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中学受験で増える時事問題 プロが薦める対策「子どもと家庭で政治談義を」

World Now
保護者に付き添われて、試験会場に向かう受験生=2020年2月、東京都新宿区、長島一浩撮影(本文とは関係ありません)

■「社会に関心ある子」求める中学校

【問題1】選挙で、「シルバー民主主義」という言葉を耳にすることが増えました。65歳以上の高齢者に配慮した政策を掲げる政党が少なくないからです。こうした傾向になる理由を、50字以内で説明しなさい――。

【問題2】地方に暮らす高齢者の声が、国会に届きやすいと指摘されています。その理由と、どのような対策がとられているのか、120字以内で答えなさい――。

「このような問題が、2017年に偏差値60~70の難関中高一貫校の入試で出題されました」。東京都を中心に展開する中学受験専門塾「ジーニアス」代表の松本亘正さん(37)が、そう教えてくれた。

うわー、今どきの小学生って、本当にこんな難しい問題を解いてるんですか?!  松本さんは言う。「いわゆる難関校をめざす優秀な小学生ならおそらく、半数は正解します」

私立中学受験で政治に関する時事問題がぐっと増えたのは、2016年の18歳選挙権導入がきっかけという。「統計があるわけではありませんが、目に見えて増えました。社会の動きや背景に対する感度を持つ生徒を学校側が求めています。若者に広がる政治への無関心に対する危機感もあるのかもしれません」と、松本さん。

中学受験の問題は「社会を映す鏡」というのが、長年この分野に携わってきた松本さんの持論だ。たとえば政治関係なら、一昔前は「ねじれ国会でなかなか物事が決まらない弊害は?」「大臣の順送り人事でどんな影響が起こりうるか?」といった問題が多かった。東日本大震災後は、「防災」「ハザードマップ」といったワードが頻出した。ここ数年のトレンドは、環境分野だという。

出題のスタイルも、その時々でトレンドがある。今は知識を問うというより、統計資料を短時間で読み取って、そこからどんな結論が導き出せるかを簡潔に文章で答えさせるスタイルが、難関校ほど多い傾向にあるという。

ということは、来年の問題に出てくるキーワードは間違いなく、新型コロナウイルスですね? 松本さんはうなずく。「問題は今夏から作り始めますから、間違いありません。コロナ禍を反映して、WHO(世界保健機関)という言葉は絶対に入ってきます。感染防止に伴う『自粛』と経済への影響なども考えられますね」

■「家での政治談義」と難関校突破の関係

中学受験専門塾「ジーニアス」代表の松本亘正さん=2020年8月、東京都内、玉川透撮影

いわゆる「御三家」「難関」と呼ばれる中高一貫校に合格する子供ほど、家庭で政治の話をしているのがよく分かる、と松本さんは見ている。「結局、憲法9条を改正しようとしているのは日本が戦争できるようにするため」「金正恩は危ない。日米同盟を強化したのは自然だ」――。そんな言葉が10歳前後の子供の口から飛び出して、ハッとさせられることが少なくないという。

松本さんは言う。「ちょっと偏りがあるなとは思いますが、家庭でそういう政治談義をしているのでしょう。最近びっくりしたのは、『アベノマスクに意味があったのか?』という問いかけでした。アベノマスクは今や、受験生にとって必須ワードです」

ただし、そんな子供たちの政治談義に、「野党」という言葉はほとんど聞かれない、とも松本さんは語る。「野党は話題にすらのぼりません。今の子たちが物心ついたときから長期政権が続き、変化を感じられないのでしょう。長期政権の下で育った子供たちに、野党は好きか嫌いかという以前に、知られていないんです」

新型コロナウイルス禍・第2波の最中、7月に行われた朝日新聞の世論調査によれば、安倍政権の支持率は支持33%、不支持50%。コロナ対策が評価されず、経済的な打撃が深刻化したことが原因とみられるが、29歳以下の若年層は支持46%、不支持29%と、この世代だけ支持が不支持を上回った。支持政党別に見ると、自民25%に対し、野党は国民民主が4%、立憲民主2%、れいわ新選組2%などとなっている。

松本さんによれば、難関校をめざすような家庭では、普段の生活の中で「政治談義」をしているという。5歳の娘を持つ親としてはなんとも複雑だ。私たちの世代では、学校教育は政治に関して「中立」を守ってきた。その延長線上で、家庭でも政治の話をするのはタブーと思い、わざと隠してきたところがある。それって間違いだったんだろうか?

個人差はあるとしたうえで、10歳ぐらいを目安に家庭で政治の話をある程度した方がいい、と松本さんは説く。「政治的な主張はしなくていいですが、タブー視する必要はないと思います。テレビを見ながら親が感想をつぶやく程度で、子供は敏感に聞いていますから」

なるほど。でも、子供から政治や選挙について質問されようものなら、どう対応していいか分からず、どぎまぎしてしまいそうだ。そんなとき、松本さんのアドバイスはこうだ。「お父さんはこう思うけれど、こういう考え方もあるよ、そんな感じで子供に教えてあげるのがいいんじゃないでしょうか」

それにしても、今どきの若者は小学生の頃から政治に興味がないどころか、かなり勉強しているんだなあ。なんだか、安心したぞ。

いえいえ、と松本さんは首を横に振る。「勉強といっても、その多くはあくまで受験のためです。子供たちには、仲間内で政治の話を口にするのは、格好悪い、偏っていると思われる、そういう意識があるようです」

将来なりたい職業を子供たちに問うと、彼らの心情がうかがい知れるという。「ご多分に漏れず難関校をめざす子たちでも、ユーチューバーが圧倒的に人気です。ほかにゲームクリエーターやビジネスの世界で活躍したいという子もけっこう多いですね。共通して言えるのは、自分一人の努力でなれるかもしれない、というのがポイントかもしれません」

自分ひとりの力で……じゃあ、政治家はどうでしょうか? 長い塾講師経験の中でも、そう答えた子は一人としていなかった。松本さんはそう言い切った。「政治家は二世、三世の人たちがやるもの。それは、今の小学生の共通認識といっても良いでしょう。政治家は『世襲』だと思っているんですね」

■まつもと・ひろまさ 中学受験専門塾ジーニアス代表。1982年、福岡県生まれ。慶応大学総合政策学部卒。大学在学中の2004年にジーニアス設立。東京都、神奈川県に7校舎を展開。著書に『超難関中学のおもしろすぎる入試問題』(平凡社新書)など。