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アメリカの牽制が中国の軍備増強を招く 米中対立の「無限ループ」に出口はあるのか

ミリタリーリポート@アメリカ
中国建国70周年軍事パレードに登場した新型の無人機=2019年10月、北京、仙波理撮影

前回のコラムでは、中国軍の各種ミサイル戦力が著しく強化されている状況についてアメリカ国防総省が2020年版「中国軍事力リポート」で大いなる危惧を表明していること、その理由が、それらのミサイルが中国の「接近阻止戦略」の主たる戦力となっているためであることを論じた。

そもそも、なぜ米軍当局は中国の接近阻止戦力の増強を危惧しているのか?

覇権を失いたくないアメリカ

それは、アメリカが第2次世界大戦で日本海軍を壊滅させて70年以上にわたって手にしてきたアジア太平洋地域(近頃、アメリカ当局は「インドー太平洋地域」と呼称するようになっている)における軍事的覇権を失う可能性が高まってきたからである。

アメリカ国防当局、そしてトランプ政権が、このような危機感をあらわにするほど、中国軍が立脚している接近阻止戦略(米軍は「接近阻止領域拒否戦略」と呼称しており、中国軍は「積極防衛戦略」と呼称している)は米軍にとり厄介な戦略である。一方、中国側から見れば、効果的な戦略と言える。

中国軍が呼称する「積極防衛戦略」における「積極」というのは、「海洋(海上、上空、海中)を渡って侵攻してくる敵軍から自国の領土を防衛するには、海岸線で敵侵攻部隊を待ち受けるのではなく、こちらから海洋戦力を出動させ、できるだけ遠方海洋で敵を迎え撃たねばならない」という海洋国家防衛の伝統的鉄則を意味している。当然ながら主役は中国海軍であり、一部のロケット軍戦力と空軍戦力も組み込まれて推進される強力な海軍戦略である。

どちらが先に手を出すか

このような中国の接近阻止戦略が、なぜアメリカにとっては厄介な戦略なのかというと、それが“専守防衛”的な戦略であるからだ。

中国の接近阻止戦力が米軍に対して火を噴くのは、あくまでもアメリカが中国攻撃態勢を整えた強力な艦隊や航空戦力を“中国領域”に接近させて軍事攻撃の意思を明示した場合、あるいはアメリカ側が実際に中国に対して軍事攻撃を加えた場合(例えば、米海軍艦艇が中国軍艦や中国領域に向けて長射程ミサイルを発射した瞬間)に限られる。

このような場合には、たとえその“中国領域”が西沙諸島や南沙諸島の中国人工島のように、アメリカとしては中国領土とは認めていない場合であっても、中国政府・軍・民間の施設と中国軍人・民間人が居住している島嶼(とうしょ)に対して米軍が攻撃を加えようとしたときには、「アメリカが先制攻撃をしようとした、あるいは実施したために、中国は自衛のために反撃した」という口実が成り立ってしまう。

中国が南シナ海・南沙諸島のジョンソン南礁で建設を進める防空システムの衛星写真=2016年、CSISアジア海洋透明性イニシアチブ・デジタルグローブ提供

伝統的にアメリカは「敵が先に軍事力を行使したため、やむを得ず戦争に踏み切った」という口実を無理やりにでも生み出して、それを大義名分に戦争に突入する。これは、歴史が証言している。(たとえば1898年、アメリカとスペインの間で起きた米西戦争でのメイン号事件、第2次世界大戦での真珠湾攻撃などがあげられる)

したがって、東アジア方面でのアメリカの軍事覇権と真っ向から衝突する中国海洋戦力を排除するためには、どうしても中国側に先に手を出させなければならないのだ。しかし、中国の接近阻止戦略は、上記のように、アメリカ(そしてその同盟諸国やアメリカ側に立って中国に敵対する国々)が先に手を出さない限り、アメリカ軍艦や航空機に対して一発のミサイルも発射しない、という軍事戦略なのである。

中国に有利な「無限ループ」

アメリカ側にとって更に都合が悪いのは、中国政府が推し進めている南シナ海と東シナ海での海洋覇権拡張政策を軍事的に支えているのが、上記の「専守防衛的」な接近阻止戦略であるという構造である。

たしかに、中国と西沙諸島、南沙諸島、東沙諸島そして尖閣諸島やそれらの周辺海域での領有権をめぐって紛争中の国々にとっては、中国の領有権の主張は軍事力を背景にした覇権主義的行動ということになる。

しかし、南シナ海や東シナ海での中国の海洋政策に対して、アメリカが軍事力を用いてでも中国を牽制(けんせい)しようとすると、中国は「中国の主権をまもる」という大義名分を掲げて、更に接近阻止戦力を強化するのである。

接近阻止戦力の主用途は「中国に侵攻を企てるアメリカ海洋戦力を撃退することにある」といっても、そのような戦力の強化は日本やフィリピンをはじめとするアメリカの同盟諸国など、中国と対立している国々にとっては深刻な軍事的脅威となってしまう。

したがって、(1)東アジアでの海洋覇権を引き続き手にしておきたいアメリカが、中国の海洋覇権拡張政策を軍事力をちらつかせて牽制(けんせい)すると、(2)中国は接近阻止洋戦力を強化する。すると、(3)アメリカの同盟・友好諸国が中国から受けている軍事的脅威はますます高まる。同時に、(4)中国の南シナ海と東シナ海での防衛態勢も一段と強化されることになる。すると、(1)中国を牽制(けんせい)しようとしているアメリカはさらに対中軍事態勢を強化させる。それに対抗して、(2)中国は接近阻止戦力を更に増強させる――。

台湾周辺海域の上空で中国軍の爆撃機(奥)と並んで飛行する台湾軍の戦闘機(手前)=2020年2月、台湾・国防部提供

このように、アメリカが中国の海洋拡張政策を牽制(けんせい)しようとしたり、南シナ海や東シナ海周辺の同盟友好諸国を軍事的に支援しようとしたりすればするほど、中国は「自衛態勢強化のため」に接近阻止戦力をますます増強させる。そして、「専守防衛的」な接近阻止戦略に基づく中国は、自らアメリカ側を軍事攻撃することはしないため、アメリカとしては軍事力によって中国の海洋政策を挫折させることができないのである。

このような無限ループ構造に陥っている南シナ海や東シナ海での米中軍事対立を打破するために、アメリカ海軍をはじめとする米国防当局は、中国側が予期していないような新戦略を生み出す必要性に迫られているのである。