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【小林可夢偉】カーボンニュートラル時代、モータースポーツの新しい楽しみ方を語ろう

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2020年にトヨタのレース用HVで世界耐久選手権(WEC)のチャンピオンに輝いた小林可夢偉選手=2020年12月18日、益満雄一郎撮影

■ハイブリッドが生む最速

TOYOTA GAZOO Racing. World Endurance Championship. 6 Hours of Spa 12th to 15th August 2020Spa Francorchamps Circuit, Spa, Belgium
TOYOTA GAZOO RacingのTS050 HYBRID=TOYOTA GAZOO Racing提供

ーーハイブリッドには燃費がいい静かな車のイメージがあります。レース用HV「TS050 HYBRID」はなぜ速いのですか。

モーターが車体の前後についた四駆で、後輪にエンジンの約500馬力とモーターの約200馬力、前輪にモーターの約300馬力を伝え、合わせて最大で約1000馬力になります。(トヨタのHV、プリウスは最高出力122馬力)

ハイブリッドのボタンを押しながらアクセルを踏むと、まずバッテリーにある電気を使ってモーターでスタートし、走り出してからエンジンをかけます。こっちの方が加速の効率がいいんですよ。これはブースト(電気のパワー)をキャンセルするボタン。アクセルを踏むとハイブリッドのパワーが自動的に出るようにしているんですが、例えば前に車がいたとき、ブーストをゼロにすると(エンジンの)500馬力だけになり、使いたいときのためにバッテリーをセーブできます。

ーーハイテクなんですね。

超ハイテクマシンです。例えば、コーナーによってセッティングが決まっていて、走行中、自動で変わっていくんですよ。ただ、1周を気持ちよく、この車にあったレベルで走れるよう、ステアリングのボタンを使い、絶えず微調整をしています。

ーー最高時速は350キロに迫ります。それでハンドルもボタンも操作するわけですか。

そうです。あれだけの速い速度で、いろんな判断をするっていうのは、パッと見て、そこから考えて動かすんじゃなくて、現在進行形は何をしないといけないか決めておいて、次に何をするか考えます。前の周はこうだったから、こうしてみようとか。その場だけの集中だと、(判断が遅れて)その整理が常にできない。

■エアロバイクこぎながらの高速テトリス

ーーレーシングドライバーのイメージが変わりそうです。どんなトレーニングをしていますか。

ジムで自転車(エアロバイク)をこぎながら、心拍数140、150ぐらいで(人気ゲームの)テトリスを一番速いのでやります。この速さだと、ブロックが落ち始めてから、どこに置こうとやっても遅い。次に来るブロックを見た瞬間、頭の中でイメージしながら、どこに落としていくかやる。そのときに使う脳の部分が、レースとほぼ一緒だと思っています。

日頃、運転しているときも、できるだけいろんなものを見るんですね。前のトラックが何もない橋の上で、こっちに動いたら、風はこう来てるんだとか。そういう訓練を生活の中に組み込むようにしていますね。

サーキットで、ファンにサインする小林可夢偉選手=2019年10月5日、富士スピードウェイ、中川仁樹撮影

ーー最速テトリスはすごいですね。時速何キロでこいでいるのですか。

気にしていないので分からないです。フィジカル面のトレーニングは、アスリートの中でも、これからまだまだ発展するレベルの人たちが必要な部分。トップ20、30に行くには、それ以上に、フィジカルを最大限どう使うかを考える力が必要になると思います。いくら筋肉を鍛えても、それをどうやって使うかという指示をしっかり出せないとトップにはいけない。

ーー考える力が重要なわけですね。

どのスポーツでもそうですが、フィジカルを鍛えようと思っても、人それぞれ強化が必要な部分やレベルが違う。自分のいいところ、足りないところを分析、理解して、必要な部分をしっかりトレーニングする。そういうマネジメントが一番必要だと思っています。まだ誰も到達していない世界を自分でつくっていかないといけないので。

ーーTS050のマニュアルは百科事典のように分厚く、しかも英語で書かれているとか。読み込む力も必要ですね。

ネットで検索しても出てこないので(笑)。でも、マニュアルは速く走るための必要なツールであって、それを理解して、使いこなせるかは別の話。マニュアル通りに運転しても、ちょっとニュアンスが違ったな、というのがある。だからトライしたときに、自分の中で最終的にどう変化するのかを五感で分析し、自分のマニュアルをつくっていますね。

スーパーフォーミュラで疾走する小林可夢偉選手のマシン=中川仁樹撮影

ーーいろいろなマシンに乗っています。合わせるのは難しくないですか。

走り方もいろいろな引き出しを持っておいて、自分に合う車、もちろん合わない車にもどう乗るか、常につくらないといけない。人間って背骨のラインとか体が違ったりするじゃないですか。ついている筋肉や感じるセンサーの部分が違うと感じる量が変わってきて、ドライバーの乗り方が違いますよね。

ーーサッカーならフォワード向きやディフェンス向きという感じですか。

オールマイティーの選手とかいないじゃないですか。フィジカルが大きい選手はバックが多い。だからこそ、自分を分析して、向き不向きを把握していないと、本来、力を発揮できるところでできなくて、あんまり向いていないところで、無駄に頑張っちゃったりしてっていう風になるから。

ーーTS050の運転は楽しいですか。

めちゃおもしろいです。いろんなツールがあって、走りながら、いろんなものに触って合わせていく。考えながら走るドライバーの方が生きる車かもしれないです。

おそらく才能で速く走れるのは本当にある程度までで、耐久レースとかをやると、そういうマネジメントは必ず必要になってくる。このレベルになると、ドライバーはみんな速くて当たり前。その中で、どうやって差をつけるのかというと、考えて、合わせていくしかない。

■「究極にエコ」なレーシングカー

ポルシェを抜くTS050 HYBRID。耐久レースでは、様々なクラスのマシンが一緒に走る=2019年10月6日、富士スピードウェイ、中川仁樹撮影

ーーこんな速い車が本当にエコですか。

間違いないです。ブレーキってどの車も使っていて、減速の時に(運動)エネルギーを捨てているんです。(モーターを発電機に使い)それを回生(再利用)して電気に変えてモーターに使う。どれだけ効率よくできるかやってます。

この車がスタートしたときから燃費は50%ぐらい改善し、しかもタイムは速くなっているんです。燃料をゼロにするのは無理じゃないですか。ガソリンを使うっていう意味では、究極にエコになったんじゃないかなと思います。

ーーこのシステムを使ったスーパーカーの発売も期待されています。市販車への技術の応用も大事ですね。

ハイブリッドってモータースポーツがあって、ここまで技術が向上した。全然、車に興味がない人でも、そういう人たちの努力があって(燃費がよくなり)、皆さんが使う懐のお財布が、ちょっとでも潤っているんだよっていうのは、知っておいてもらいたいと思います。

■世界チャンピオンはチームのために

Kamui Kobayashi (JPN)  and Hisatake Murata (JPN) TMG Team President   TOYOTA GAZOO  Racing. World Endurance Championship. 6 Hours of Shanghai15th to 18th Novemer 2018Shanghai International Circuit, China.
村田久武WECチーム代表と話す小林可夢偉選手=2018年11月、James Moy撮影

ーー2020年は世界耐久選手権(WEC)のチャンピオンになりました。気持ちの上で変わったことはありますか。

毎年、毎年、取れそうで取れなかったチームだったんで、まずはTS050の最後の年に取れたっていうのは、メカニックやエンジニアとか、そういう人たちの雰囲気を変えたのがよかったと思います。いつも速くても、だいたいトラブルで(優勝を逃す)、みたいなのが多かったので、そういう人たちが、ちょっとでも自信を持ってやってもらうという意味では、そこが一番よかったと思います。

ーー2021年はマシンが新しいハイパーカー(GR010 HYBRID)に変わります。

実はまだ乗っていない(20年12月時点)ので、そんなに言えることがないんですけど、まずはハイパーカーをどこよりも早く、最初に出しています。将来、プジョーやアウディ、ポルシェが帰ってきますとか、いろんなニュースがあるんですけど、最初に車を出すというのは、ある意味、(性能の)物差しを作っちゃう訳なんです。いろんなことを想定しながら、1年間、まずはしっかり強い車を作ること、プラスアルファで、開発がすごい、いいスピードにもっていくチーム作りとか、いろんな部分の組み立てをやっていかないといけない。他のメーカーが帰ってきたときに、後出しってかなり有利なんですよ。そういう意味では、プレッシャーを感じながら、いろんな想定をして準備しておかないといけないと思っています。

TOYOTA GAZOO Racing. World Endurance Championship Testing 15th to 18th December 2020Autodromo Algarve, Portimao, Portugal
今年から世界耐久選手権(WEC)を走るGR010 HYBRID=TOYOTA GAZOO Racing提供

ーー強敵が戻ってくるのは楽しみですか。

楽しみですね。もちろん、どんなレースになるか分からないですけど、すごい面白いレースになるのは間違いないです。だいたいプジョーとかアウディとか3台、4台態勢でくるわけなんです。そんな台数で集まったら、僕らのカテゴリーは20台から30台ぐらいになるはずなんです。2023年に。たぶん、すごいことになりますよ。

ーー最速の男が優勝を逃すル・マン24時間レース。その難しさはなんですか。

難しいというよりも、本当に焦っても何も出てこないし、常に自分らができる仕事をやらないといけないのが耐久レースなんです。ただ、勝てるときは勝てるし、勝てないときは勝てない。だからこそ、チャレンジし続けていくしかないとは思っています。

ーー来年(2021年)こそは。

来年こそは。

The podium Fernando Alonso (ESP)  Kazuki Nakajima (JPN)  Sebastien Buemi (SUI) Jose Maria Lopez (ARG) Kamui Kobayashi (JPN) Mike Conway (GBR) Hisatake Murata (JPN) Team President Shigeki Tomoyama (JPN) President, Gazoo Racing Company TOYOTA GAZOO Racing. Le Mans 24 Hours World Endurance Championship9th to 16th June 2019Le Mans, France
ル・マン24時間レース優勝を喜ぶTOYOTA GAZOO Racingのドライバーら。ただ、小林可夢偉選手は最速タイムを持つが、まだ優勝を果たしていない=2019年6月、James Moy撮影

■アプリ活用で、レースをより身近に

ーー国内最速レースのスーパーフォーミュラも走っています。観客増のアイデアがあるとか。

いままでテレビに依存しすぎてたけど、もうテレビの時代でもないかなと思っています。スマホならアプリでレースを見られたり、サーキットで応援するドライバーの映像を車載カメラから映したりするとか、セーフティーカーが出たときに走りながらインタビューしてもいいんですよ。ユーザーが選べる立場に行けるのがすごくいい。いまの技術を最大限に使うと、もっとドライバーや車のすごさが伝わると思う。

野球とか囲って見られるから、(遠くても)まだ百歩譲っていいと。モータースポーツって、遠すぎて全部見渡されへんからこそ、いまは簡単にできるテクノロジーがあるのに、やっていないのがもったいないなと思います。

スーパーフォーミュラに乗る小林可夢偉選手=2020年12月5日、鈴鹿サーキット、中川仁樹撮影

ーースーパーフォーミュラは、レースのレベルも高いですよね。

今年(2020年)の鈴鹿サーキットでの予選タイムは、僕が2014年にF1やっていたときの予選より速いんですよ。エンジンがたった500~600馬力で、年間予算も1台走らせるのに1億円ぐらい。(当時で700馬力以上の)F1は年に何百億円もかけている。コスパがいいプロフェッショナルですよ。それをもう少しうまく伝えられれば、全然、盛り上がるんじゃないかな。

■未来の技術、レースでチャレンジを

ーーEV(電気自動車)のレースにも挑戦しています。新技術への興味は。

あります。いま話題のカーボンニュートラルが必要なのはすごく理解できますし、未来のために考えるところでは確かにあります。ただ、(HVやEVなど)どれが本当に一番いい技術なのかは、まだ誰も分かっていないと思うんですね。例えばプリウスが最初に出たときは、ハイブリッドがレーシングカーに使えるなんて思っていなかった。でも、WECで使ったことによって、スポーツカーのイメージがわいてきたと思うんです。

国内最速のスーパーフォーミュラに出場した小林可夢偉選手=2020年12月6日、鈴鹿サーキット、中川仁樹撮影

ーーレースが「走る実験室」と呼ばれる理由ですね。

だから、本当にどれがカーボンニュートラルに対して一番いいのかを考えるには、モータースポーツはすべてをチャレンジする必要があると思っています。方向性を決めるのは、おそらく自動車会社と国ですけど、その答えは1年後、5年後に変わるかもしれない。車を出してからだと、お客さんからしてみると、(失敗したときは)どうしてくれるんだという話になるかもしれませんが、モータースポーツは毎年、車が変わるんで、チャレンジしてもダメージが少ないんです。

■カッコいい車は永遠に不滅

ーートヨタの豊田章男社長は自らレースに出場しています。よく話はしますか。

僕たちが思うことを話すと、すごく素直に「そうだね」って理解していただける。そこはすごく大きいですね。逆にトヨタでもいろんな車を研究していて、「こういう車があるけど、ちょっと乗ってみよう」って軽く言われるんです。乗ると勉強できることしかないんです。今後のモータースポーツを含め、自動車ってどう変わるべきかっていうのを一緒に話せるのがおもしろいです。

ーーどんな「未来の車」に試乗したのか、ぜひ教えてください。

ここでは言えないような(笑)。いま試験中ですけど、そこそこできたんでっていうものもあって、「ちょっと乗って、どうか答えてくれ」って。こういうことも可能なんだっていうものがあると、世の中、なんでこんなにEV、EVって言っているのか考えさせられる部分もあるんですよ。世には出ていないですけど、もっと伝えてほしい本音はあります。

多くのボタンがついたTS050 HYBRIDのステアリングホイール=2020年12月18日、中川仁樹撮影

ーーエコや自動運転ばかりでは、車の楽しさが減るのではないですか。

それは楽しい車をつくればいいんじゃないですか。乗って楽しくて、ストレス発散できる車とか。カッコいいから女の子にもてるとかでもいいし。昔って、女の子とデートするためにスポーツカーを買って、みたいなのがあったじゃないですか。結局、お金を使ったりするのって、何かしら色気って出てくるじゃないですか。バッグを買うのと一緒で、車を買うと。そのおしゃれの一つに車が入り続けるべきだと思う。自動運転とかは関係なくて、カッコいい車をカッコよく乗りこなす人はカッコいいですよ。

こばやし・かむい 1986年生まれ。2004年から海外シリーズに挑戦。09年にF1デビューし、12年日本GPで3位表彰台。15年からスーパーフォーミュラ、16年からはトヨタでWEC参戦。世界3大レースの一つ、ル・マン24時間レースのコースレコードを持つ。米チームで伝統の米デイトナ24時間レースを2連覇。