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陸上イージスの代替策はイージス艦? 議論が先祖返りする不思議

揺れる世界 日本の針路
イージス・アショアの計画停止について秋田県の佐竹敬久知事(右)に頭を下げる河野太郎防衛相(左手前、当時)=2020年6月21日、秋田市、寺本大蔵撮影

イージス艦増設の流れを作ったのは、自民党の「国防議員連盟」が10月23日にまとめた「新たなミサイル防衛に関する提言」だった。陸上イージスの代替策として、政府が9月に示した、洋上型を前提とした①商船型②護衛艦型③移動式の海洋掘削装置型――の3案を検討。イージス艦の隻数増を軸に検討するよう政府に求めた。政府関係者は「議連の提言は重く、これで流れが決まった」と語る。

だが、陸上イージスを導入したのは、そもそも海自のイージス艦への負担を軽減するのが狙いだった。

北朝鮮によるミサイル発射が相次ぐなか、政府は16年8月から18年6月までミサイル破壊措置命令に基づき、イージス艦1~2隻を日本海に派遣して24時間体制で常時監視する態勢を取った。

当時、海上自衛隊が保有するイージス艦は6隻。修理などがあるため、常に稼働状態にあるのは約4隻だったが、この大半がミサイル防衛の任務に投入された。だが、イージス艦の本来の任務は艦隊を敵の攻撃から守ること(洋上防空)だ。多くがミサイル防衛に回ったことで、東・南シナ海の海上交通路を守り、安全保障を巡る任務や米国などとの訓練への参加が難しくなった。

伊藤俊幸・金沢工業大学虎ノ門大学院教授(元海将)は「ミサイル警戒だけに専従させると、訓練ができず練度が落ちる。そもそも、警戒監視やシーレーン防衛が本来の任務だ」とも語る。

イージス艦でイージス・アショアの機能を代替しようとするなら、1か所あたり任務用に交代を含めた2隻、稼働率と他の任務に振り向けることを考慮するとさらに倍の計4隻が必要になる。陸上イージスは秋田県と山口県の2か所に配備する予定だったから、合計で8隻のイージス艦がミサイル防衛に投入される計算になる。

2019年7月に進水したイージス艦「はぐろ」=横浜市磯子区、伊藤嘉孝撮影

イージス艦の建造費用は1隻あたり約1700億円。うち2隻は、陸上イージスのシステムを移せるため、1隻あたりの費用は500億円程度に抑えられるかもしれないが、米海軍はイージス・アショアに導入予定のSPY-7レーダーを運用した実績はなく、メンテナンスやシステム改修のトータルコストは未知数だ。仮にそれらが安価に収まったとしても、8隻で1兆円を超える費用がかかる。改修も含め、6500億円とされた陸上イージスよりも高額な費用になる。

また、イージス艦には1隻あたり300人くらいの乗員が必要になる。だがすでにイージス艦だけではなく、海自の艦艇の大半が定員割れの状態だ。「イージス艦を増やせ」という提言に回帰するなら、自衛隊の要員や予算の見直しが必要になる。国防議連の提言は「海自の要員確保には、予算措置と併せた充足率向上などの対策が必要だ」としているが、政治家が責任をもって主導できるかどうかが問われることになる。

また提言は、イージス艦を増やせば「南西方面にも投入可能で、運用上の柔軟性が大きい」と説明。21年3月に8隻になる既存の体制に、2隻程度を新造することで切り抜けたいとしている。

だが、陸上イージスを導入したときの政府の口上は「24時間365日、切れ目のないミサイル防衛」だった。最初から、他の任務も前提としたイージス艦による代用では、当時の説明と矛盾が生まれると指摘されても仕方ないだろう。自衛隊関係者は「2隻増やす程度では、尖閣諸島の対応を全て海上保安庁に任せるぐらいの戦略の切り替えが必要になる」と語る。

イージス・アショアの配備候補地だった陸上自衛隊の新屋演習場=2018年7月9日、秋田市新屋町、朝日新聞社ヘリから、福留庸友撮影

政府関係者の一人によれば、議連関係者の間では、陸上イージスの可能性をさらに探りたいとする声もあった。防衛省側は、陸上イージスの地方配備をめざす過程で、ずさんな調査や誤った説明などにより地元の不信を招いたため、これ以上、陸上で用地を見つけることは不可能と説明したという。

また、河野太郎防衛相(当時)は20年6月、陸上イージスの配備計画の停止を発表した際、迎撃ミサイルを打ち上げた際に切り離す推進装置やブースターが落下する際の安全性を担保するために、巨額の改修費用がかかるとしていた。

ただ、7月に発表された今年度版の防衛白書は、北朝鮮が核ミサイルで日本を攻撃する能力をすでに持っていると説明している。海自呉地方総監を務めた池田徳宏元海将は「核ミサイルが飛んできたときに、ブースターが住宅地に落ちるかもしれないから発射できないという結論がありうるのか。イージス艦でも陸地から近い洋上で発射すれば、同じことは起こりうる」と語る。

池田氏によれば、米ハワイ州カウアイ島にある米軍のイージス・アショアの実験施設の場合、住民の不安を和らげるため、ミサイル発射施設は、レーダー施設から約5キロ離れた海岸に設置し、発射筒も洋上に向けてあるという。

元空幕幹部は「専守防衛であれば、我々は日本の領空や領土でしか戦えないはずだ。より大きな被害を避けるため、必要な装備や基地を日本に置くことを説得するのは政治の役目ではないのか」と語る。

イージス艦を増やして陸上イージスのかわりにする代替案は、「政治的に迷走したうえ、ミサイル防衛を何とか続けたいというシングルイシューに絞った末の結論」(自衛隊幹部)とは言えないか。

これまで自衛隊のミサイル防衛は「北朝鮮の脅威に対抗するため」という前提で進められてきたが、中ロ両国の軍事技術も、大幅に発展している。大きな戦略の変更も、防衛省ではなく政治に求められる課題だ。自民党国防議員連盟による提言は「新たな安全保障環境に照らして、真に国家主権と国民を守る観点から、その方向性を出すべきである」としたが、政治の責任については触れていない。

安倍晋三首相(当時)は9月、「今年末までに、あるべき方策を示す」とする談話を発表したが、菅義偉首相は10月26日の臨時国会での所信表明演説で「談話を踏まえ、あるべき方策を取りまとめていく」と語るにとどめた。

複数の政府・与党関係者によれば、菅政権は「世論の紛糾を招きかねない」として、陸上イージスの代替案について年末までのとりまとめを急がない見通しが強まっている。政府与党は状況次第で、1月初めにも衆議院の解散総選挙も想定しており、マイナス材料を排除したい思惑があるという。

陸上イージスの代替案を巡る迷走劇は、現に存在する核の脅威への対応など、軍事的な議論から目を背けるメディアと世論、責任回避に汲々とする官僚、自らの議席の確保ばかり考える政治家らが一緒になって作り出したものなのかもしれない。