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イベントもスポーツも 進む消費のオンライン化、課題は「五感」

World Now 更新日: 公開日:
LEAN BODYがサービスを開始した令和版ビリーズブートキャンプ=同社提供

コロナ危機ですっかり変わってしまった日常。ショッピングやエンターテインメント、運動、働き方など、影響は多岐にわたっている。良い面もあれば悪い面もあるこの変化を、いったいどう見ればいいのだろうか。(目黒隆行)

■オンラインで五感をどう刺激する

多くのイベントが中止や延期となる中、音楽ファンの注目を集めたのが、サザンオールスターズが6月に開催したオンラインの無観客ライブだ。1万7000人収容可能な横浜アリーナを舞台に、アンコールを含めて22曲を熱唱。ABEMAなど八つの配信メディアを通して中継され、3600円の配信チケットを約18万人が購入した。観客はPCやスマホで視聴し、コメントを書き込むなどして参加。未来のエンターテインメントの形を見せてくれた。

野球やサッカーでも、ファンがスマホなどでメッセージやスタンプを送れるといった参加型の配信サービスが始まった。

ニッセイ基礎研究所の主任研究員・久我尚子さん(44)は「ネットショッピングがさらに加速し、診療やフィットネス、学習塾など、これまでリアルでのサービス提供が当然だと思われていたものが一気にデジタルにかじを切った。リアルとデジタルのどちらでもサービスを提供しているものを消費者は選びやすい。裏を返すと、店舗でしか対応していない形だと消費者に選ばれにくくなっている」と話す。

ニッセイ基礎研究所の久我尚子さん=本人提供

消費行動のオンライン化が進むいっぽうで、失われているものがあるという。「デパ地下でおいしそうなにおいに誘われてつい買ってしまうとか、ショップの店員が勧めてくれた服を着てみたらコーディネートが良くて衝動買いしてしまうとか、そういう五感を使う機会が失われている」と指摘する。

そうした点からも、ライブのオンライン化には期待感をもって注目しているという。「大勢で一体感を得られる楽しさもライブやスポーツ観戦の醍醐味。音楽やスポーツは、コンテンツそのものに『ライブ感』があるので、コロナ危機で失われてしまったものへの人々の欲求にマッチしている」。

■リアルとのすみ分け

密を避け、家にこもっていると気になるのが運動不足だ。緊急事態宣言下でフィットネスジムに代わり注目を集めたのが、オンラインのフィットネス。ただ、両者は必ずしも競合関係にはないという。

オンラインフィットネスのベンチャー・LEAN BODYは4月、「令和版ビリーズブートキャンプ」のオンライン配信を開始(6月にはDVD版も発売)。2000年代にブームになったあの「ビリー隊長」の再来とあって、各種メディアにも取り上げられた。コロナの影響で外出を控える動きが強かったこともあり、同社の新規ユーザー数はこの前後で一気に21倍になったという。代表の中山善貴さん(27)は、「フィットネスサービスの利用率は日本は4%だが、米国や北欧では約20%。普及するのは時間の問題だと思っていたが、コロナの影響で一気に時間が進んだ」と話す。

LEAN BODY代表の中山善貴さん=同社提供

LEAN BODYのサービスは、録画したフィットネス動画の配信だけではない。「一体感」を得られるようライブ配信したり、ユーザーに合わせたスケジュールを組み立てたり、消費カロリーを「見える化」したりするなどして、取り組みを継続させる工夫を続けている。「24時間いつでもどこでも、人と会わずに、人の目を気にせずにトレーニングできる。しかも安く提供できるのが強み」と中山さんは話す。

7月にはスポーツクラブ「メガロス」の運営会社と業務提携契約を結んだ。「オンラインは朝晩やすきま時間での利用が多く、雨の日でも自宅にいながらできる。気分が乗ったときはジムに行って時間をかけてしっかり、といった具合にすみ分けができている。『競合』ではなくて『共存』。リアルとオンラインの二つを組み合わせることでフィットネス習慣をより強固にできる」と中山さんは話す。

■リモートワーク、恩恵は一部

コロナ危機で一気に広まったリモートワーク。だが、それができるのは恵まれた立場の人だけなのかもしれない。大手人材サービスグループのパーソル総合研究所の調査によると、4月の緊急自体宣言直後のリモートワーク率は27%にのぼった。ただし、これは正社員に限った数字で、非正規の働き手になると17%と、10ポイントの差が生じている。

みずほ総研の主任エコノミスト・小寺信也さん(34)は「リモートワークはコロナを機に『爆増』したが、そもそもそれができる人は、大企業の事務職をはじめ仕事環境や働き方を柔軟に調整できる立場の人。調整できない働き手には非正規が多く、所得も正社員と比べて低い」と話す。

みずほ総研の小寺信也さん

加えて、コロナで大きく影響を受けた業種として、旅行、宿泊、外食、娯楽を挙げ、「大幅に売り上げが落ち込んだこれらの業種は非正規が多く、仕事の性質からも在宅勤務は難しい」と指摘。「コロナショックは、柔軟な働き方ができず、もともと所得が低い非正規に最も深刻な影響を与えている。正社員と非正規の格差拡大を助長する要因になる」と話す。

さらに、小寺さんは7月に公表したリポートで、今回の危機で減少が見込まれる雇用者報酬は、政府による1人当たり10万円の特別定額給付金によってマクロで見れば相殺されるとしつつも「各家計に与える影響は一様ではない」と指摘。特に影響の大きい働き手として自営業やパートタイム労働者、飲食・宿泊・娯楽業などの就業者を挙げ、「相対的に所得水準が低い家計への影響が大きいことは、格差拡大に繋がる可能性が高く、低所得者層にターゲットを絞った政策対応が求められる」と指摘している。