読み聞かせの会は、国際交流基金ニューデリー日本文化センターがオンラインで開いた。インドでは、コロナウイルスの影響でまだ再開していない学校があるため、インド北部を中心に数百人の子どもたちは自宅などで、画面越しに聴き入った。
朗読した絵本は4冊。いずれの作品も、大切な存在を突然、なくしてしまう悲しみを描く。
お母さんを亡くした子どもたちが、愛情の深さに改めて気がつく「かあさんのこもりうた」のほか、会えなくなった人に思いを伝える岩手県大槌町の「風の電話ボックス」をテーマにした「かぜのでんわ」。息子を失ったお母さんによって書かれた「ハナミズキのみち」、亡くなった人たちが残された人のために、海から贈り物を届ける「月の貝」。インドの公用語ヒンディー語に翻訳し、インド人の語り手が朗読した。
朗読後、子どもたちは、日本人に「身近な人で犠牲になった人はいますか」「ハナミズキの花はどこで咲いていますか」などと質問していた。
企画した国際交流基金の石丸葵さん(29)は学生時代から、定期的に宮城県気仙沼市に通い、がれきの片付けや被災者の話を聞くボランティアを続けてきた。インドに赴任し、現地に行けなくなってから、自分にできることは何かを考えてきたという。
「絵本は記憶に残りやすいものだと思います。『震災を忘れないで』と押しつけてしまうのではなく、大人になってもこんな話があったなと思い出し、心に残っていてくれれば」
絵本を日本語からヒンディー語に翻訳したのは、インド在住29年で、福島市出身の菊池智子さん(50)。震災当時はインドにいて、福島にいる家族の無事を祈るしかなかった。大切な人を失うかもしれない不安から、幸せは日常にあると気づいたという。
菊池さんは言う。
「いま生きていることは当たり前なのではない。絵本が日常の大切さに気づくきっかけになってくれれば、うれしいです」
絵本の中では、亡くなった人たちは残された人たちに「悲しまないで」というメッセージを送る。
「亡くなった人たちが『悲しまないで』というのは、残された人が亡くなった人を思い返すたびに、その存在は家族の心に生きているからだと思います。亡くなっても、その存在は絵本になって生きかえり、そして読んだ子どもたちの心にも、生きかえるのではないでしょうか」