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毎年百万人以上が命を落とす、もう一つの感染症 「世界結核デー」に考えてみたいこと

国境なき感染症 私たちの物語
コロナ禍で結核対策支援を行うコミュニティ・ヘルス・ボランティア。ケニア・ナイロビで(The Global Fund / Michael Ilako)

■新型コロナパンデミックの影響、結核にも

グローバルファンドのピーター・サンズ事務局長(The Global Fund / Vincent Becker)

2020年、私たちはリアルタイムで「空気を介して広がるパンデミック」の致命的な脅威を目の当たりにしました。わずか1年で260万人以上の人々が新型コロナウイルス感染症により亡くなりました。しかし、世界中の最も貧しく脆弱なコミュニティでは、もうひとつの「空気を介して広がるパンデミック」である結核により、何千年もの間、おびただしい数の人々が亡くなっています。そして、新型コロナウイルス感染症の蔓延により、この状況は悪化しています。(結核は空気感染するが、新型コロナはいわゆる「3密」空間の感染リスクが高いとされている) 

新型コロナウイルス感染症の世界的な蔓延により、医療従事者、検査機器、研究所、保健センターは、結核などの従来の感染症から新たなパンデミックの対応に転用されました。グローバルファンドによる調査の速報データは、こうした資源不足がもたらす致命的な影響を明らかにしています。2020年に結核の高負担国13カ国では、2019年と比べて結核の検査を受ける人が29%減少しました。さらに、これらの高負担国では、抗菌剤耐性の最も恐ろしい形態の1つである多剤耐性結核の検査を受けた人が45%も減少しています。

■新型コロナでできたこと、結核にも適用できる

コロナ禍の病院で患者に対応する看護師。セネガル・ユンブルで(The Global Fund)

しかし、希望もあります。パンデミックの発生と同時に、グローバルファンドは、新型コロナウイルスによるエイズ、結核、マラリアの各プログラムに対するマイナスの影響を食い止め、保健システムを強化するために、約10億米ドルを投入しました。早期段階ではありますが、このような迅速な対応により、死亡者や患者が急増するという最悪のシナリオを回避することができたようです。例えば、パンデミック発生から最初の数ヶ月間、インドとバングラデシュでは結核の検査数が急落しましたが、2020年末には回復し、パンデミック前とほぼ同数の結核患者を検査・治療できるようになりました。適切なリーダーシップと資金があれば、結核との闘いの進展を守ることは可能です。

また新型コロナウイルスをきっかけに、より革新的で、結核と闘うための新たなアプローチが加速されました。治療を確実に継続し訪問回数を減らせるために、結核患者に1〜2ヵ月分の結核薬が一度に提供されるようになりました。服薬管理においては、これまで診療所で毎日患者の服薬を確認する必要がありましたが、新しいスマートフォンアプリにより、患者の治療経過や副作用をバーチャルで報告できるようになりました。これにより、服薬遵守が向上し、より多くの結核患者に対応できるようになり、結核流行の終息に向け加速することができます。

新型コロナウイルス感染症は、2つの感染症と同時に、より効果的に闘い、将来の「空気を介して広がるパンデミック」に備える機会をもたらしています。グローバルファンドのパートナーシップにより結核対策のために構築されたツールは、新型コロナウイルス感染症対策にも活用されています。コミュニティ・ヘルスワーカーは検査、追跡、隔離を行い、二次感染を防ぎ、コミュニティグループが重要な予防情報を共有し、人々を感染から守り、研究所や保健センターには、すでに結核と新型コロナウイルス感染症の両方を検査するために必要な検査機器が備わり、トレーニングが行われています。

喀痰中の結核菌の有無を確認できる検査機器GeneXpertを移動式検査車両内で操作する検査員(The Global Fund / Vincent Becker)

インドでは、新型コロナウイルス感染症と結核の検査を同時に行うという新たなプログラムが導入され、世界をリードしています。新型コロナウイルス感染症と結核は症状が似ているため、このプログラムで両疾患の感染を同時に防ぎ、結核患者の治療と治癒を確実に行うことができます。

さらに重要なことは、新型コロナウイルス感染症対策を通じて、世界各国が共通の敵に対して団結し、闘うための資源を提供したときに、何が可能になるかを教えてくれました。新型コロナウイルスの迅速抗体検査とワクチンは1年足らずで開発され、新型コロナウイルス感染に関するリアルタイムのデータにより、各国は迅速に対応し、感染拡大の抑制を図っています。それに比べて、結核はいまだに有効なワクチンがなく、検査は高額で研究室内で行わなければならず、世界の結核コミュニティは、毎日のデータ報告ではなく、1年ごとの統計が共有されるまで18カ月も待たなければなりません。

結核対策のコミュニティ・ワーカーが集めた喀痰サンプルを集荷する運転手。ナイジェリア・ラゴス州アコワンジョ地方・アリモショで(The Global Fund / Andrew Esiebo)

新型コロナウイルス感染症対策でできたことは、結核対策においても実現できるはずであり、そうしなければはなりません。そうしなければ、この新型コロナウイルスというパンデミックを克服した後も、また別の新たなパンデミックによって多くの患者が発生し、多くが命を落とすことになりかねません。パンデミック前でさえ、毎年1,000万人の結核患者のうち、検査・治療を受けているのは710万人に過ぎませんでした。その結果、290万人の「行方不明」の結核患者が治療を受けずに感染を広げたり、命を落としたりしています。結核患者の発見、検査、治療が少なければ少ないほど、結核患者の数は増加し、多剤耐性結核の脅威が世界中に広まる危険が高くなります。

今年の世界結核デーにあたり、私たちは結核と新型コロナウイルス感染症の両者と闘った経験から学ばなければなりません。世界の保健システムを強化し、資源を結集し、両疾患と闘い将来のパンデミックに備え、全ての人々のために世界の健康安全保障を強化しなければなりません。