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だれに投票するかでケンカするカップル 大統領選が「別れの理由」になるアメリカ

ニューヨークタイムズ 世界の話題 更新日: 公開日:
The presidential race is in full swing, and more couples (some on the left, some on the right) are finding themselves fighting about politics. (John P. Dessereau/The New York Times) -- NO SALES; FOR EDITORIAL USE ONLY WITH NYT STORY COUPLES POLITICS DIVIDE BY NICOLE PAJER FOR AUG. 25, 2020. ALL OTHER USE PROHIBITED. --
米大統領選が本格化し、政治をめぐって争い合うカップルが増えている=John P. Dessereau/©2020 The New York Times

米カリフォルニア州オーカットの事業運営コンサルタント、ジュリー・サンチェス(59)は最近、結婚15周年を祝った。このところの緊張した政治が結婚生活に与えた影響を考えると、その日を迎えられるか、彼女には確信が持てなかった節目の記念日だった。

「巨大なゾウ(訳注=共和党のシンボル)と巨大なロバ(同=民主党のシンボル)。その両方が居間にいる」。民主党員の彼女は、状況をそう形容してみせた。

夫は共和党員で同党の候補者にだけ投票してきたが、付き合っていたころは政府の問題について話し合ったことがなかったし、3人の子を育てていたころは忙しくて、そうした論議は優先事項にはならなかった。「実際、2016年の選挙まで、それは不和の種にはならなかった」と彼女は言う。

だが近ごろは、争いにならないように議論するのがだんだん難しくなってきた。「率直に言って、私はそれを避けようとしている。だって、理性的な会話にならないし、とても苦痛だから」と彼女は言う。そこで、2人は自宅で政治的な話――「すごく負荷がかかるので」と彼女は言っていた――を禁じたのだが、近づく選挙のことが絶えずニュースで取り上げられるようになると、その話題が避けられなくなった。

多くのカップルにとって、政治をめぐる争いが日常的になっている。ドナルド・トランプが大統領に選出されて以来、ニューヨーク市で離婚問題を扱う弁護士ケン・ジュエルは、Black Lives Matter(BLM=黒人の命も大切)のような問題でパートナーの考え方をめぐって感情を爆発させるクライアントをずっと抱えてきた。

「以前は、分裂をあおる候補者がいなかったから、大きな問題にはならなかった」とジュエルは言う。それに、人は政治的な立場の違いを離婚の唯一の理由にするようなことはなかったが、この話題は確かに問題を複雑にしている。「大統領選の年は、離婚問題に関しては平穏だった。大統領が誰になるのか不確実だからだ」としたうえで、「今年は常軌を逸している」と続けた。

サウスカロライナ州チャールストンのサイバーセキュリティーの専門家ジェラミア・デンプシー(41)は6月、政治問題が理由でガールフレンドと別れた。彼女はリベラルだが、彼自身は非常に保守的だと認めている。

「自分とは違う考え方をする人とデートすることにまったく問題はないといつも思っていた」と彼は言う。「でも、この4カ月間、違いを無視するのは難しかった」。2人は、最近の最高裁の判決からパンデミック(感染症の大流行)への対応に関する問題まで、ことごとく考え方が違った。彼の話によると、彼は反対意見も受け入れる姿勢をみせたが、別れたガールフレンドにはその気がなかった。

「私はサンフランシスコの49ersのファンで、彼女は私にNinersマスクの写真を送ってきて『あなたに、このうちの一つを手に入れる必要がある』と言ってきた」とデンプシー。彼は「マスクをつけるつもりはない。役に立たないから」と答えると、「どうして、そう思うの?」と彼女。ところが、彼が返答しようとしたら、その前に「もういい」の一言で会話は終わってしまった。

デンバーの人事担当重役をリタイアしたパット・ピアソン(72)は、トランプ政権についての意見の対立から12年間付き合ってきたボーイフレンドと別れた。彼女はよりリベラルで、ボーイフレンドは保守的だったが、トランプ以前は見解に相違があっても問題にはならなかった。「彼はオバマにも投票した」とピアソン。「だけど、どうしたことかトランプになったら、状況は変わってしまい、うまくいかなくなった」

ニューヨークとフロリダに拠点を持つ出会い系サイト「MTNマッチメイキング」のオーナー、モーリーン・タラ・ネルソンは、彼女のクライアントたちは政治的な見解がお互いに似通った者同士でペアを組むことを求めていると言っている。「これまでは『協力し合い、意見が違うことも受け入れる』というのが私のモットーだったけれど、人びとが違う政治的な見解を憎むようになった」と彼女は言う。「憎み合っていては、デートなんてできません」

ネルソンによれば、これまで独身者はパートナーに対して魅力的で知的で成功者であることを求めていた。今は、政治的にそりが合う人を見つけることが絶対条件だ。彼女は、クライアントに政治を無視するよう促した時でさえ、それが裏目に出たことを認めている。最近、政党に無関心なセレブのために、ある共和党員とのバーチャルデートを設定した。「その後、その女性が私に電話をしてきて、『あの男とは二度とデートをしない。サイテー。トランプはこうだ、トランプはああだって言うばかり』と話すので、私が『でも、あなたは以前はいろんな意見に耳を傾けていたじゃない』と告げると、彼女は『いいえ、その点を変えなくてはならない』と言っていた」

出会い系サイト「Dating.com」を利用している独身者の48%は政治的に異なる見解を持つ相手とデートをするなど考えてもいない。同サイトの副社長マリア・サリバンはそう言う。彼女によると、第3四半期では、支持政党を基にした相性検索が51%増えた。また、出会い系サイト「OkCupid」のグローバル・コミュニケーションマネジャーのマイケル・ケイは、同サイトの政治的スクリーニング(ふるいをかける)の質問には1億回以上の回答があったと言っている。(抄訳)

(Nicole Pajer)©2020 The New York Times

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