安全保障パートナーシップの強化は、抑止力強化の重要な要素だ」と説明。「台湾を巡る危機や紛争が起きた場合、米軍による日本の基地からの偵察、給油、物流支援などの作戦が重要になる。日本の自衛隊が日本の空域や海域を中国の侵略から効果的に守ることも重要だ」と語る。

そしてオクメネク氏は「台湾危機の場合、中国が近隣諸国を脅かし、台湾支援を拒むよう要求してくると予想すべきだ。戦争に至った場合、米軍が台湾防衛のために日本の基地を使えば、中国がそれらの基地への攻撃を選択する可能性がある。飛行中に中国の攻撃に遭遇した台湾の戦闘機が日本の基地に着陸しようとする可能性もある」と指摘する。

池田氏も「台湾有事には関与せざるをえないだろう。日米で台湾有事への対応を考えるべきだ」と語る。その理由として「日本のシーレーンが脅威を受けるし、中国の潜水艦が台湾から出撃できるようになれば、太平洋に簡単に進出できるようになるからだ」と説明する。

ただ、同時に「ミサイルなどを使う熱戦というより、サイバーや宇宙を使った争いになる可能性が高いだろう。GPSを混乱させて交通をまひさせることもできるし、サイバーで株価を乱高下させるかもしれない。こうしたハイブリッド戦争への備えが重要だ」と語った。