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氷上の金メダリスト、レーサーになっていた 清水宏保、ほとばしるクルマ愛

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清水宏保さん

モータースポーツの魅力はやっぱりスピードだ。清水さんは、なぜレースに舞台を移してスピードを追い求めているのか。北海道に清水さんを訪ねると、笑顔でこう説明してくれた。「非日常的なスピードを自分でコントロールする楽しさ。その独特の世界観から抜け出せなくて、今は車のレースで感じています」

清水さんによると、スピードスケートの醍醐(だいご)味は、体感で時速220キロのコーナリング。スタートから一気に時速60キロ台に加速し、交差点のような急カーブを曲がる。ハンドルもブレーキもなく、頼れるのは足裏にある細いブレード(刃)だけ。すさまじい恐怖と同時に、しびれるような楽しさを感じる瞬間だという。

スピードスケート時代の清水宏保さん。低い姿勢からの「ロケットスタート」が得意だった=2001年、溝脇正撮影

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スケートを引退後、同じ景色を見せてくれたのがモータースポーツだった。

清水さんは低い姿勢から飛び出す「ロケットスタート」を武器に、世界記録を4度も更新した。その姿は、車高を下げて四輪で踏ん張るように走るレーシングカーに似ている気もする。本人も「やっぱりカメのようにベタッとした車の一体感が格好いいですね」と笑う。

子どもの頃から球技や格闘技より、スピード感のある、時間と闘う競技に引かれた。自らの足で走るのも、スピード感が物足りない。スキーも長距離より、山頂から一気に滑り降りるのが好きだ。

しかも、車好きの父の影響で、乗り物で興味があるのは自動車だけ。オートバイや自転車にも心は動かない。

じつは、清水さん愛用のスケートシューズを手がけたのも、東京アールアンドデー(R&D)という自動車の研究開発をする会社。レーシングカーにも使われるカーボン素材の技術を活用した軽量シューズだった。こう考えると、2017年にレースを始めたのは必然だった。

清水宏保さんが運転するトヨタ自動車の「86」のレース車両=2020年11月、ツインリンクもてぎ、川上浩之撮影

初レースは地元十勝のサーキット。トヨタの小型車ヴィッツでのレースだったが、走り出すとスピード感がすごかった。テレビで見るよりコース幅は狭く、壁もすぐ近くに感じる。「コースアウトして車を壊したらどうしよう」と怖かった。

だがレース後は、違う時間を歩き、戻ってきたような不思議な感覚があった。緊張感の中で、「ゾーン」と呼ばれるすごく集中した状態になったのか。もっとレースに出たいと思った。

時間を見つけてはレースを走り、タイムを着実に縮めている。所属チームであるトヨタモビリティ東京監督の武藤義明さん(46)は、「ハンドルやブレーキの操作など、アドバイスした後の再現する力がすごい」と驚く。これが「トップアスリートの力」なのか。かつて取材したトップレーサー、小林可夢偉さんの言葉を思い出した。

運転席に座る清水宏保さんとトヨタモビリティ東京監督の武藤義明さん。トヨタモビリティ東京はトヨタ系販売店で、店のスタッフらをレースやラリーで育成している=2020年11月、ツインリンクもてぎ、川上浩之撮影

まだロケットスタートは決められないけれど、清水さんは「スケートでも高校や大学のころは足が震えて吐きそうなほど緊張した。レースに慣れている段階で、いまは限界が見えない」と、さらなる成長を見据えている。

そもそも清水さんにとって、車は趣味を超えた存在でもある。「車って自分の部屋の次にいる場所じゃないですか。だから、昔からすごく大事にしていました」。大会に出るため、北海道から長野まで車で移動したこともある。オーディオや走りの味を自分好みに仕上げ、試合に向けてテンションを上げていく空間でもあった。

トヨタモビリティ東京のメンバーと話す清水宏保さん(左から2人目)と監督の武藤義明さん(左端)=2020年11月、ツインリンクもてぎ、川上浩之撮影

これまでフェラーリやポルシェなど国内外のスポーツカーやSUVなど、「何台か分からない」というほど乗り継いできたが、いまはヴィッツのスポーツ仕様がお気に入りだ。「マニュアルで乗ると、気持ちいいんですよね。車高が低く、冬は除雪機みたいになるので乗れませんけど……」。ゴルフの行き帰りに山道で、安全運転の範囲内で、シフトアップやシフトダウンの練習もできるという。

ただ、今もトヨタの「86」や日産自動車の「GT-R」など気になる車は多い。「ガソリン車の喜びってエンジンをかけたときの音から始まる」

そんな清水さんの目に、HV(ハイブリッド車)やEVはどう映るのか。「いい車ですけど、生活に完全にマッチングした車ですよね。絶対手に入れるために仕事頑張ろうっていう感覚は、明らかに少なくなるだろうと、今は思います」

清水宏保さん