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驚き、怒り、そして魅了される 被写体としてみたトランプ大統領(下)

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ホワイトハウスで記者団からの質問に答えた後、支持者と握手するトランプ大統領。トランプ大統領の握手はいつも力強く、相手を自分へ引っ張るように見える =ワシントン、ランハム裕子撮影

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トランプ政権の誕生とともに、抗議デモを撮影する機会がぐんと増えた。それはトランプ大統領就任式前日に起きたトランプ支持者と反対派との衝突や、アナーキストと呼ばれる集団による破壊行為から始まった。

【ランハム裕子さんの連載】ホワイトハウスへ猛ダッシュ

ワシントン市内で発煙弾やけたたましい音の爆竹が飛び交い、道端で血を流す人、放火された車、窓ガラスが割られたコーヒーショップなど、今まで見たことのない光景を見て、米国の首都に流れる異様な空気を肌で感じた。

警察はジャーナリストを守ってくれるものだと思っていたが、そうではないと初めて実感したのはこの時だった。デモ隊と警官隊の間で取材する記者たちを、警察が暴力で押しのける。私もその中にいた。目の前に、カメラを持った女性記者が警官に激しく突かれて地面に倒れ込む。「大丈夫?」と差し伸べた手を女性がつかんだ瞬間、彼女の手を引いて白い煙の中を必死に走った。空中には発煙弾が飛び交っていた。

その翌日、一転してワシントンはピンクに染まった。何十万人もの人々が濃いピンク色の帽子を被り、女性の権利や大統領への反発を訴える大規模なデモ行進「ウィメンズマーチ」が行われた。前日とはうって変わったポジティブな雰囲気にほっとした。手作りのプラカードを誇らしげに掲げ「これが民主主義の姿だ」と叫ぶ人々の声が町中に響いた。

それからも、大規模な抗議デモは次々と行われた。「イスラム教徒追放令」と呼ばれた入国規制、移民政策に反対するデモ。銃規制を訴える集会。トランプ大統領が連邦最高裁判事に指名したカバノー氏のセクハラ疑惑をめぐる抗議デモ。パリ協定脱退に対する反対デモ……。トランプ大統領が打ち出す政策や言動に素早く反応するかのように、その都度大勢の人たちがワシントンに集結した。

トランプ大統領就任式の翌日、「これが民主主義の姿だ!」と叫びながらホワイトハウス周辺を行進するウィメンズ・マーチの参加者たち=2017年1月21日

一方、トランプ大統領を支持する白人至上主義者の集会もホワイトハウス前で行われた。人工中絶に反対する集会には、トランプ大統領が自ら会場に出向いて演説をした。私はその度に、脚立と機材を抱え現場へ猛ダッシュした。抗議運動の内容は様々だったが、いつも「トランプ支持者対反トランプ」という対立が浮き彫りになったという点で共通していた。国が分断していく様を見せつけられているかのようだった。

ただ、それはほんの始まりにすぎなかった。今年5月、政府関係者や会社員、観光客でにぎわうワシントンは、新型コロナウイルスの感染拡大により、ゴーストタウンと化していた。静まりかえった米国の首都に大勢の人を呼び戻したのはコロナの終結ではなく、「パンデミックよりも恐ろしい」と言われるほどこの国に根付く人種問題だった。

「息ができない」。ミネソタ州ミネアポリスで警官に首をひざで押さえられた黒人のジョージ・フロイドさん(46)は、かすれた声で助けを求めた。その場に居合わせた女子高生が携帯電話で撮影したビデオにより、白人警官がフロイドさんを8分46秒間ひざで押さえつけ窒息死させるまでの「殺人場面」を国民が目の当たりにした。この事件を受け、「Black Lives Matter」(黒人の命も大切だ)と訴える大規模な抗議運動が全米各地に広がった。

ホワイトハウス周辺で抗議運動する男性。フロイドさんの事件を受け、連日ホワイトハウス周辺で抗議デモが行われた=2020年6月6日

ホワイトハウス周辺では、「私の家族を殺さないで」「手をあげたら撃たないで」「私の肌の色は犯罪ではない」などと書かれたプラカードを持った大勢の人が連日抗議デモに詰めかけた。「Enough is enough」(もうたくさんだ)と上半身にペイントして抗議運動する男性、警察の暴力によって命を落とした被害者たちの顔がデザインされたマスクを着けた人、黒人リンチの象徴である縛り首の縄を掲げデモに参加する人の姿も見られた。

ホワイトハウス周辺で警備態勢につく警官隊に、「私の兄弟やお父さんを殺さないで」などと書かれたプラカードを掲げ抗議デモをする人たち=2020年6月3日

新型コロナの感染リスクを冒してまで、人々を抗議デモに駆り立てたものは何だったのか。

「自分の家族や患者、そしてコミュニティーの人たちが、経済、教育、健康、司法、住宅、労働など、あらゆる面で最悪の状況に苦しんでいるのをこの目で見て、自らも経験してきた。私たちを組織的におとしめるようにデザインされた社会は、プランテーションで働く黒人を政府公認の『テロ行為』によって物理的、心理的、そして社会的に制圧するという起源に基づいている」。そう語るのは、ワシントンの貧困区域で医師を務める黒人女性のアイシャ・コルベットさん(51)。猛暑の中、ホワイトハウス周辺で娘を連れ抗議運動に参加していた。

警察による暴力を抗議するためにワシントンのリンカーン記念堂に集まった人たち=2020年8月28日

司法制度は英語で「ジャスティス・システム」というが、「『正義』を意味する『ジャスティス』はアメリカの司法制度に存在しない」という。「何かあれば真っ先に犯人と疑われ、銃で撃たれる可能性すらあるのは、白人のお友達ではなくあなたよ」と自分の娘に説明しなければならないという。

「無邪気に『なぜ?』と聞く娘に、この国で過去400年にも渡って存在する組織的なテロのせいだなんて、どうすれば説明できるのだろうか」とため息をつく。「私たちがシステミック・レイシズム(制度的差別)に正直に向き合い、法律、文化、警察のあり方を変えていかなければならない。その改革を今求めることが私たちの世代の責任だ。子どもたちに同じ苦しみを味わわせないために」。

ホワイトハウスへつながる通りの一部はワシントン市当局によってブラック・ライブズ・マター・プラザと命名され、米国が直面する人種問題に対して行われる抗議運動を象徴する場所となった。ここに立ちカメラを構えると、それぞれが抱く切実な思いや叫びを全身で感じずにはいられない。

ワシントンで新たに銘々された「BLMプラザ」で「リーン・オン・ミー」を合唱する抗議デモの参加者たち=2020年6月3日

6月1日、日課となったデモ取材に出ると、ホワイトハウス周辺には赤ちゃんを抱いた母親や、子どもたちを連れた家族連れの姿があった。ところが夕方になると周辺の雰囲気が急変し、ピリッとした空気が流れた。

「何かが起こる。またはすでに起きている」。身の危険を感じ、その場からいったん離れることに。振り返ると、さっきまでいたエリアは白煙に包まれ、人が走ってこちらに逃げてくる。警官隊がゴム弾や催涙ガスを発射し平和的デモを追い払っていた。そこまでしてトランプ大統領が行ったことは、教会の前で聖書を片手に撮った記念撮影だった。翌日、ゴム弾を受けた女性の足はボコボコに腫れ、表面には受けた弾の数だけ紫色のあざが浮かび上がっていた。

この頃、夜に一部の集団による暴動が起きていた。市内のレストランやホテルには、木の板が貼り付けられ、取り付けが間に合わなかった店のガラスは粉々に割られた。オフィスビルや連邦政府の建物の壁という壁には落書きがされた。警察の暴力による被害者の名前や、「なぜ黒人の命が大切だと言い続けなければならないのか」などというメッセージが書かれていた。サンドイッチ店の焦げた看板は今にも落ちそうに傾いていた。燃やされ丸焦げになったレストランの外のテーブルやパラソル、打ち壊されたATM、車が燃えた跡。歩けばこのような光景が次々と目に飛び込んできた。

トランプ大統領はホワイトハウスを黒いフェンスで要塞のように囲み、周辺に大型の軍用車両や重装備の警官隊を配置した。米軍ヘリが低空飛行を続け、住民はエンジン音と窓の振動により、眠れない夜を過ごしていた。「法と秩序」を唱え暴動と抗議デモを一くくりにするトランプ大統領のやり方は、人種問題を切実に訴える国民や被害者家族に寄り添うものでは決してなかった。

ホワイトハウスの前に盾を持って並び、警備態勢につく警官隊=2020年6月1日

ワシントンから1000キロ離れたミシガン州にも叫ぶ群衆がいた。トランプ大統領が言いたい放題の漫談を繰り広げる選挙運動の目玉イベント「トランプ集会」だ。9月10日、私はこの集会を取材するため、同州のフリーランドという町へ向かった。トウモロコシ畑のど真ん中をひた走り、ハイウェーをやっと降りると、またもや目の前に広がるトウモロコシ畑。道路沿いの大きなトレーラーに付けられたトランプ支持の横断幕が風になびくのを横目に見ながら、畑道をひたすら直進する。住宅地に入ると、これでもかというほど芝生に突き刺さったトランプ支持の看板。ナビを見なくとも、着実に会場へ近づいていることがわかった。

会場に到着すると、いつものように「赤い集団」と破れんばかりの「Y.M.C.A.」の曲に迎えられた。開始まで9時間あるにもかかわらず、駐車場には多くの人が「Make America Great Again」(米国を再び偉大に)と書かれた赤い帽子やトランプ大統領の顔がデザインされたTシャツなどを着て、早くも入場の列を作っていた。トランプグッズやホットドッグ、レモネードの出店が立ち並び、まるで夏祭りのようだ。今日一日で「YMCA」を何度繰り返し聞かなければならないかと考えるだけで頭が痛くなった。

トランプ集会に、星条旗のコスチュームをまとい、2時間運転してやってきたモリス兄弟=ミシガン州フリーランド、2020年9月10日

最近のトランプ集会は空港の格納庫で開催されている。コロナの感染拡大を意識し、扉を全開にすれば屋外同様になるという利点を生かした策だが、会場に足を運ぶ支持者たちを見ると、パンデミックなどまるでお構いなし。他人と一定の距離をとるソーシャルディスタンスもなければ、マスク着用者もほとんどいない。入り口で係員が配るマスクを「要らない」と拒否する人、入場後に外してしまう人も多くみられた。「コロナなんてたいしたことない」と豪語する人の声も耳に飛び込んでくる。近距離でおしゃべりをしたり、「Y.M.C.A.」に合わせて踊ったりしている。彼らにとって新型コロナは「フェイクニュース」でしかないようだった。

ステージをどう見せるかにこだわるトランプ大統領にとって、格納庫での集会はもう一つの利点があった。大統領専用機「エアフォース・ワン」での登場だ。真っ赤な夕焼けをバックに機体が格納庫の前に止まると、割れんばかりの熱狂に包まれる。爆音で流れていた「マッチョマン」の曲が突然止まり、絶妙なタイミングで「ゴッド・ブレス・USA」に切り替わる。これが「トランプ劇場」の始まりだ。

飛行場の格納庫に降り立った大統領専用機「エアフォース・ワン」=ペンシルべニア州ラトローブ、2020年9月3日

機内からトランプ大統領が姿を現すと、熱狂は頂点に達する。ガッツポーズをしながらゆっくりタラップを降りる時の表情は至福に満ちている。「USA!USA!」という群衆の雄たけびが地響きとともに会場を包む。報道陣がカメラを構えるスタンドを指さし「今日もフェイクニュースたちがいるぞ」と言うと、観客は一斉に振り向き、親指を下に向け「ブー!」の大合唱。トランプ大統領の表情が生き生きするこの瞬間は絶好のシャッターチャンスだ。

この日も、トランプ大統領は自分を批判するメディアを「このバカども」と呼び、会場を沸かせた。2016年の大統領選の時とまるで変わらない熱気と、おなじみの「エンターテインメント」がそこにあった。

赤い帽子だけではなく、「トランプ2020」のデザインがピカピカ光るカチューシャを頭に付けた女性、「神、銃、トランプ」と書かれたTシャツを着ている人、顔に「トランプ」とペイントした人など、まるでハロウィーンのようにコスチュームを楽しんでいる。

トランプ集会で「トランプのためのラティーノ」というプラカードを笑顔で掲げる女性。ほとんどの人がマスクを着用していない=ペンシルベニア州ラトローブ、2020年9月3日

中でも特に目立っていたのは、全身に星条旗をまとった二人の男性だった。敬虔なカトリック教徒で、同性愛結婚や人工中絶に強く反対するというデビッド・モリスさん(21)は2歳下の弟を連れ2時間ほど車を運転し、この集会にやってきた。なぜなら「楽しいから」。トランプ大統領がエアフォース・ワンから降りてきた瞬間、背中がぞくっとするほど感動したというモリスさんは「一生忘れられない思い出だ」と興奮を隠せない。マスクをつけないモリスさん兄弟に、コロナ感染の心配はないのかと尋ねるとこう答えた。「コロナはメディアによって誇張されているだけだから何の心配もない。そして私は神を信じているから大丈夫だ」。

いつもと違うものも目に入った。「平和的な抗議者」と書かれたプラカードだ。トランプ陣営により会場で配られたこの新アイテムには二つの意味があった。まず、トランプが「暴徒」と呼ぶ、人種問題に対する抗議デモとの違いを強調し、自分たちは「平和的」な集会を行っているというアピール。そして、もう一つは、特定人数以上で集会を開いてはいけないとする各州のコロナ対策に対する「抗議」という意味を含んでいた。

集会終了後、大好きなロックスターのコンサートから帰るかのように興奮覚めやらない支持者たち。「平和的な抗議者」というプラカードを笑顔で掲げるその様子は、ホワイトハウスの前で見た人種差別に反対する抗議デモとは極めて対照的だった。まるで一つの国の中に二つの異なる国があるかのようだった。

そこまでとりこにするトランプ大統領の魅力とは何なのか。瞬時に場の雰囲気を一変させるカリスマ性。とてつもない存在感で周囲を巻き込むパワー。閣僚会議や執務室では、トランプ大統領が語りかける相手の肩越しに撮影した。その鋭い目力に、誰も反対意見を言えない様子がわかるような気がした。被写体が自分のカメラに向かって話すとき、フォトグラファーにとっては最高の瞬間のはずだが、トランプ大統領の場合は、まるで自分が攻撃されているかのような強烈な威圧感を感じる。負けるものかとシャッターを切り続けた。

ホワイトハウスのサウスローンで、記者団からの質問に答えるトランプ大統領=2018年10月2日

一方、愛嬌たっぷりで大統領とは思えない親近感を相手に感じさせる場面も何度も見た。独裁者のような表情を浮かべたかと思うと、次の瞬間娘のイバンカさんに顔をほころばせウィンクし、自虐ネタで場を笑いに包む。メラニア夫人を忘れ慌てて戻ってきたりするおちゃめな一面も垣間見た。この距離感があったからこそ記者と火花を散らすバトルが成立した。まるで夫婦げんかや親子げんかに見えることもあった。「大統領らしくない」ところが時には親近感すら覚えた。

メラニア夫人の手を取り、なぜかカメラの前で立ち止まる。「奥さんを忘れたわけじゃないよ」とでも言いたかったのか……=2020年11月29日

そんなトランプ大統領の表情が一番豊かになるのは攻撃体制に入る時だ。差別的な発言や、冷酷な言葉で人を攻撃する様に、レンズを構えながら幾度となく驚愕と怒りを覚える一方で、被写体トランプ大統領に魅了される自分がいる。同じ人物には見えないほどの七変化ぶりに、私は吸い込まれるように撮影する。鼻から息を吸い上げ、あごから汗をかきながら記者とやり合うその表情に、「なぜわかってくれないのか」という必死の訴えを感じる。とてつもない熱量だ。

トランプ大統領が怒りや憎しみをあらわにする時、レンズ越しに見えるのは、台本にはない限りなく純粋な生の感情だった。たとえ事実無根でも、自分が正しいとかたくなに信じている。周囲のフォトグラファーから思わずもれる「アンビリーバブル!」や「オーマイゴッド!」というささやきがトランプ大統領に聞こえてしまわないかハラハラすることも何度もあった。私は「戦場」で様々な葛藤を抱え、渦巻く感情を抑えながらレンズ越しにみた豊かな表情を撮り続けた。

撮影しながら拭えなかった違和感がある。トランプ大統領が愛すべきだという「この国」は自分自身にほかならない。とてつもない熱量が自分ではなく国民全体のために注がれていたなら……そしてトランプ大統領がいう「私たち」は自分を愛する家族や支持者を指し、それ以外の国民は入っていない。このことが、分断する米国社会の溝を深めた。先日、トランプ大統領が力ずくで抗議デモを排除し写真撮影した教会を通りかかった。教会の名が書かれた看板は「Black Lives Matter」に変わっていた。