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presented by 独立行政法人国際協力機構(JICA)

藤原しおり(元ブルゾンちえみ)さんと語る「災害をあらゆる視点で自分事として考え、備えること」

Sponsored by 独立行政法人国際協力機構(JICA) 公開日:
元「ブルゾンちえみ」として活動し、現在はポートフォリオワーカーとして活躍する藤原しおりさん

備えることに油断していた―「災害が起こったとき」を想定して、それをシェアする仕組みが必要

藤原しおり(以下、藤原): 2018年の西日本豪雨のとき、まさかあのような大災害になるとは思っていませんでした。それまで岡山は、災害が本当に起きないところでした。地域によって多少異なりますが、豪雪や大雨で困るイメージがなかったんですね。だから、災害が起きたときにどう対応すればいいのか、備えについて油断していたところがありました。実際、母親から届いたLINE(ライン)も「雨が降り止まない」「裏の川がいっぱいになってきた」という、穏やかな内容だったんです。

杉田樹彦(以下、杉田):事前に想定していなかったことに対して、緊急時に十分な対応を取ることは誰にとってもなかなか難しいものですよね。私は途上国で災害が起きた後の復興事業に多く携わっていますが、被災した方々はショックも大きいですし、海外から支援が届いたとしても、すぐに復興に取り組もうとする気持ちになれないことも多いのです。だから災害が起こる前に、どれぐらい次の災害に備えてイメージを持つことができるか、という点は大切で、そのための防災計画の作成や訓練も進めます。「起こったとき」のことを事前に想定し、それをみんながシェアする形での仕組み作りは大事です。

藤原:岡山の豪雨では、発生から1カ月後ぐらいにようやく時間ができてボランティアに行きました。水はひいて、山場は越えていたのですが、がれき処理など、やらなくてはならないことが山積みでした。災害は「まぁ、自分は大丈夫だろう」と他人事にしがちですけど、その考え方も変えていかなければと思うんです。いつでも、誰でも災害に遭う可能性があるという意識を持ち、備えるようにしなければと考えさせられました。

スリランカで紛争後の復興支援について、何が必要とされているか地域住民と話し合う杉田さん(右端)。紛争により地域の公民館は破壊されていたので、屋外で車座になって協議した

被災者に寄り添い、一緒に何ができるかを考える姿勢で

藤原:被災した同級生の話を聞くと、特に小さな子どもがいる友人はミルクやおむつ、トイレットペーパーなどの日用品がなくなるのではないかという不安に駆られていたようです。「支援物資があるので、焦らないでください」と言ってくださる方がいらっしゃったら、それだけでもだいぶ気持ちが楽になるのではないかと思いました。何かを進めていくなかで、そうした一人ひとりの感情は見落とされがちなので、目に見えない心のケアはとても大切だと思います。

杉田:藤原さんがおっしゃった「心のケア」というのは重要なご指摘です。JICAは11年の東日本大震災のときに日本でできることを考えようと「東日本大震災復興支援室」を立ち上げ、私もそのスタッフの一人になりました。そのときに印象的だったのが、被災者の方々が集まる体育館で、皆さんに足湯につかってもらい、手を揉(も)みほぐしてあげながら、話を聞いたことです。復旧や復興を進めるなかでいろいろな人の声をどうしたら聞けるのか、と考えて、こうした「足湯での傾聴」といわれる活動に参加したのです。リラックスした雰囲気で「今日は何を食べました? 最近運動していますか?」といった世間話をしていると、緊張感もほぐれて少しずついまの気持ちや本音を語ってくれることがありました。表になかなか出てこない被災者が抱えている気持ちの部分も、しっかり受け取って行動に移していくことをあらためて学んだ気がしました。

藤原:私の場合、岡山で初めて被災地と呼ばれるところを訪れたので、現地の人たちがどのような気持ちになっているのか、事前にはなかなかわからずに悩みました。でも、私が訪れたときには「もうこうなったからにはしょうがない。踏ん張っていきましょう」という前向きなムードになっていて、驚きました。岡山では、逆に私のほうが元気になって、何か一緒に頑張っていきたいと思えたんです。

杉田:藤原さんが思われたように「被災者だからかわいそう」「大変な目に遭っているから何とかしてあげなければいけない」といった私たちの思い込みは確かにあります。被災者を被災者としての枠に留めて、自分たちが立ち直ろうとする動きを止めるようなことがあってはいけないと思います。立ち直ろうとするところで、一緒に何ができるかを考えていくことが大事ですね。

災害からの復興の過程は大きく三つの段階があって、72時間以内を目指した人命救助、負傷した人のケアや必要な生活物資を供給する「緊急」、がれきの除去やインフラの復旧、経済社会活動の再開を進める「復旧・復興」、そして再開が一段落し、新たに向かう「発展」です。緊急支援の段階は、ニュースで大きく取り上げられて、資金やボランティア活動の支援が多く集中します。大事なのは、緊急支援で留まることなく復旧・復興支援も切れ目なく丁寧に行い、それぞれの段階での被災者のニーズに応え、復興を促進していくことです。復興が完了する前に次の自然災害に遭ってしまい、経済的な発展を阻害されている国がまだまだあります。災害後に誰一人取り残されることがないように復興を進め、次の災害に強い社会を作るという取り組みを日本は途上国で続けています。

JICA職員の杉田樹彦さん

「男性だから」「女性だから」――そんな固定観念に縛られない防災・復興が必要

藤原:コロナ禍という状況下も、いろいろなことを自分事として考えられるようになったと思うんです。

杉田:そうですね。コロナ禍は、世界でみんなが同じ経験をしていますよね。これまではどこか遠い国の経験をニュースで聞いて想像しながら共感していました。今度はみんなが同じようにロックダウンをして、いろんな制限を受けていて。これはすごく特異なことで、いろいろな方の思いに気づける経験をしていると感じています。

藤原:これまで防災のことも他人事だったけれど、こういう状況下になったときにはどうすれば良いのだろうと考える癖がつきました。一人暮らしで新型コロナウイルスに感染したら、と考えるのと同じように、いま地震などの災害が起きたら、と考えるようになりました。もしものとき、どうするか。いまだからこそ響くようになったんです。

杉田: この経験を通じて、より人に優しくなれるきっかけにもなると思いますし、社会全体で何ができるか、みんなが考えるようになる雰囲気が強くなっていると思っています。

藤原:岡山で被災した友人に「女性ならではの困りごとはあった?」と聞くと、「子どもを見てくれる人がいないから、その間に復旧や片付けの作業ができなかった」と話してくれました。目に見えるところだけではなく、例えば男性や女性といったそれぞれの立場から、普段は気づかない価値観や進め方の違いなどもあるのではないでしょうか。何かを一緒にしたり、進めたりしなければならないときには、考え方の違いを認め、理解し合うことが大事なのではないかと感じました。

ブルゾンちえみとして活動をしていたとき、「あー、女に生まれて良かった!」という言葉で反響を呼んだのですが、私自身、そのときは特にジェンダーを意識していなかったんです。ただ、ジェンダー観を感じると言われることが多かったので、自分なりに考えると、多くの女性が現状に対して何かしら不満を持っていたから支持されたのかもしれません。

杉田:いまのお話で興味深かったのは、やはり私たちは、「男性だから」「女性だから」という固定観念に縛られがちだということです。災害現場でも、ご飯の炊き出しを女性にお願いするとか。被災地の復興支援として被災者が収入を得るためのサポート活動として、女性には編み物やアクセサリー作りの訓練をするとか。復興事業ではいろんな活動が行われるわけですが、例えば住宅再建のための職業訓練に対して、男性に限らず女性も入ってもらうことなども大事だと思います。

このようなことが、いざというときにできるようにするためには、女性や、脆弱(ぜいじゃく)な立場に置かれる可能性が高い障害者なども含めて、災害の起きる前から防災計画づくりに関わり、議論しておくことが必要です。想定していなかったことをいきなり行うというのは、なかなか難しいです。ジェンダーなどさまざまな差異を考慮しながら復興支援に取り組みましょう、といきなり言っても、どうやっていいか、どこから手をつけていいのかわかりません。復興や防災計画づくりの過程に女性の参画を意識する機会はまだ少ないのが現実ですが、女性が参加し、議論していくことで、より多様な方々の声も反映しやすくなるかもしれません。JICAは途上国で災害が起きたら、「緊急」「復旧・復興」「発展」というそれぞれの協力の段階で、さまざまな人の視点や意見を反映できるように取り組んでいます。また、必要な協力を検討する調査の段階から、ジェンダーの専門家に加わってもらうことがあります。

災害に見舞われた後こそ、「まち」や社会を守るために何が必要なのか、住む人たちが普段から平等な関係で参加して考えていく必要があります。藤原さんのように被災地を心配してくれる外からの支援をうまく受け入れることができるような、日頃からの信頼関係を築いておくことも大事なことだと思っています。